新しい天狼院書店は「寿命100年時代にその街の知を担い続ける書店」でありたいと思う。《天狼院通信》
記事:三浦崇典(天狼院書店店主)
「100店舗ですか!?」
いつもは笑顔を絶やさない、トーハンの東京支店長のTさんが流石に声を上擦らせて言った。
はい、と僕は当然のようにうなずく。
令和元年初月、5月31日オープンさせる、天狼院の新型店「天狼院書店プレイアトレ土浦店」についての打合せをしている最中のことだ。
いわゆる「土浦型天狼院」を、僕らはこれから全国に100店舗作りたい。
そう僕が言ったことに対する反応だった。
冗談ではなく、僕はどこまでも本気だった。東京天狼院や福岡天狼院、京都天狼院は、都市型の天狼院である。そして、東京はゼミの本拠地、福岡天狼院はクリエーターズ・カフェ、京都天狼院は京都祇園の只中にある町家を改装したブックカフェと、まったく異なるタイプの店となっている。
いい意味でも、わるい意味でも、「本屋じゃない」とよく言われる店だ。
ところが、今回の新型店舗「天狼院書店プレイアトレ土浦店」は、天狼院書店始まって以来の「オーソドックスな新刊書店」である。
POSレジがあり、売れ筋の新刊配本があり、コミックの売り場があり、参考書売り場(赤本もある)があり、雑誌、文芸書、文庫、新書があり、実用書があり、そして児童書がある。
特記すべきは、カフェがないことだ。売り場面積60坪の悉くを本で埋め尽くしている。
変形すれば、40席のイベントスペースも作れるが、普段は、通常の書店にしか見えないようになっている。
売場だけでなく、売上目標の比率からしても、それが顕著である。
目指しているのは、書籍(雑誌も含む)の売上90%の書店。
イベントの売上目標は、10%ほどでしかない。
そうなると、イベント、カフェの売上割合が大きい都市型天狼院よりも、はるかに粗利率が低い書店となる。
なぜなら、粗利率が25%以下の書籍の売上割合を増やせば、全体の粗利率が下がることは自明のことだからだ。
しかし、この「粗利率を下げる」ということこそ、僕が数年前から業界紙の「新文化」さんや様々なメディアで言っていた目標だった。
それは「数多くの本をお客様にお届けします」という宣言でもある。
今、書店に限らず、小売業の多くは、「モノ消費からコト消費」へと志向を変えているという。
天狼院は、コト消費、の代表のような見られ方をする場合があるが、僕は戦略としてそこを目指したことは、一度もない。
結果的に、「今の段階では」コト消費の割合が予定よりも多いという程度のことである。
重要なのは、お客様が何を欲するかであって、僕らはお客様が体験型のサービスを欲することが多かったので、それに合わせて業態を変化させた。
人口14万人、乗降客数1日32,000人の土浦という街の、しかも駅に隣接する書店はどうだろうか。
おそらく、純粋に本を求めるお客様が、想定する以上に多いのではないかと思っている。
しっかりと、お客様のニーズに合わせて、お客様の声に耳を傾けながら、書棚を構築していけば、いい書店になるのではないか。
ここで言うところの「いい書店」とは、土浦や土浦駅を利用するお客様に必要とされる書店のことだ。
僕らが創りたいのは突飛な書店ではなく、次世代にも街の人に必要とされる書店だ。
その街の人に末永く必要とされる書店だ。
寿命100年時代に、その街の知を担い続ける書店である。
それが、僕らが用意する新型書店である。
ただし、ここで断っておかなければならないだろうと思う。
僕らは、今回、初めて「オーソドックスな新刊書店」を手がける。
おそらく、他のメジャーな書店さんよりも、商品調達能力が劣るだろうと思う。
なぜなら、書店業界には「ランク配本」というものがあって、新参者には非常に厳しいシステムになっている。
大手の老舗には多くの人気書籍が入るが、街の小さな書店には入りにくい、というシステムだ。
街の人がたくさんほしい、と思っても、用意できないことがある、ということだ。
ただし、このシステムは基本的に「実績」に基づく、というルールがある――
それなので、土浦に住むお客様や土浦駅を利用するお客様にお願いしたいことがあります。
より多くの本を「天狼院書店プレイアトレ土浦店」でお買い求めください。
そうすると、その街の力で、その書店の「ランク」を上げることができます。実績が積み上がるからです。
数年かけて「ランク」を上げると、より充実した書店になります。
みんなが本を買う書店は、みんなが欲しい本が並ぶ書店になります。
みんなが欲しい本が並ぶ書店がある街は、いい街になるとは思いませんか?
たしかに、図書館で買ってもいいでしょう。
僕も、学生のころは、図書館を多く利用しました。
けれども、今、大人になって、給与の1割以上を書籍を買うことに費やしています。
それは、業界人だからではありません。
書籍を買うことが、書籍を読むことが、自分の財産になることをこれまでの人生を通して体感しているからです。
令和元年5月31日に、天狼院書店アトレ土浦店は、赤ん坊として誕生します。
身勝手を承知で言わせてもらえれば、この新型書店を育てるのは、みなさんです。
みなさんが本を買えば、この新しい可能性を秘めた書店は、すくすくと育つでしょう。
そして、数年後に、街に根付き、とてもいい書店となって、みなさんに大きな恩返しをするでしょう。
土浦が、いい書店がある街であり続けるでしょう。
僕らは、みなさまに育てられようと、覚悟しています、へんな言い方になりますが。
それですので、ぜひ、書店のスタッフに、ご要望を多く言ってください。
僕ら、天狼院書店は、とても変わった書店で、積極的にお客様に話しかける書店です。
ですので、話しかけられると、スタッフはとてもうれしく思います。
もちろん、すべてを叶えることは無理でしょうけれども、少なくとも、実現できるかどうか、真剣に考えることはお約束します。
僕らはどの街でも、お客様の要望をお聞きして、成長させてもらいました。
この新型書店でも、それができると思っています。
また、出版社の皆様へ、著者の皆様へ、お願いがあります。
僕ら、天狼院書店は、小さいながらも全力で大きなリスクを背負い、この可能性をオープンさせます。
僕らを、信じてもらえませんでしょうか?
僕らに、土浦のお客様に多くの本を届けさせてもらえませんでしょうか?
ランクやその他の慣習以上に、必要なことがあるはずです。
それは、新しい可能性にかけてみることです。
正直言ってしまうと、僕らは天狼院書店プレイアトレ土浦店を失敗すると、事業の継続が難しくなるだろうと覚悟しています。
けれども、そうならないとも考えています。
なぜなら、皆様がこの新型店の必要性を、感じてくれると信じているからです。
こんな書店、自分の故郷の街にもあればいいと考えてくれると信じているからです。
けんもほろろに注文を減数することなく、どうか、配本をお願いします。
トーハンさんに僕が言ったことは、嘘ではありません。
僕はこの新型店を、全国に100書店創ろうと考えています。
寿命100年時代に街の知を担う書店を、必要とする街が、100はあるだろうと考えています。
そうなったときに、出版界にも、大きく恩返しできると思っています。
天狼院書店の1店舗目が東京池袋に小さなスペースでオープンしてから5年半が経ちました。
なんとか、僕らは生き延びることができました。
これからは、皆様に恩返ししつつ、様々な街で価値を提供し続けられる書店でありたいと思っております。
また、最後に、今回も何もわからない僕らを全面的にサポートしてくれたトーハンさん、大きなチャンスを与えてくれた、JR、アトレの皆様に感謝申し上げます。
必ずやご期待に応えられるよう、未熟ながらもスタッフ一同、全力を尽くす覚悟です。
どうぞよろしくお願いします。
令和元年5月29日
天狼院書店店主
三浦 崇典
❏天狼院書店プレイアトレ土浦店《2019年5月31日(金)10:00 OPEN》
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2階
TEL.029-835-3000営業時間
7:30~22:00
■ライタープロフィール
三浦崇典(Takanori Miura)
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。小説家・ライター・編集者。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版。ソニー・イメージング・プロサポート会員。プロカメラマン。秘めフォト専任フォトグラファー。
NHK「おはよう日本」「あさイチ」、テレビ朝日「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、日経雑誌『商業界』、雑誌『THE21』、雑誌『散歩の達人』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。雑誌『週刊ダイヤモンド』『日経ビジネス』にて書評コーナーを連載。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」講師・三浦が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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