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天狼院通信(Web READING LIFE)

次は、僕らだ。〜『コーヒーが冷めないうちに』の0.1%の圧勝〜《天狼院通信》


 

記事:三浦崇典(天狼院書店店主)

あまりそうすることはないのだが、先日、自分が書いた過去の記事を読んでみた。
今から3年前、2015年にアップされた記事だった。
タイトルには、こうあった。

 

読み通すまでに3度泣き、静かに、1,000冊買い切る覚悟を決めた。

【5代目天狼院秘本/通販開始】読み通すまでに3度泣き、静かに、1,000冊買い切る覚悟を決めた。《通販ページ》

 

川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版)を「5代目天狼院秘本」に決めたときの記事だ。
今、ちょうど全国の映画館で上映されている『コーヒーが冷めないうちに』は、まだ本になる前に、僕は読ませて頂いている。

また、全国の書店さんに先行して、2015年11月の「天狼院の大文化祭」において、そのステージ上で「5代目天狼院秘本」として売られたのが、あるいは『コーヒーが冷めないうちに』が読者の皆様の手に渡った最初の機会だったかも知れない。

とすると、あのステージ上で「5代目天狼院秘本」を買った最初の一人が、後にシリーズで100万部を超えることになる、『コーヒーが冷めないうちに』シリーズの最初の1冊を買った人ということになる。

そう、『コーヒーが冷めないうちに』は、シリーズで100万部を超えたという。

天狼院書店で買い切った1,000冊は、初版7,000部程度だったと思うから、当初は全体の14%ほどだった。
徐々に世に受け入れられ、重版を重ねるに連れて、天狼院の1,000冊のパーセンテージは相対的に低まっていき、シリーズで100万部を超えたということは、天狼院書店で買い切った最初の1,000冊は、全体の0.1%ほどになったということだ。

これほどに嬉しいことはない。

たとえば、これが重版を一度もすることがなく、14%のままならば、僕の目利きの力が弱かったということだ。

今、おそらく、世の中の多くの人が、『コーヒーが冷めないうちに』を3年前に5代目秘本に選んだことすら知らない。
また、関係者でも、そのことをすっかり忘れている人もいるだろう。

僕はそれでいいと思っている。
忘れられることが、勝利だと思っている。

もはや、圧勝である。

『コーヒーが冷めないうちに』がシリーズで100万部を超え、映画化したきっかけが、5代目天狼院秘本だったとは言わない。
なぜなら、作品の質が圧倒的だったゆえであり、また、サンマーク出版の皆様の尽力の賜物だったと心底思っているからだ。

僕の元に、運よく、『コーヒーが冷めないうちに』の本になる前の原稿が届けられ、運よく、最初の1,000冊を売らせてもらうことになっただけのことで、おそらく、サンマーク出版の方は、

「おれが『コーヒーが冷めないうちに』をヒットさせてやったんだ」

と言う書店の人を、全国に無数にこしらえたのだろうと思う。

僕は、その中の一人に過ぎない。

幸い、僕は作者の川口俊和さんとも親しくさせてもらえるようになり、実は、2018年の年越しは、川口さんはお客様の一人として、京都天狼院で僕と一緒だった。天狼院のお客様として、様々なイベントにも参加してくれて、今では大変忙しくなられてしまったが、はじめのころは、毎週のように天狼院に来てくださっていた。そこで、原稿を書いていたりした。
その当時、僕はちょうど『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を書いていたので、キャラクターの作り方など、様々相談に乗ってもらったように思う。

『コーヒーが冷めないうちに』がベストセラーに成長する物語を、ストーリーのはじめから間近で見させてもらった。

もちろん、サンマーク出版の方々の影での尽力は、おそらく、僕が想像をするはるか上を行っていただろう。
けれども、文芸が強いわけではない出版社で、100万部の小説を出すことが可能だということを、勉強させて頂いた。

そして、今日、僕は映画『コーヒーが冷めないうちに』を池袋の映画館に一人で観に行った。

スタッフを引き連れて行こうかとも、ダメモトで、川口さんを誘って行こうかとも思ったが、様々な想いが交錯する作品だったので、あえて、ひとりで行った。
映画を観ている間中、『コーヒーが冷めないうちに』のことを考えていた。

なぜ、この難解な条件が邪魔にならないのか。
なぜ、様々なエピソードが連なるのに、クライマックスを高く持っていけるのか。
なぜ、この作品がこれほど多くの人の心を打つのか。

映画は、原作とは違っていた。
まるで異なるアレンジがされていた。

それがとてつもなく、よかった。

そして、僕は嫉妬した。

自分の作品が、多くの人の手によって、ある部分、ある意味、”昇華”されたのを観たとき、原作者の川口さんはどう思っただろうか?

おそらく、想像を絶する、その人にしかわからない快楽を覚えたのではないかと思う。

川口さんがおそらく感じた、快楽を、僕も味わいたいと心から思った。

嫉妬しながら、映画を観終えるまで、僕は4度泣いた。

そう、原作を読んだときより、多かった。

ひとりで来てよかったと、思った。

映画館の8階から降りるエレベーターの中には、カップルを中心に今映画を観た人でいっぱいだった。

「もう、最初から泣いてたよね」

カップルの彼女の方が彼に言っていた。

「最初からやばかったからね」

と、言われた彼氏が爽やかに笑っていた。

そのとき、僕が

「原作者の川口さんを僕はよく知っているんですよ」

とか、

「この作品、5代目天狼院秘本だったんですよ」

とか言ったところで、おそらく僕は変なオジサンがなんか言っている、と冷たい視線を集めただろう。

実際に、『コーヒーが冷めないうちに』が大ヒットし、映画化したのは、僕らの力によるものでは決してない。

ただ、間違いなく、言えることがある。

誰よりも早くこの作品をいいと断言し、資金もまともにないくせに、発売前に1,000冊を買い切ったという事実だ。

この事実を、誰も否定できないだろう。

成り行き上、エレベーターの中で、操作盤の近くに僕がいたので、「開」ボタンを押し続け、カップルたちの会釈を受けながら、僕が最後に出た。

外は、もう肌寒かった。

複雑な思いだった。
喜びなのか、嫉妬なのか、もはやわからなかった。

けれども、一歩、池袋の夜に足を踏み出したときに、自然とこう思った。

次は僕らだ。

思ってから、思考が追いついた。
そう、僕らは川口さんとサンマークさんに、間近で見せてもらった。
そして、僕には、どうやら100万部を見抜く目があるようだった。

次は、僕らだ。

今度は揺るぎない自信でそう思った。

 

■ライタープロフィール
三浦崇典(Takanori Miura)
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。小説家・ライター・編集者。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版。ソニー・イメージング・プロサポート会員。プロカメラマン。秘めフォト専任フォトグラファー。
NHK「おはよう日本」「あさイチ」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、日経雑誌『商業界』、雑誌『THE21』、雑誌『散歩の達人』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。雑誌『週刊ダイヤモンド』『日経ビジネス』にて書評コーナーを連載。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」講師、三浦が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2018-10-08 | Posted in 天狼院通信(Web READING LIFE)

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