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週刊READING LIFE vol.14

狂ったように描きまくる≪週刊READING LIFE「今年こそは!」≫


記事:北村涼子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

狂いたい。
四六時中、狂ったように描きまくりたい。
描いて描いて描きまくりたい。
体の芯から叫びが聞こえる。
今私がここまで狂いたい願望を持つようになった経緯を披露させていただく。

今から25年程前、大学受験の際、特に勉強したい学部も学科もなく適当に「文学部 日本文学科」を選んだ。
と、言うか、まぁそこしか受からなかったわけで「選んだ」とは言えないが。
その学科には「書道コース」というものがあった。
幼い頃から書道を習っていたこともあり、それ以外に興味をそそられるコースもなかったので「これでいっか」なんて軽い感覚で決めた。中学高校教師の免許も取れるしね、と。

私は大学というものはアルバイトに精を出し、遊びを覚えるために行くものだと相当ド阿呆な考えを持っていた。
なのでいかにラクして単位を取るか、ということばかり考えていた。
よって、好きな書道をしていたら単位が取れて、教員免許までついてくるなんてラッキー! と思いながら大学に通うことになる。
現実はもちろんそんな甘いものではなくド阿呆な私は在学中に思いっきり頭を打たれたんだが。
それはそれで「学び」ということでヨシとした。

そんな大学で私が出会ったひと。
「篆刻」という授業の中国人の先生。
先生は中国と日本を行き来されていて書画に関してとてもえらい先生であった。 そして、その先生の水墨画の教室に個人的に通うことになった。
そう、ここで私は「水墨画」に出会う。
大学を卒業すると同時に書道は私の手から遠のいた。興味が一切なくなったのだ。でも水墨画は続けていた。描いていて面白かったから。墨の濃淡が思い通りに出た時の快感がたまらなかったから。字を書くよりも絵を描いている方が断然楽しかったから。
それでも教室が遠かったせいもあり、社会人の忙しさを理由に2.3年すると自然とこちらも足が遠のいていった。

それから約10年間程、筆の存在さえ忘れるぐらい「描きたい熱」は全くのゼロとなる。
ゼロなのに、突然また出会いがやってくる。
「写仏」というものに。
東寺の十二支天像を描き写していくことにドはまりしていった。
と言っても仕事、家事、育児の間に月に2回教室に通って、そこで2時間集中して描いている、という軽い感じではあったけれど。
その時間が面白くて楽しくて、心がふわりと解放されて、自分の全部が喜んでいる感覚に陥っていった。
筆と墨と紙に集中して向き合っていく。描いているものがたまたま仏さまであって、そのたまたまの対象物にどんどん惹かれていった。
日々の忙しさから逃げようとしていたのか、日々の煩わしいことを考えない瞬間が欲しかったのか、小筆に集中力を一点に注いで描いていた。
自宅で描くこともあった。そんな時はふと気がつくと4時間ほど知らぬまに経っていたり、「あ、息するの忘れてた」と気付く時もあったり、一本一本の線に集中していた。

しかし、またまた2年ほど空白の時ができる。
教室に通う時間も作れなくなり遠のいていった。でもやはり心のどこかにはいつも「描きたい」という思いがあった。
「でも時間がない」とすぐに言い訳をしてその場をしのいでいた。

そして、また突如として描きだした。
どうも仕事で行き詰ったり、人間関係で必要以上に悩んだり、苦しい時に描きたくなるらしい。
その時は、「仕事を辞めてひたすら描き続けよう」と本気で思い、本当に退職した。
小さなシェアアトリエなんてものも借りる手続きまで始めていた。
描いて描いて描きまくろう、と。
何につながるか全くわからないけれど、自分を解放させて気が済むまでひたすら描こう、と思っていた。

それがだ、やはり現実を考えるとお金にならないことに没頭するほど我が家は裕福でないことに気付いた。
いや、もともと知ってはいたが、気付かぬふりをしていた。
「なんとかなる」と思い込もうと必死になっていたのか。
そしていよいよシェアアトリエの契約、という寸前に私はやはりもう一度サラリーマンとして働くことを選んでしまった。せっかく前職を辞めたのに。
「お金にならないことに没頭するのにはまだ若すぎる」と周囲から言われて思い直し、「そんなものは趣味で続ければいい」と言われた言葉に納得して。そう、趣味を仕事にするなんて器用なことが私にできるはずもないし、と。

あれから約2年が経つ。
やっぱり、あかん。また出会ってしまった。
「龍」を描くこと。

いつもいつも、ずっとずっと、心のどこかに「描きたい」気持ちがあるのだろう。
大学を卒業してから20年。要所要所でひょっこり出てくる。
「筆!! 筆どこやった!?」と探す瞬間。
「描きたーーーーい!」という気持ち。
そして描き始める。あっという間に4時間5時間が過ぎてしまう。
でも、そんな時間を毎日確保できない。仕事、家事、娘の相手、フラストレーションがはちきれそうになる。

常に「時間が無い」ということを理由に描きたい熱を下げてきた。
もういい加減この中途半端さから脱出したい。脱出しなければならない。
やらなかったことに対していつまでも後悔し続ける。やったことに関しては反省はあっても後悔は一切残らない。
今の私は「後悔」だらけ。
納得いくまでやっていないから。中途半端な自分しか見てきていないから。
今年こそ、やらないと。じゃないと永遠に後悔し続ける。

やるぞ、狂うぞ、描きたいもの、全部描いてやる。
仏でも龍でもなんでもこい。
描くことに集中しすぎて仕事に行くことを忘れた時には、辞表を提出しに会社へ行こう。

❏ライタープロフィール
北村涼子
1976年京都生まれ。京都育ち、京都市在住。
大阪の老舗三流女子大を卒業後、普通にOL、普通に結婚、普通に子育て、普通に兼業主婦、普通に生活してきたつもりでいた。
ある時、生きにくさを感じて自分が普通じゃないことに気付く。
そんな自分を表現する術を知るために天狼院ライティングゼミを受講。
京都人全員が腹黒いってわけやないで! と言いつつ誰よりも腹黒さを感じる自分。
趣味は楽しいお酒を飲むことと無になれる描きモノ。

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2019-01-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.14

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