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週刊READING LIFE vol.6

「ただいま」って言いたくなっちゃう肉うどんとは《週刊READING LIFE vol.6「ふるさと自慢大会!」》


記事:よめぞう(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

「これなんよ……美味しいとかじゃないんよ」

「え? このうどんめちゃくちゃ美味いやん?」

「そうじゃなくて! ああ、これなんよ……ただいま」

旦那とお付き合いをしていた時のこと。恍惚の表情でうどんをすする彼に、私は衝撃を覚えた。ラーメンや、もつ鍋……福岡には「美味しいもの」が多い。ラーメンが麺類で取り上げられることが多いけれど、福岡はうどんも美味しい。飲んだ〆にガツンとラーメンも最高だけど、さっぱりとうどんで〆るのもまた良い。
美味しいものを食べて「言葉が出なくなるくらい美味い」ということはこれまでの人生の中で経験したことはあった。けれどもエクスタシーを感じながら「ただいま」なんて、食事しながらいう人は見たことがなかった。しかも、福岡に住んでいる人なら食べ慣れているはずの「うどん」で。
確かに、西新にある「天ぷらうどん」の肉うどんは絶品だった。
甘辛く煮た牛肉とうどんの絡みは絶妙だ。アツアツのうどんを口に入れると、幸せが口いっぱいに広がっていく。うどんに、自家製のキムチを入れながら食べると、さっぱり系のうどんが、ラーメンにも引けを取らない「ガツンとした」スタミナ満点のうどんに進化する。甘さと辛さのハーモニーが心と体を芯から温めてくれる。物心ついた時から、福岡に住んでいる私でも確かに「5本の指に入る」くらいの美味しいうどんだった。
いくら美味しいとしても! 彼の、この「肉うどん」に対する愛は異常なほどだった。恋人の私ですら、こんな「ウットリ」とした表情をされたことはなかった。思わず嫉妬したくなるくらいに、彼はうどんを「愛でながら」食していた。

「学生の時にさ、よく来てたんだよ。昔は野菜天うどんばっかり食べてたんだ」

ふと、箸を休めて彼は言った。ずっと「地元」から出たことない私と違って、彼は高校卒業を機に、進学で東海から誰も知り合いのいない「福岡」にやってきた。初めての土地、初めてのひとり暮らし、初めて知り合う人……きっと不安だっただろう。たくさんの「はじめて」と向き合っているとき、バイト帰りに彼はこの店によく来ていたそうだ。
1杯のうどんが、こんなにも人を幸せにするだなんて思ってもいなかった。ましてや、自分が住み慣れた土地の食べ物が、遠く離れた地からやって来た青年を癒やすほどの力があるだなんて、意外だった。そんな「うどん」がある、福岡に生まれた事を、私は誇りに思った。
それからも、私たちは定期的に「幸せになれるうどん」を求めて「天ぷらうどん」に通った。仕事が遅くなった日、食事が作れないくらい思いつめた時、夜にドライブに行ったついでに……1杯の肉うどんを通じて、私たちはたくさんの思い出を作っていった。結婚してからも、それは変わらなかった。家から車で40分程かけてでも、定期的に「幸せな気持ち」を求めてうどんを食べにいった。
けれども、ここ2年は「天ぷらうどん」からは、足が遠のいてしまった。
子供が産まれると「どこでも簡単に外食」は行けなくなる。カウンター席と、大きなテーブル席が1席しかない「天ぷらうどん」には、流石に小さな子供を連れていくには困難だ。家族でお出かけの時、何度店の前を通っただろう。店の外観を見るだけで、口の中であの甘辛い肉の味が広がっていくのがわかる。舌が、あの絶妙な辛さのキムチの味を忘れてはいなかった。気づけば、私もあの「肉うどん」に何度も支えられて、ここまでやって来たのかもしれない。
だいぶ、子供も大きくなって来た。麺類が大好きな私たちに似たのか、娘もうどんが大好きだ。「ちゅるちゅるー」と言いながら幸せそうにうどんを頬張る姿は、どこか旦那のそれにちょっと似ているような気がした。そろそろ、久しぶりに「天ぷらうどん」に里帰りしようと思う。あえて大盛りにして、たっぷりのキムチを入れながら、大好きな肉うどんを心ゆくまで堪能したい。
もちろん「ただいま」というのも忘れずに……

❏ライタープロフィール
よめぞう
1988年、福岡県生まれ。
福岡女学院大学人文学部英語学科卒業。
大学を卒業後、自動車ディーラーで5年間営業職として勤務。1年間の育児休業を経て「戦う子連れ兼業主婦」として日々奮闘する傍ら、天狼院書店で「モノカキ」の修行中。
お酒と深夜のオンラインゲームが大好き。

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2018-11-12 | Posted in 週刊READING LIFE vol.6

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