fbpx
週刊READING LIFE vol.12

色気を感じない人とは、付き合うことが出来ない《週刊READING LIFE「大人の色気~フェロモン、艶っぽい、エロい…『色気』とは一体何なのか?~」》


記事:弾歩夢(READING LIFE編集部 公認ライター)

 

 

「やっぱり、自分にとってのイロケを感じない人と付き合うことは出来ないと思うんだよね」
 
それは、まだ私が20代前半の頃だった。
中学生の頃から仲の良い友達のアカリとバーで飲んでいた。
スペイン料理を出すそのお洒落なバーに2人で入るのは少し勇気が必要だった。
真っ赤な壁に合わせて選ばれたインテリアは、どれも程よくポップで、それなのに子どもっぽさが全くなく、センスがあるとはこういうことを言うのだろうと思った。
 
赤ワインを大事に、ゆっくり飲みながら、私は珍しくアカリに恋愛相談というやつをしていた。
 
アカリは 、モテる女の子だった。
中学生の頃から、美人で、優しくて、人を立てるのがうまく、聞き上手で、控えめで、そしてやっぱりとにかく美人な彼女は、モテていた。
 
対する私は、学級委員に投票で選ばれては真面目に学級会に参加しない男子を怒鳴っているような、うるさくて、出しゃばりで、可愛さのない、全然モテない人間だった。
それは、大人になってからも同じで、アカリはとにかくいつも恋愛を抱えながら生きていた。恋愛していない時がないように思えた。
残念ながら、私の人生に恋愛が登場してくることは、稀にしかなかった。私は、誰かを好きになることも珍しく、誰かに声を掛けられることもあまりなく、恋バナが出来ないタイプの人間だった。
 
いつも、恋愛をしているようなのに、アカリは自分の恋愛事情をひけらかさないタイプだった。というよりも、むしろ、簡単には明かさない人だった。
なんとなく、彼女が恋をしていることを悟って、こちらが聞き出すまで、絶対に何も言わない。それは、もしかしたら、全く恋愛に縁のない私に対しての、優しい彼女の配慮もあったのかもしれないが、それだけじゃないように思う。
多分、彼女は恋多き人だったけれど、いつでも恋に対してピュアなタイプだったからそうだったんだと思う。
誰かに自慢するために恋をするということがなかった。
 
私たちは、中学校を卒業してから、一度も同じクラスにはならなかったけれど、どちらからともなく誘いあって、たまにご飯を食べに行っていた。そして20歳を超えると、飲みに行くようになった。
大人になって、私もたまにはデートをするようになり、人と付き合うようになったけれど、それでも、アカリとは、恋の話はほとんど全くしなかった。
 
恋以外の話は、全部したんじゃないかというくらいしていた。
くだらない日常の疑問とか、劣等感の話とか、密かなる野望とか、そんな誰にも出来ない話が、アカリとは出来た。彼女はいつもしっかり聞いてくれて、彼女の言葉で話してくれた。無理に話を合わせるでもなく、全部を受け入れるわけでもなく、違うと思ったら違うと思うと言い合えた。冗談も延々続けられた。多分、気が合うとはこういう事をいうんだろうと思った。何時間でも、話していられた。
 
私が彼女に恋愛の話ができなかったのは、とにかく恥ずかしかったからだった。
どこからどうやって話したら良いかわからなかった。
明らかに恋愛経験豊富な彼女に対して、いつも戸惑ってばかりの恋愛偏差値の低い私の話をしたところで、きっと面白くないだろう、と思った。
そんな当たり前のことで、くだらないことで悩んでいるの? と思われるに違いないとどこかで思っていた。
今、考えてみればそんな訳が無い。アカリは、そんな人ではない。人をバカにすることはないし、どんなことでも真剣に悩んでいるのだと伝えれば、同じように真剣に捉えて返してくれる。だから、恋愛のしょうもないようなことでも、きっと受け止めてくれたはずなのだ。
それでも、そう出来なかったのは、単に私のくだらないプライドのせいだった。つくづく弱っちい人間なのだ、私は。
 
しかし、その日。
お酒もだいぶん入っていて、そこは異世界で、心がふわふわと心地よくなっていた。ちっぽけなプライドなんて捨ててしまって、恋の話をしよう、したいと思った。
私はその時、ものすごく悩んでいたことがあった。
滅多にないことに、私はとっても素敵な好青年に、何故だかわからないが好意を持たれていた。とてもカッコよく、仕事も出来て、頭もよく、いい人だった。人に好かれることがそもそも滅多にない私は、その幸運をありがたく思いながらも、どうしてだか、その人と付き合いたいとは思えないことに悩んでいた。
こんなに私には勿体無いくらい素晴らしい人なのに、どうしたことか、なんでなのか。
私は、恋がしたかった。彼氏が欲しかった。さらには、好きな人や気になる人が他にいる訳でもなかった。
首を縦に振りさえすれば、彼氏ができる状況にいるのだ。そしてその人は世間的に見てもすごく良い人で、私もそう思っているのだ。
それなのにどうしてなんだろう。
あまりに釣り合わないから、不安になっているのだろうか。どうしてだろうか、と色々考えた。私はなんて欲張りなのか、と思った。でも、どうしても彼と付き合うということが想像できないでいた。
 
恐る恐る、アカリに話した。
この好青年は、もしかしたら私を友達と思っているのかもしれないけれど、でもどうもそうではなくて、恋愛を私としたいようで、話しづらかったけれど、一気に話した。
私ごときが、誰かに言い寄られていてなんて、そんなことを相談しているという状況が、なんだかもう心地悪い。こんな私なのに、ごめんなさいと思ってしまう。それに、もしかしたら本当は、あの青年はみんなに思わせ振りなことをする人だってことも考えられなくはないのだ。ただ、その可能性については、何度も何度も、細かな点を疲れるまで検討して、多分9割そうでないという結論を出していた。
 
その結果、アカリから返ってきたのが、
「やっぱり、自分にとってのイロケを感じないと付き合うことは出来ないと思うんだよね」
 
の一言だった。
 
イロケ。イロケという単語を全く使わない生活を続けてきたもので、最初、その言葉は漢字に変換されず、一瞬、思考が止まった。
間を置いて色気に変換されたその単語に、びっくりした。
 
色気なんて考えたこともなかった。
「色気を感じないと、いくらその人が良い人でも、カッコ良くても、好きにはならないものじゃない?」ということだった。
 
それまで色気というのは、私には無関係すぎる単語だった。
自分に色気がないことは、いちいち確認するまでもなかった。そして、色気のある先輩、ラテン系のセクシーさを振りまきながら生きている人が、周りにいないわけでもなかったが、彼らに憧れはあっても、自分とは違う世界の人だった。
 
色気、を感じるか感じないか。
 
それから、私は、街中でカップルを見かける度に彼らの中に「色気」を探すようになった。
彼も彼女もお互いに色気を感じている部分がどこかにあるんだろう。
でも、色気はなかなか見つからなかった。
露出の高い服を着ている女性が目を惹くのもわかる。
イケメンな男性には目がいく。
だけど、それは色気とは違う気がした。
ただ、アカリが発した言葉は、私の頭を離れなかった。
もしかして、色気の正体が掴めなければ、私はこれから恋愛できないのではないだろうか。
そもそも、これまで誰かを好きになった時、私は色気を感じただろうか。
正直なところ、よくわからなかった。
色気をキャッチ出来ないからそもそも、あまり恋をしないのではないか、と思った。
 
ある時、仕事仲間がたまたま私のデスクの前で電話しているのを聞いてしまった。それは勤務時間中で、私は自分の仕事を自分の机でやっていたので、決して私が悪いわけではないのだけれど、甘い声で、心配そうに電話する彼の声を聞いてしまった私は、ひどい罪悪感を覚えた。普段は、強い調子で交渉相手に向かっていく彼が、信じられないくらい優しい声で、語りかけていた相手は、奥さんだった。
そして、その彼の声の中には、確かに色気があった。声を聞いているだけで、なんだか溶けてしまいそうになった。そして、一瞬でもそんなことを思った自分にびっくりした。それまで彼にセクシーさとか、かっこよさとかそんなものを感じたことは一度だってなかった。もう何年も一緒に仕事をしているというのに。
 
そして思ったのだ。
色気とは、優しさだったり、愛しさだったりそういう暖かい気持ちが眼差しに仕草に、声に乗せられたものなんじゃないか、と。
意図せずそんなものが、ふっと一人の人間から発せられる瞬間というのがあるのではないか、と。
 
そして同時に思ったのだ。
結局、最初は他人でしかなかった人同士が、縁があって出会って、段々と惹かれていく時、どこに惹かれるかと言えば、結局は他者への暖かさだったり、優しさだったり、優しくあるための強さだったり、そういうところじゃないだろうか。
その人が持つ、人としての懐の深さ、心の優しさみたいなものに惹かれる。
だから、人は色気を感じる人しか好きにならない、いや、色気を感じてこそ人を好きになると言えるんじゃないだろうか。
 
段々と冬が深まってきて、寒くなる季節、そろそろ誰かの中に色気を見つけて、その虜になりたい今日この頃である。
でも、こういう結論に達したからには、まずは自分が色気を自然に発せられるよう、周りの全ての人達に、何に対しても優しく、暖かくありたいなんて、そんなことを思っている。
師走の忙しい時だからこそ!

 

 

❏ライタープロフィール
ライタープロフィール
弾歩夢(READING LIFE公認ライター)
長崎市生まれ。
ライターを目指している会社員。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜


2018-12-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.12

関連記事