週刊READING LIFE vol.12

色気の正体とは?《週刊READING LIFE「大人の色気~フェロモン、艶っぽい、エロい…『色気』とは一体何なのか?~」》


記事:松下広美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

 

あれ? この子、こんなにカッコよかったっけ?

 

土曜日の夜、テレビを見ていたときのこと。
テレビと見ていたとはいっても、じっと見入っていたわけではない。
ビールを飲みながら、スマホを見ながら、パソコンも広げながらと、すべて片手間状態だった。
パソコンの画面から、ふとテレビに目がいき、そのままテレビ画面に釘付けになる。

 

目が離せなくなったのは、ある俳優さん。
その番組のMCの人とたわいもない話をしているだけなのに、かっこいい。
テレビに出ている人は、かっこいい人が多い。でもその人は、今まで「かわいい」寄りでかっこいいと思ったことはあったけれど、そのときは色気があってかっこいいと思った。
この子、いくつになったんだっけ?
弟よりも更に年下であろう、その子の年齢を手元のスマホで調べる。
あー、30になったんだ。
そっかー。だから色気も出てきたんだなー。

 

 

男性が、急にかっこよく見えて色気を感じる瞬間がある。
特にアイドルと呼ばれる子たち。
そりゃ、素材がいいんだから当たり前だよ、と言われるのはしょうがない。もちろん、アイドルとしてデビューするには、かっこいいことが大前提にある。でも10代だと、どんなに色気を出すような演技をしても、どうしても「かわいい」と思ってしまう。当然、自分が同年代だったときはかっこいいと思っていた。でも、その歳を通り越してしまうと、かわいく見える。
それなのに、急に「色気出てきたなー」と思うときがある。
その瞬間が30歳あたり。
まぁ、勝手な偏見なので、特にその考えを他の誰かに話すこともなかった。

 

そりゃ、芸能人だから、素材がいいからだよ、ということは否めない。
だって、隣の席の課長(50歳)をかっこいいと思ったことはない。
「なに? なんか用?」
そう言われるくらいじーっと見ていたけれど、色気なんて微塵も感じない。
アラサー男子が職場にいるので観察してみたけれど、色気を出しているような子は見当たらない。
やっぱり芸能人だから、かっこよく変化していくのかーと、納得をしていた。

 

ただ30歳を意識するあまり、確実に年々、恋愛対象の射程年齢が下がっているだけのことだった。

 

 

「フィルムカメラを手に入れたんですよー」

 

京都天狼院を訪れたときのこと。
関西ポートレート講座の講師である中尾先生と、女将の山中さんが大文化祭の映画撮影の打ち合わせをしているところに、偶然居合わせた。
打ち合わせの合間に、手に入れたばかりのフィルムカメラを見せる。

 

「まだ使い方がよくわからなくて」
「中判だと、ポラ切ってから撮った方がいいですよ」
「ポラ?」
フィルムカメラなんて今まで触ったことのない超初心者の私は、質問らしい質問もできない。それでも中尾先生はどんどん話してくれる。
昔持っていたカメラの話。
現像をするときの話。
ブローニーフィルムの話。
すごくもったいない話だ! 聞き逃さないようにしよう!
……と思ったのだがプロカメラマンの貴重な話の3割……いや2割も理解できていなかった。
理解できなさすぎて、途中から理解をすることを諦めた。
その代わり、ひたすら聞きに徹した。
ただ「わからないです」と言えなかっただけだったりもするのだけれど。

 

中尾先生の話は、理解できなくて記憶できていなくても、染みるようにすーっと言葉が入ってくる。ただ聞いているだけなのに、それが苦痛でもなんでもない。聞いていることが心地よく感じた。
自分に少しでも興味のあることだから、そう感じるのだと思った。

 

あれ? なんだ、この感じ。

 

淡々と話す中尾先生を見ていたら、ぐっと胸の奥をつかまれるような瞬間があった。
「惚れる」とか「恋する」とは少し違う、この色気。

 

色っぽい話など、一切していない。
中尾先生は、ひたすらカメラの話しかしていない。
それなのに、中尾先生からは色気を感じる。

 

どうしてだろう?

 

心地よく感じる人とそうでない人。
面白く感じる人とそうでない人。
色っぽく感じる人とそうでない人。

 

……あ!

 

この色気は、プロフェッショナルとしての姿なのだと思った。

 

プロとしての経験、知識、覚悟……といろいろなものを見せられる。
その姿は、静かだったり、熱かったり、飄々としていたりと、それぞれが違う姿だ。
でも奥底にある軸には、プロフェッショナルとしてのプライドを持っている。
しかも、そのプライドは自然なもので、見せつけられるというよりも、自然に滲み出てくるようなものだ。
プライドが見えることで、かっこよく感じ、色気を感じる。

 

中尾先生から色気を感じたのも、プロカメラマンとしての姿を目の前で見ることができたから。そういえば、ポートレート講座で撮影の姿を見せてもらえるときは、こちらがドキドキしてしまうくらいの色気を感じるなぁ、と思い出す。
テレビに映る芸能人も、きっと30歳を超えるあたりでその道で進むという覚悟ができて、デビューしたばかりの頃にはなかったプロとしてのプライドが生まれたのだろう。

 

バーテンダーがカクテルを作っているときの指先からも色気を感じた。
目の前でお寿司を握ってもらったときの、板前さんからも色気を感じた。
そういえば、素敵な文章を読んだときにも、行間から色気を感じることがある。

 

 

すべて、プロフェッショナルが作り出すことのできる色気なのだ。

 

 

隣の席の課長だって、普段はそうでもないけれど、専門分野の話をしてくれるときには、ちょっとはかっこよく見えるかもしれない。
話が長くなることは覚悟して、ちょっと質問してみようと思う。

 

 

❏ライタープロフィール
松下広美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
1979年名古屋市生まれ。名古屋で育ち名古屋で過ごす生粋の名古屋人。
臨床検査技師。
会社員として働く傍ら、天狼院書店のライティング・ゼミを受講したことをきっかけにライターを目指す。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2018-12-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.12

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