週刊READING LIFE vol.18

一日一食にすると、人生のコスパが上がる《週刊READING LIFE vol.18「習慣と思考法」》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大國沙織(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

あなたは毎日、何回食事をしているだろうか?
おそらく、「一日三食食べるのが当たり前」という人が大半だと思う。
「朝は忙しくて食べられないから、基本は昼と夜の二食」という人もいるかもしれない。
間食がささやかな楽しみ、という人も少なくないだろう。
 
私もかつては、このようないわば一般的な食習慣を続けていた。
しかし、ひょんなことから一日一食だけ食べるスタイルに目覚めてしまい、気づけば何年も経つ。
人にこれを言うと、「一日一回しか食べないなんて、空腹に耐えられない!」「栄養失調でフラフラにならないの?」「逆に身体に悪そう……」などなど、心配されることが多い。
ところが、ところが。
この一日一食スタイル、もうかなり長いこと続けているけれど、まさにいいことづくめなのだ。
デメリットを見つける方が大変なほどである(数分間、本気で考えてみたけれど思いつかなかった)。
一日一食スタイルは、人生のコストパフォーマンスを最大限まで引き上げてくれる。
これが、私の得た最終結論である。
 
一日に一回の食事で平気だなんて、そもそも食に関心が薄いのだろう、と思われるかもしれない。
否、その真逆である。
子供の頃から食べることが大好きで、食欲と食い意地だけは誰にも負けなかった私だ。
三度の飯より好きなものなんて、存在しなかった。
授業そっちのけで給食の献立表を丸暗記していたし、毎日のおやつも人一倍食べていた。
当時の私に、「大人になったら、一日一食しか食べなくなるんだよ」と言っても絶対に信じないだろう。
人生って、本当にわからない。
 
三度の食事に加え、間食までしっかり食べていた健康優良児の私は、そのままピチピチの女子高生になるはずだった。
しかし、どうも体調が優れない。
誰よりも食べているのにガリガリに痩せていき、骨と皮だけの体型になってしまった。もちろん、生理もこない。
ストレスによる自律神経失調症だった。
薬を飲まずに自然な方法で治したいと思った私は、食事療法に頼ることにした。
相談した東洋医学系の先生から受けたのは、驚くべきアドバイスだった。
「まず、朝食をやめてみようか」
え、朝食を食べた方が身体にいい、というのが常識ではないのか。
それまでは健康のためと思い、遅刻してでも満腹になるまで食べてから学校に行っていたほどだ(単に食い意地が張っていただけ、ともいえるが)。
 
「どうしてですか?」と納得できない様子の私に、先生は言った。
「午前中は、本来排泄の時間なんだよ。長年朝食を食べ続けていると、老廃物が処理されないまま蓄積されていって、疲れやすくなったり、不調の原因にもなりやすいんだ。実は栄養的にも、昼と夜の二食を食べれば十分なんだよ」
なんでも江戸時代までは、一日に一食か二食が普通で、しかも今の日本人よりもずっと健康で体力もあったらしい。確かに飛脚などは、今では考えられないような長距離を毎日徒歩で移動していたと、聞いたことがある。
アメリカでも1,900年代までは朝食を食べる習慣はなく、エジソンが自身の発明したトースターを売りたいがために、「朝食を食べた方が健康にいいぞ!」と提唱したなんて説もあるようだ。
これには、心底驚いた。
人間誰しも、それまで正しいと信じてきたものが覆るというのは、なかなか受け入れがたいことだろう。
でも、私は不調を早く治したい一心だったので、とりあえず試してみることにした。
「朝食抜き メリット」で検索してみると色々出てきたし、やっぱり自分にはダメだと思ったら、そのとき考えればいい。
 
はじめの一週間ぐらいは、とにかく空腹感が気になり、次は何を口にしようと食べ物のことで頭がいっぱいだった。辛いなぁと感じることの方が多かったと思う。
食事が一番の楽しみだったのだから、仕方あるまい。
しかし、次第にいい面での変化が現れはじめた。
頭がなんともスッキリしていて、クリアな感じなのだ。
眠気に襲われることもほとんどなくなり、授業の内容も勉強したことも、どんどん頭に入ってくる。
大学受験を控えていた身には、この変化はかなり嬉しいものだった。
食事を玄米菜食中心の内容に変えたことも大きいと思うけれど、日々感じていた不調も少しずつ改善されていった。
悩みだった冷え性もよくなり、体重も元に戻り、生理も正常にくるようになった。
食事量は減ったのに体重が増えた要因としては、内臓への負担が減り、消化吸収がよくなったからということらしい。
 
それから数年は、昼と夜の二食の生活を続けていた。
体調もまずまずで、特にこれといって不満はなかった。
絶不調だった高校生の頃を考えれば、やりたいことができる程度の健康があるだけで、ありがたかった。
けれど、一日一食に転向するきっかけは、突然に訪れる。
友人との待ち合わせまで、立ち読みで時間を潰そうと入ったコンビニで、私はある本と出会ったのだ。
船瀬俊介著『できる男は超少食―空腹こそ活力の源!』。
女性の私でも思わず手に取ってしまうほど、キャッチーなタイトルだった。
読みはじめて、度肝を抜かれた。
オバマ大統領やマイクロソフト創業者ビル・ゲイツなど、いわば世の成功者たちは、一日一食しか食べないという人が少なくないというのだ。
日本でも、多忙で健康管理が必須な一流スポーツ選手や芸能人などは、実践する者が多いという。
実際、明石家さんまや福山雅治、ビートたけし、タモリなどの大物達も、一日一食だと公言している。
どうやら一日一食にすると、頭が冴えて集中力が増し、疲れにくくなり、睡眠時間も短くて済み、細胞レベルで若返る……などなど、実に驚くべき効果があるそうだ。
これはもう、試してみるしかあるまい!
私はかくして、一日一食を実践してみようと、心に決めたのだった。
ちなみに、本の内容に夢中になりすぎて、待ち合わせに遅刻してしまったのは言うまでもない(その節はごめんなさい)。
 
さあ、私の一日一食チャレンジがはじまった。
最初のうちこそ、お腹がよく鳴って困るなぁと思ったり、「また24時間近く食事はお預けか……」ということばかり頭をよぎったりした。
けれど次第に、空腹感を感じにくくなった。
食べない状態が当たり前だと、不思議なことにそれで大丈夫になっていく。
この一日一食スタイルは、想像以上にラクだった。
何よりも大きかったのは、食事に関わる時間の短縮だ。
買い物に行き、献立を考え、下ごしらえして、料理をして、皿洗いと後片付けをして……。
当時一人暮らしだった私は、毎日この一連の家事をこなしていた。
それが当たり前と思っていたし、料理が好きだったので、面倒と感じたこともあまりなかった。
けれど二度の食事が一度になると、予想していたよりもはるかに、食事に割く手間と時間の短縮になった。
私は「食べること」だけに、毎日こんなにエネルギーを使っていたのか、と呆れたほどだ。
もちろん、食費も半分になった。
間食もしなくなったことを思うと、ひょっとしたらそれ以下かもしれない。
この快適さを知ってしまったら、もう二食も食べていた頃には戻れない。
おかげで余裕ができて仕事の能率も上がったし、空いた時間で本を読んだり、好きなことができるようになったのは本当に嬉しい。
 
それだけではない。
頭がますますクリアになり、色々なアイディアが湧くようになったし、心なしか記憶力もアップしたような気がする。
役に立つかどうかは別として、人と交わしたさりげない会話まで鮮明に覚えており、「よくそんなこと覚えてるね」と感心されることも増えた。
三食から二食にしたときには感じられなかった体調の変化は、肌の調子がよくなったことである。
おかげでメイクが薄くなり、化粧品を買う機会が激減した。買ってもなかなか使い切れないからだ。
肌荒れや乾燥をしにくくなり、化粧水や乳液も不要になった(今年で30になるけれど、今でも全く使っていない)。
船瀬氏の後の著書『超少食で女は20歳若返る』によれば、少食にすると細胞が若返るらしいので、納得である。
自分に限ってそれはないだろうと思っていたが、睡眠時間も短くて済むようになった。
寝るのが好きで、それまでは毎日8時間以上は寝ていたのだけれど、そんなに寝ていられない。
寝ていたくても、自然に、スッキリと目覚めてしまうのだ。
「目覚めの良さで健康状態がわかる」と聞いたことがあるけれど、確かにそうかもしれない。
一日のスタートを爽やかに切ることができるのは、本当に気持ちがよい。
夜は布団に入ると、5秒で寝てしまう。
胃の中が空っぽだと、寝つきも抜群にいいのだ。
 
痩せてしまわないのか、と心配になる人もいるだろう。
私の場合は、一食にしたばかりの頃は5kg痩せ、3kg元に戻って落ち着いている。
一食しか食べないと、入ってきたエネルギーを身体がありったけ吸収しようとするので、意外と痩せない。
でももちろん、変に太ることもない。
痩せ過ぎず、太り過ぎず、個人的にはちょうどいい感じをキープできている。
なんといっても一日一食なので、多少食べ過ぎても響かないのも嬉しい。
 
ちなみに、調子に乗った私は「ひょっとしたら、二日に一食でもいけるのではないか」と思ったが、これはさすがに無理だった。
一週間ぐらい試してみたが、全く何も食べない日はフラフラしてしまうのだ。
どうやら、私のちょうどいいポイントが「一日一食」らしい。
体質などはかなり個人差があると思うので、くれぐれも身体の声を聞きつつ、無理はしないでいただきたい。
 
外科医の南雲吉則氏は、著書『「空腹」が人を健康にする』の中で、現代人はむしろ食べ過ぎている人が多いと語る。
人類の30万年の長い歴史は、ずっと飢餓との闘いだった。
今や食べ物がいくらでも手に入る飽食の時代だが、人間の身体は食べ過ぎに対応できるようにはつくられていない。
そのため、栄養の過剰摂取が、実にさまざまな弊害を引き起こしているのだという。
「一日一食」にするだけで、身体の傷んだところが修復されたり、自然と適正体重になったり、皮膚年齢が若返るなど、健康と美容面において大いにプラスになるらしい。
南雲氏自身も、一日三食食べていた頃は胃もたれなど、食べ過ぎによる不調をよく感じていたそうである。
でも本当に空腹を感じてから食事をするようにしたところ、格段に体調が良くなり、外見もみるみる若返ったそうだ。
確かに現代人は、「力をつけるためにしっかり食べなくては」という強迫観念に囚われているように感じる。
きっとこれは、大いなる誤解なのかもしれない。
 
でも、付き合いの多い人などは、「毎日一日一食は無理だよ!」と思うだろう。
何も毎日完全に実践しようとする必要はなくて、もちろん臨機応変でよいのだ。
毎日が難しければ、食べ過ぎた次の日だけ、とかでもいい。
疲れていた内臓が少しずつ回復していくのを、感じられるはずだ。
私は付き合いがいいタイプではないので、外食するのは月に一度か二度ぐらいだが、そんなときは一日に二回食べることもある。
ときには、気の置けない人たちと食事を共にする時間も大切にしたいから。
次の日はやっぱりちょっと身体が重たくて、「あー、やっぱり一日一食が最高!」となるのだけれど。
 
このように私は「一日一食」を実践することで、時間的にも経済的にも、コストパフォーマンスがかなり上がった。
でも一番嬉しいのは、味覚が研ぎ澄まされ、食事をそれまでの何倍も美味しいと感じられるようになったことだ。
一日に一食しか食べられないと、その一食をとても大事にするようになる。
忙しくても、適当に済ませるのはやめようと思える。
「ながら食べ」をしなくなったし、これ以上ないほど、一口一口しっかりと味わって食べるようになった。
ちゃんとお腹が空いているということもあると思うけれど、ご飯にお味噌汁、漬け物のようなシンプルな食事でも、涙が出るほどしみじみと美味しい。
そして自然と、口にする食べ物の辿ってきた道すじに、思いを馳せてしまう。
太陽の光、豊かな土、雨水の恵み、数えきれないほどの微生物や虫たち、完璧な自然環境があって、野菜やお米を汗水垂らしながら育ててくれるお百姓さんがいて。それを運ぶ人、加工する人、販売する人たちがいて。どれがなくても、私たちは毎日の食事にありつくことができない。
食べることは、なんと壮大で、尊い行為だろうか。
思考がシンプルに研ぎ澄まされ、「今、ここ」に集中できるようになったのは、一日一食のおかげかもしれない。
私もそうだったけれど、過去の失敗を思い返してクヨクヨしたり、未来を心配して不安になったり、「今」に生きていない人のなんと多いことか。
そんな時間はもったいない。私たちには、常に「今」しかないのだから。
どこまでも無限の可能性を秘めた「今」が、誰にも等しく与えられているのだから。
数多のメリットがあるばかりか、こんなにも人生の豊かさを感じさせてくれる「一日一食スタイル」、おそるべしである。

 
 
 

❏ライタープロフィール
大國 沙織(Saori Ohkuni)
1989年東京都生まれ、千葉県鴨川市在住。
4〜7歳までアメリカで過ごすも英語が話せない、なんちゃって帰国子女。高校時代に自律神経失調症を患ったことをきっかけに、ベジタリアンと裸族になり、健康を取り戻す。
同志社大学文学部国文学科卒業。同大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコース修士課程修了。
正食クッキングスクール師範科修了。インナービューティープランナー®。
出版社で雑誌編集を経て、フリーライター、料理家、イラストレーターとして活動。毎日何冊も読まないと満足できない本の虫で、好きな作家はミヒャエル・エンデ。
【メディア掲載】マクロビオティック月刊誌『むすび』に一年間連載。イタリアのヴィーガンマガジン『Vegan Italy』にインタビュー掲載。webマガジン『Vegewel Style』に執筆。

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2019-02-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.18

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