ドラゴンボールに出てくる孫悟空を自由研究してみた話《週刊READING LIFE Vol.68 大人のための「自由研究」》
記事:藤井郁弥(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「あ! 亀仙人……」
天狼院書店、店主三浦さんの一言であった。
その日、自分の着ていた洋服には、鼻血を垂らした亀仙人のワンポイントがほどこされていた。これといって意識したわけでもなく、「なんとなくいいな……」という直感で購入したのを覚えている。
この日、それだけでなくドラゴンボールの導きなのかわからないが、河原町の商店街に3000円のガチャポンがあった。「仮に変な物が当たってもネタにすればいいだろう……」という理由でやってみることにした。すると、インテリアとして楽しめるドラゴンボールが手に入る。
「オラ、ワクワクしてきたぞ!」心の中でつぶやいてしまった。
いい歳した大人が、商店街の外でニヤニヤしながら、右手にドラゴンボールが入った紙袋を持って、上機嫌に歩いているとこをはたから見れば、不思議な光景だったに違いない。
週刊誌で連載していたときから30年以上遡る作品である。自分が生まれる前にも関わらず、今もなお根強い人気があり、何度もアニメや映画化をされ、世代の垣根を超えて、今も愛されている作品はない。
それほどまでに愛される作品というのには、何か魅了するものがあると思い、調べてみることにした。
「オラ、すっげえワクワクすっぞ!」
主人公、孫悟空が強敵に立ち向かうときにいうセリフである。
自分が死ぬかもしれないという危機的状況にも関わらず、前向きな言葉で自分を鼓舞して戦うことを楽しんでいる。
この言葉は「ピンチはチャンス」ということをわかりやすく伝えた言葉ではないかという発見があった。それだけではない。「もっと、もっと、強くなりたい」という気持ちがあり、物語が進むにつれて、戦いの師匠が変わっても、素直に教えを聞いて、想像以上のチカラを発揮している。
その姿に魅了され、はじめは敵であったキャラクターも、味方になっていくのだ。
孫悟空の永遠のライバル、ベジータもはじめは、残虐非道であり、自分の思い通りにならない相手には容赦なく手を掛けていたのだが、地球人と結婚をして息子ができると、心おだやかになり、孫悟空同様、他人に迷惑をかけないように修行に明け暮れるのであった。
そんなプライドの高いベジータも終盤で、
「おまえがナンバーワンだ……カカロット(孫悟空)……」
自分しか信じることのなかったベジータが、認めたのである。
「勝つために戦うんじゃない」
「絶対に負けないために」
「限界を極め続け戦う」
「相手の命を絶つことにこだわりはしない」
戦いを楽しんでいるからこそ、純粋にひたむきな気持ちで「強さ」求め続ける姿に共感をしている。
そんなベジータが、最後の敵、魔人ブウを倒す際、仲間を信じて冷静かつ的確に、指示する場面があった。
「元気玉」という現代のクラウドファンディングのようなものをする。
企画者ベジータ、実行者孫悟空、インフルエンサーミスターサタンだ。リターンは、魔人ブウを倒して全宇宙を救うことである。そのためには、地球のみんなの力が必要であるのだが、上手くいかない。現場を全く知らない人が、見ず知らずの人に「元気を分けてくれ!」と声だけが聞こえたら恐怖でしかない。当たり前である。
その光景を見たミスターサタンが黙ってはいなかった。原作ではインチキヒーローであり知名度だけは誰よりもあったのである。その結果、地球のみんなが実行者を信用をして、相手を倒すのであった。
最後、魔人ブウに対して孫悟空は敬意をあらわしていた。
「おめえはすげえよ、よく頑張った。たったひとりで、今度はいい奴に生まれ変わって、一対一で勝負してえ、待ってるからな……」
自分を苦しめた存在の敵に対しても、現状に満足せずに「強さ」の先を追い求めている。
自分を仕事にする。
昨今、就職をしなくても生きれる時代になった。インターネットの発達によって気軽につながれるようになり、お金に代わる価値も生まれてきた。孫悟空は大好きな戦うことで、人と人とを繋ぎ信頼を稼いで、様々な困難を乗り越えてきた。
付加価値として地球のみんなを助けた訳なのだが、そのことに対して、これといってこだわりを持っていないのである。強い奴と戦うことを仕事にして、満足しているのである。
現実に当てはめて、
「仕事に満足しているのだろうか……」
「熱中して仕事に取り組んでいるのだろうか……」
孫悟空のように素直に真面目に取り組む姿勢は、今自分に影響力がなくても、少しずつ誰かの価値になって他人の人生を前向きに変えるようになることを信じている。
「オラ、すっげえワクワクすっぞ!」
実力はまだない。それでも、この言葉が人生を変えて
今まで出来なかったことが出来るよう意識するのは自分だ。
未来は変えていけるってことを孫悟空が代弁してくれたのである。
◽︎藤井郁弥(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
大阪府出身。高卒後、信用組合に入社。
社会経験を通じ学びが足りないと思い社会人から大学へ入学。大卒後、製造メーカーに。
知人のクチコミで天狼院ライティングゼミを知る。「人生丸ごとコンテンツ」をモットーに文章を書き続けている。
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