週刊READING LIFE vol,100

自分の状態を1分で知る方法《週刊 READING LIFE vol,100 「1分」の使い方》


記事:佐藤純平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
コーヒーをここ1年ぐらいでよく飲むようになった。
元々大好きだったわけではない。むしろそんなに好きではなかったと思う。
大学生の頃は、コーヒーを飲むかっこいい大人への憧れと眠気覚ましのためだけに飲んでいた。ブラックなんてとてもじゃないけど飲めなくて、砂糖やミルクをガサッと入れて飲んでいた。
社会人になってからもそんなに好んで飲むことはなかった。
それなのに、今は結構な頻度で飲んでいる。コーヒーが好きになっている。
缶コーヒーやコーヒーの粉を買って飲むのではなくて、豆を買って自分で挽いて飲むようになった。チェーンの喫茶店ぐらいでしか飲んだことがなかったのに、コーヒー専門店に通うようになった。
それぐらい好きなった。
いや、コーヒーが好きというよりかは、コーヒーを作る時間が好きなのかもしれない。
 
朝起きてから、身支度を整えたら、まず最初にするのがコーヒーを作ることだ。
まずはお湯を沸かす。湯沸器に適量の水を入れて、スイッチを押す。その間、ゆっくりと息を吸ったり、吐いたりして待つ。
朝はすごく静かで、時間の流れが少し遅く感じる。その時間がなんとも心地良い。
ボコボコボコという音と一緒に白い煙が立つ。カチッと湯沸器のスイッチがオフに切り替わる。
次は、コーヒーのドリッパーにペーパーフィルターを設置する。湧いたお湯をペーパーフィルターにかける。フィルターがゆっくりと湿っていき、コーヒーサーバーにお湯がポトポトと落ちていく。水の落ちる音が響くような感じがする。
あぁ、いい音だ。
サーバーに落ちた水を一度捨て、今度は豆を挽く。どれくらいの粗さで削るのか調整をして、削っていく。ジョリジョリジョリと音を立てながら、豆が粉状になっていく。その粉をペーパーフィルターに入れると、コーヒーの香りがふわっと立つ。
あぁ、良い匂い。
 
さて、あとはお湯を淹れていくだけだ。手動でいれるハンドドリップという方法で淹れていく。秒数を測りつつ、決められた文量のお湯を注いでいく。粉に水をかけると、粉がぷくっと膨れ、先ほどよりも少し強い香りが漂う。
あぁ、落ち着く。
そこから少しずつお湯をゆっくりと淹れていき、ポツポツとサーバーにコーヒーが滴り落ちていく。そうしてコーヒーはできあがる。
ゴクリ。あぁ、美味しい。
良い一日のスタートが切れそうだ。
そうやってぼくの朝は始まっていく。
 
こんな良いスタートが毎朝切れればいいのだけれど、やっぱりそうはいかない日もある。
時間がなくて、飲めない日だってある。そんなときは大概自分の精神状態も悪いことが多い。
コーヒーを淹れる時間なんて、5分や10分のなのに。その時間がなんだかもったいなく感じてしまったりするのだ。
やることがいっぱいあるのに、コーヒーなんてゆっくり飲んでる場合ではない。そう思ってしまう。ゆっくり飲んで、良い一日のスタートが切れそうと思ってから他のことを始める方がいい。そうわかっているのに、焦ってしまう。
そしてコーヒーを飲む時間をとらないことがある。
 
コーヒーを飲む時間をとれていても、自分の精神状態が悪いなと思うこともある。それはコーヒーの味がなんだかいつもより美味しくないと感じるときだ。同じ豆を同じ方法で同じように作っているのに、それでも味が変わる時がある。
「今日はいつもよりなんだか酸っぱいな」
「今日はいつもよりなんだが苦いな」
「今日はいつもよりなんだか薄いな」
そう思うときは大体自分の精神状態も悪い。
まるで自分の精神状態の写し鏡のようにコーヒーの味が変わっていく。
 
味が変わってしまう原因は、大体コーヒーを作ることに集中できていない場合が多い。仕事のことだったり、プライベートのことだったり、頭の中で色々と考えてしまっていて、コーヒーを作ることに集中していないのだ。
だからいつもと同じように作っていると思っていても、少しおかしなことをしてしまっている。
例えばハンドドリップをする時。
豆の種類に合わせて、それぞれ淹れ方があるのだが、それが少し違っただけで味は変わってくる。秒数を間違えていたり、お湯の分量を間違えていたり、お湯の注ぎ方を間違えていたり。少し意識をコーヒーから離してしまっていて、あっ……と気づいたときにはもう遅い。
いつもより美味しくないコーヒーができあがる。
例えそれが1分という短い時間だったとしても、味が違ってくるのだ。
 
1分でも意識を離してしまうと、味が美味しくなくなるなんて、めんどくさい飲み物だなと思うこともあるのだが。毎朝コーヒーを淹れて飲む時間は、自分の状態を知ることができる充実した時間なのかもしれない。
日々忙しくしていると、どうしても自分の状態を知る機会が少なくなる。自分が今どういう状態で仕事をしていたり、人と接していたりするのか、普段は考えないことが多い。
大体何か問題が起こってしまってから、自分はもしかしたらこういう状態だったかもと気づく。
 
ものすごくタスクが多いのに、ついつい仕事をサボってしまうことがある。フリーランスとして働いるから、自分自身で管理をしなければならないのだが、ぼーっとして頭が働かず、集中ができない。
毎朝コーヒーを淹れる習慣がなかった頃は、自分の状態がおかしいと気づくのは大体夜になってからだった。
今日はなんでかわからないけれど、ダラダラしてしまったなと夜になってから気づく。すごく無駄な1日を過ごしてしまったと後悔してしまう。自分はダメなやつだと自己嫌悪に陥って、寝て忘れようとする。
でも朝コーヒーを淹れる習慣ができてからは、仕事をする前に今日は自分の状態がおかしいかもしれないと気づくことが多い。コーヒーを淹れることに集中できず、なんだかいつもより美味しくないコーヒーを作ってしまうときは、大体状態がよくない。
そう気づいたら、1日の過ごし方を変えることができる。
もちろんその日中に終わらせなければいけないタスクがあればやる必要はあるのだが、それ以外は調整することができる。今日は状態がよくないから、明日に回そうと決めて休むことで、状態の回復に努めることができる。
 
朝自分の状態に気づくことができると、仕事だけではなくて、人間関係の部分でもプラスに働くことがある。今日は状態が悪いとわかっていると、人と接するときにも少し冷静になることができるのだ。
何か気に触るようなことを言われてイライラしてしまうときにも、今日は自分の状態が悪いからそう思うのだと怒りをあらわにせずに済む。何かしらコミュニケーションがうまく取れなくても、あいつのせいだと人のせいにせず、自分の状態が悪いからだと自己解決できる。
いづれにせよ、朝自分の状態を知ることができるおかげで、そう思うことができる。
 
1分だけでも集中できないと味が変わってしまうコーヒー。
だがそのおかげで、1分で自分の状態を知ることができる。
朝の習慣にコーヒーをじっくりと作ってみてはいかがだろうか。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤 純平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

現在、Webライターとして活動中。進路指導の仕事を3年ほどしていたら、進路に1番悩み始める。転職や副業を5年間色々試したが全て挫折。あきらめず挑戦し続けて、現在は独立。その経験をいかして人の悩み、迷い、葛藤に寄り添えるような文章を書いている。2020年9月より天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティングを学んでいる。

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2020-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol,100

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