今までと違うことをすると人生が変わる《週刊READING LIFE vol.122「ブレイクスルー」》
2021/04/05/公開
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
離婚は全然考えていなかった。
子どもがほしかったからだ。
一人になるのがこわかったのもある。
離婚のメリットが見えなかった。
暴力を振るわれても、暴言を吐かれても、全然自分が大切にされていなくても、私と一緒にいてくれる人がいるということが大きなことだったのだ。
自分が大切にされていないということすら、気がついていなかった。
夫婦というものはこうゆうものだと思っていたし、母に比べれば私はずっとましだと思っていた。
生きてきた環境というものはこわいものだ。
すべての自分の基準となってしまうのだから。
先の見えない生活をしているようだった。
あなたには未来がない。
ある人にいきなりそう言われた。
とてもショックだった。
どうすればいいのか。
離婚するか引っ越しをするかだと言われた。
離婚が考えられないし、家は35年ローンで購入してしまっていた。
どちらも考えられないが、どちらかを選択しなければ未来がないのなら、引っ越しするしかない。
でも、私にとっては全然現実的ではなかった。
もやもやしたものが残ったまま、しばらく過ごしていたのだけれど、虚しい生活だった。
生きているようで生きていないというか、張り合いがないというか、自分が何のために生きているのかわからなくなっていた。
それでも、私は幸せだと思おうとしていた。
家族もいて、仕事もあって、すばらしい環境に家もあって、親もいて、何の問題もない。
それなのに、どうしようもない淋しさ、悲しみに襲われるのは、表面的には幸せに見えていても、心が満たされていなかったのだろう。
お正月に、夫が映画を観に行こうと言っていたのが、突然切れて怒り出した。なんで怒っているのか理由もよくわからない。怒り心頭という感じで、顔を真っ赤にしてとにかく怒鳴り散らす。
何が悪いんだろう。
相性の問題なのだろうか。
映画に行こうとしていたのが、急に夫の気が変わって、映画館へ行く電車の中で、遊園地に行くことになった。遊園地に行って、夫はとても機嫌がよかった。
こどもがいれば楽しかったのかもしれないが、私はとても虚しさを感じていた。
私はジェットコースターが嫌いだ。
なんでお金を払って、不安や恐怖を味わうのだろうと思う。
ジェットコースター好きな夫につき合って、しかたがなく死ぬ気になって同乗したが、やはりかなり怖かった。降りてすぐもう一度乗ろうという夫をいなして、私はジェットコースターの列に並びに行く夫を、こどもを見るように見守っていた。
夕暮れどき、観覧車から降りて、寒い冬空の下で、夫とふたり、こどももいないのに遊園地の出口に向かって丘をくだって歩いているとき、とてつもない寂しさに襲われていた。
どうしてそんな感情になるのかわからなかった。
そのころ、週末になるとセミナーとかイベントに誘ってくれる人がいた。
私は出かけていくようになって、私の居場所ができた気がした。
別れても私は楽しいかもしれない、と思い始めていた。
夫のDVのことは、誰にも話したことがなかった。
そんな目にあっているなんて、恥ずかしくてとても言えない。
自分が悪いのだと思っていた。
私がちゃんと家事をすれば、きっとよくなると信じていた。
でも、10年経っても、何も変わらなかった。
夫とのことを、考えたほうがいいんじゃないか、とその人に言われた。
DVではなくて、扶養していることについてだ。
相談する人を紹介されたりなどして、親切にしてもらった。
何も困っていないけれど、と思いながら、とにかくカウンセリングに行った。
スケープゴートになってはいけない、と言われた。
むしろ、叱られた。
「あなたが相手の怒るのをゆるすから、相手は怒るのであって、あなたがいなければ怒る相手がいないから、相手は怒らなくて済むのに」
怒ることで、相手がいちばん傷ついている。
怒る自分なんて嫌にきまっている。
理不尽に怒られるのをゆるさない、という行為は、相手のためでもあるのだ。
目から鱗だった。
そんなこと思ったことなかった。
怒るのは、相手の感情の問題だと思っていた。
離れる決意をした。
添い遂げようと思っていたので、離婚するとは全く想定していなかった。
でも、お互いのために離婚した。
京都に生まれ育って、私は京都以外の土地で住むことを考えていなかった。
大阪に住むことさえ考えられなかったのに、ましてや東京に住みたいなんて希望は微塵もなかったし、東京に住むことが私の人生にあるとは思っていなかった。
でも、東京に住むことになり、私ははじめて一人暮らしを始めた。
家具も家電も、カーテンの色も、すべて自分が決めないといけない。
結婚したときは、全部夫が決めた。
私は夫の決めたことに従うだけだったのだ。
私が選んだものは否定され、私が気に入ったものや人からもらったものは、捨てられたりしていた。
レストランもそうだった。
私が行きたいと言って一緒に入ったレストランが、気に入らないと激怒されて、食事もしないまま出て行ってしまう。
私が選んだから悪いと怒られる。
そんな風だったから、自分が決めることに自信をなくし、自分が何を好きで、何を感じて、どう思っているのかわからなくなっていた。
家に帰るのがこわかった。夫の機嫌が悪かったらどうしよう。怒られたらどうしよう、という思いがいつもあった。安心して家でくつろいでいられなかった。
東京に来てから、哲学対話をしたことがあった。
幸せとは何かというテーマで話しているときだった。
お金とか、健康とか、家族がいるとか、いろいろ出たけれど、私の心に響いたのは、
「心配や不安がないこと」ということだった。
それを聞いて、「ああ、私は幸せだと思い込もうとしていたあのときは、幸せじゃなかったんだな」と思った。家にいて、怒られたらどうしようかと心配して不安な気持ちに襲われているって、今から考えればよほどのことだった。
東京への引っ越しも、本意ではなかった。
全然住みたいと思っていなかったし、しかたなく東下りした、というぐらいに思っていた。
私は京都にいたかった。
京都への愛着は強かった。
たびたび京都の実家に帰っていたし、しばらく我慢すれば、早く京都に戻ろうと考えていた。
別れて、東京に住んで、人生は変わった。
自由で、何をしても怒られない。
離婚のきっかけをつくってくれた人のおかげで、私は変わることができた。
だから、その人と一緒にいれば、私は自分がよくなれると信じていたし、その人もそう言っていた。
私はその人とできるだけ多くの時間を一緒に過ごそうと努めていた。
自分がよくなるために。
1年経ち、2年経ち、いつのまにか、私はまた同じ感情を抱くようになっていた。
その人から怒られたらどうしよう、と思ってしまうのだ。
こわいのだ。
怒られないようにと思って、それを基準に行動するので、全然楽しくない。
不自由だった。あれ、おかしいなと少し思っても、でも自分がよくなりたいので、気のせいというか、その人から離れようとは微塵も思わなかった。なぜなら、その人と一緒にいれば自分がよくなれると信じていたからだ。
自分の思考の癖なのだろう。
強くて自信のある人に吸い寄せられるようにしてそばにいて、自分からその支配下に入ってしまうのだ。そして、自分で自分の首を絞める。
そして、その人と離れることが自分に必要であることを認めようとしなかった。
話は変わるが、私はずっとロングヘアだった。
ロングヘアが好きで、ロングでないと女でないぐらいに思っていた。
だから、ショートにしたいなんて少しも思ったことがないし、ショートにすることは女を捨てることだと思っていた。
ある日、メイクレッスンの仲間に、その人のエネルギーを感じながら、そのエネルギーがいかされるカットをしてくれる人がいると教えてもらった。
とても興味をもった。
私は変わりたかった。
今までと同じこと繰り返したくないという思いが強かった。
さっそく、そのエネルギーカットをしてくれる愛たんのところに、カットに行った。
ヘアスタイルはお任せしかない。オーダーは聞いてもらえない。なぜなら、エネルギーで調整するからだ。
どうにでもなれ、という思いで、決意して挑んだ。
髪は切ってもまた伸びる。
お任せしたら、潔くバサバサ、いとも簡単にショートに切られた。
目の前に、見たことのない自分があらわれる。
あっという間に、ショートカットの私になった。
まさか自分がショートにするとは思っていなかった。
でも、私は変わるんだ!
実際、自分はふだん鏡をみない限り、自分が変わったことを意識していない。
会う人がびっくりする様子を見て、私の外見が変わったことを思い出すという感じだった。
相手の反応が明らかに変わった。
私が人に対する印象が大きく変わったからだけれど、相手の反応が変わって生きやすくなった。
余計なものを削ぎ落した、そんな感じだ。
女らしく飾り立てていたものを削ぎ落して、私の個性が際立っている。
そんな感覚だ。
今までしたことがないショートになって、私の心も軽やかになった。
女らしくしないといけないとか、女だからこうあるべきだというようなとらわれ、思い込みがなくなった。
私だからこうしたいとか、私がどう感じているのかに意識が向くようになった。
本来の私が、育っていくというのか、思い出していくという感じだった。
今までと違うことをして、私は本来の私を取り戻してゆく。
私が何を感じて、何が好きで、何をしたいのか。
ほんとうの幸せを感じながら、生きていきたいと切に願う。
□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。
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