良い質問ができる人は、仕事ができる人。……ホントかな?《週刊READING LIFE Vol.196 「いい質問」の共通点》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/12/05/公開
記事:西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「仕事ができる人」というのは、百発百中で「良い質問ができる人」だと思っている。
どんな仕事であれ、仕事ができる人は必ず、良い質問をする能力を携えているように思う。
そもそも質問というものは、質問の対象となる物事に対して、その人がどのように思考し、何を考えたのかがわかるものだ。考えた結果、何らかの疑問が浮かび、質問するに至る。つまり、私が「良い質問だなぁ」と感じるものは、その人の思考を「良い思考だなぁ」と感じているということと、ほぼ同義なのではないかと思う。
以前、同じ職場にいたTさんは、「良い質問するなぁ」と思わせる同僚の代表だった。彼の質問にはいつもハッとさせられるところがあり、私は密かに「Tさんの質問ファン」を自覚していた。彼が口を開くと、そっと耳を澄ませ、心のアンテナを立てていたものである。
先程のロジックに当てはめると、私は「Tさんの思考」に惚れていたことになる。
私から見たTさんの質問の「推しポイント」は、大きく2つに集約された。
1つ目は、物事の因果関係を紐解こうとする点だ。
単なる「事実」だけではなく、それが起こるに至った「要因」や「背景」など、「物事がどういった関係性の上に成り立っているか」を理解しようとするのである。平たくいうと「なぜ?」の一言に集約される。
「なぜこの選択にしたの?」
「なんでこれが目的になってるの?」
因果関係を把握するにあたり、Tさんの質問はさらにもう一捻り、上乗せされるのが常であった。
「そういう背景なら、この選択になりそうだけど、そうならなかったのはなぜ?」
「そもそもの目的はこれだと思うんだけど、今回のはどのように目的と繋がってるの?」
単純に「なぜ?」を繰り返すのではなく、論理的に考えて、こうなるだろう、という自らの仮説があった上での「なぜ」が、常に感じられた。一度、自分の中で思考し、その解と照らし合わせながら、目の前の事象の因果関係を紐解こうとしているのだ。
しかも、良いのはその着眼点だ。
推しポイントの2つ目は、その多面性である。
「僕らはそれで良いけど、カスタマーの立場だと、それはどうなの?」
「昔は制約があったけど、今もそれは健在なの?」
「今はこれで良いけど、将来的に大丈夫?」
「リスクをリスクと捉えず、逆に考えたら?」
一面のみにとらわれない、多面的な観点から物事を捉えようとする質問は、常に聞いている我々の頭をストレッチさせる。おそらく、視点の切り替えが上手いのだ。範囲を広げたり狭めたり、時間を進めたり戻したり、上から眺めてみたり下から辿ってみたり、入れ替えてみたり、逆にしてみたり。
新人の頃、社内屈指のキレモノと言われた上長にアドバイスされたことがある。
「物事を俯瞰的に捉えるにはね、すぐできるポイントが2つあってね。1つは、『全体を見ること』。もう1つは、『時間軸で見ること』だよ」
Tさんはこの、部分と全体の関係性、過去・現在・未来の時間軸の関係性をはじめとして、視点を様々な角度に切り替えて思考し、そこから浮かび上がる疑問を口にしているのだ。
さながら、スポットライトのようである。暗闇に置かれたものに、前方向からライトをあてても、前面しか見えない。複数のものが置かれているのに、1つしか見えないかもしれない。前後、左右、上下、斜め上など、多数の方向からライトをあてることにより、物事が立体的に浮かび上がってくるのだ。
会議では、彼が質問をするたびに、一面、また一面と多面的な視点からの因果関係が明らかになり、会議が終わる頃には、我々の脳内には一段、拡張された世界が広がっていた。彼の質問により、見える範囲が拡大され、関係性の解像度も増したのである。
私は、Tさんと一緒の会議に出るたびに
「……その視点はなかった……!」
とハッとさせられていた。
「いやー、Tさん、さすがだなーー」
と、スッカリTさんのファンである。
私は物事を、俯瞰してみられることが良いことだと信じていた。
全体感からそれぞれの相互関係を把握し、互いに及ぼす影響まで考えた上で最適な結論を出せることこそ、あるべき思考だ。
因果を紐解く質問や多面的な質問がカッコよく、そんな質問ができる人が仕事ができる人であり、尊敬の対象にふさわしく、良い思考の持ち主だと思っていたのである。
おや、思ったのは、ある記事を読んだ時であった。
一文が目に留まった。
「東洋人は関係性で、西洋人は単体の成り立ちで物事を考える」
記事によると、我々東洋人と、いわゆるアメリカやヨーロッパなどの西洋人では、思考の仕方が違うという。
西洋人は物事を「単体」で捉え、対象物がどのようなものかという特徴に注意を払う。対する東洋人は、物事を「連続的なもの」として捉え、他のものとの関係性に注意を払うというのだ。
例が分かりやすかった。ズボンと靴下を見た時、西洋人は「ズボンは長い。靴下は短い」と表現し、東洋人は「ズボンは靴下より長い」と表現する。西洋人が1つ1つを切り離された単体として捉えているのに対し、東洋人は関係性で捉えているのだ。
東洋人と西洋人にこのような思考の違いがあることは、何となくは知っていた。東洋では、潮汐と月の関係はかなり古くから知られていたが、西洋では、歴史の中では比較的新しい時期の発見だと聞いたことがある。なんとなくわかる気がする。西洋人の思考をもとに考えると、潮汐を解明しようとした場合、水の性質を調べたり、海の底を調査して湾の形を確認したりしたのかもしれない。まさか、遥か彼方に浮かぶ月が関係しているとは、思いもよらなかったのだろう。しかし、西洋人の、個体単体に要因があると捉える考え方をもとに、物事を極限まで分析・分解した結果、細菌やウィルスの発見や、元素の発見につながったのは容易に想像できる。
なるほど、面白いなぁ、と頷いた私は、とはいえ「へー」にとどまり、この時は、自分の中の思考性に直接結びつけられてはいなかった。
後に、私は1冊の本によって、この時の引っかかりが何なのかを具体的に知ることになる。
「異文化理解力」というタイトルのその本は、このような国による考え方の違いが、ビジネスの場でどのような行動に現れてくるのかを、「決断」「上下関係」「フィードバック」など、ビジネスシーンごとに説明したものだ。(ちなみに、この本はその年に私が読んだ本のベスト3に入るくらい面白かった)
「説得」の章では、ポーランド人の上司が、日本人のチームメンバーに、担当してもらう仕事について説明した際のことが例に挙げられていた。ポーランド人上司によると、日本人たちは行動に移す前に、他の人たちが何をしているのか、互いがどう影響しているのかを把握したがる傾向があり、打ち合わせ時にも「周辺的な質問が多い」という印象を持った、と記述されていたのである。
別のページでは、ある実験が紹介されていた。
水槽に魚が泳いでいる映像を見せ、アメリカ人と日本人に内容を説明させた。アメリカ人が、主に中央の大きな魚について詳しく説明したのに対し、日本人は、周囲の岩や水草など周囲の環境について詳しく説明し、更に環境と中央の魚の関係について言及する、という傾向があった。
はたと思った。
私が「良い質問」「良い思考」と思っていることも、これと同じではないだろうか。
我々は仕事をする時、仕事の目的や、担当している仕事が目的にどうつながっているか、関係する人や業務は何なのか、全体の中でどのような位置付けなのか、などを把握しようとする傾向がある。
それを伝える方が、明らかに、皆のパフォーマンスが良いのだ。
そのため、説明するときには努めて背景を含めて説明するし、全体感の把握や、関係性を紐解くような質問を「良い質問」と感じていた。
が、これは、我々日本人の思考の特性に基づいているにすぎず、例えば西洋人のように異なる思考を持つ人には、ちっともいい質問ではないのかもしれない……。
先方から見ると、肝心なことをあまり聞かず、関係ない情報を知りたがるのはなぜだろう、と疑問しか浮かばないことかもしれないのだ。
逆に、自分の仕事内容だけについてやたら質問し、全体感や関係性について全く触手を伸ばさない人がいたらどうだろう。
……私は間違いなく、「ナンダこの人。あまり深く物事を、考えない人だな」とレッテルを貼っていたに違いなかった。
また、何かを説明されたとき、背景について全く触れず、ピンポイントの情報のみ渡されたら、確実にイライラする自信がある。
「質問が偏っている」「説明が下手クソだ」などにとどまらず、「視野が狭い人」「思考力がない人」まで発展し、ひいては「仕事ができない人」「尊敬できない人」まで到達していたかもしれない。
西洋人と東洋人の思考の違いについては何となく知っていたし、「異文化理解力」も非常に興味深く読んだ。が、それでも、良い質問とは? と聞かれたら「物事の因果関係を理解しようとする質問」「多面的な視点を持った質問」などと、当たり前のように答えていた気がする。
が、そもそも、質問は、その人の思考の結果が具現化したものだ。思考の仕方そのものに多様性がある限り、「このような要素を持った質問が良い質問」など、そうそう簡単に、優劣を決められるようなものではないのかもしれない。ましてや、「仕事ができる人」「尊敬するにふさわしい人」など、主観的な質問の「良し悪し」なんかで簡単に判断はできないことなのだ。
1つだけ言えることは、質問が出たということは、その人が何らかの思考をしたということだ。思考をしなければ、質問も出ない。「わかりました」は時に、わからないところがわからない、もしくはそもそも理解しようとしていない、という状態であることからも、明らかである。
質問は思考の産物なのだ。その人が思考して、質問を出した、そのことにこそ価値がある。良い質問なのか、そうではないのかよりも、質問を出したことそのものを讃え、その質問が出るに至った思考を理解しようとすることこそ、大切なことなのかもしれない。
それはきっと、その人そのものを理解しようとすることと、イコールであるはずなのだ。
□ライターズプロフィール
西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
小学校時代に「永谷園」のふりかけに入っていた「浮世絵カード」を集め始め、渋い趣味の子供として子供時代を過ごす。
大人になってから日本趣味が加速。マンションの住宅をなんとか、日本建築に近づけられないか奮闘中。
趣味は盆栽。会社員です。
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