現代文の謎設問は一周回っていい質問ではないか?《週刊READING LIFE Vol.196 「いい質問」の共通点》
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2022/12/05/公開
記事:村人F (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
学校で勉強した科目の中で、最もやる意味がわからないと言われているのは国語の現代文だろう。
日本語の文を読むことはわかる。
だが何を聞いているのか、何をさせたいのか全く理解できない。
「傍線部について説明せよ」
「作者の意図を答えよ」
こんなことを聞かれても、いったいどうすればいいのか。
そう途方に暮れて嫌いになった方も多くいると思う。
私も昔はそうだった。
ただ高校時代に読んだ参考書で現代文の魅力に気づいた今は、これら意味不明な設問が実はいい質問だったと理解している。
その理由は書き手の立場から見て、とてもいい位置に線が引いてあるからだ。
例えば私が「ラーメンが食いたいなあ」
こうつぶやいた瞬間が「説明せよ」と問題になっていたとする。
解く側から見れば「知らんがな」と言いたくなる酷い内容かもしれない。
ただ書いた私からしてみると「よくぞ聞いてくれた」と手を叩きたくなる箇所に線が引かれているのである。
というのも、私が今ダイエット中だからだ。
それも高いお金を払ってパーソナルトレーナーを契約するくらい本気で。
だから提示されたプランも厳しい。
揚げ物やらスイーツはもちろんダメ。
ラーメンなど絶対にNGだ。
よって週1で麺類を食っていた私にとって、限りなくストレスのかかる生活を強いられていた。
しかしなんとか1ヶ月以上、指示を守り続けている。
だが、そろそろ恋しくなって我慢の限界を迎えつつある。
この状況の中だからこそ「ラーメンが食べたいなあ」とつぶやいてしまったのだ。
よって発言の中には、本当はチャーシューマシマシにしてズルズルいきたいのにできない怨念が込められているのである。
そのため傍線部を引かれ「説明せよ」なんて言われたら、ここぞとばかりに語り倒したくなるわけだ。
このように現代文の設問を見てみると、筆者にとって語りたくて仕方がないフレーズに引いてあることが多い。
そしてこれを「説明せよ」と問うことで、読み手は徹底的に精読することになる。
書き手が込めた様々な思いや工夫の数々を自発的に吸収してくれるのだ。
これほど嬉しい読み方はないだろう。
さらに読者が正しく内容を理解できているかも同時に確認できる。
先のように問うことで「私がラーメンのない生活を考えられない太りすぎの人だから今日も食べたいんでしょ」なんて勘違いをされていないかチェックできるのだ。
これも書き手にとってありがたい機能だ。
つまり現代文に出てくる設問の数々は、筆者の立場から見ると実にいい質問なのである。
1文字も妥協することなく書き上げた文章をちゃんと味わえているか。
これを調査できるのだから。
なんと素晴らしい問題であろうか。
しかしメリットを享受しているのは書き手だけではない。
実は、読者にとってもいい質問になっているのだ。
例えば小説を読んでいる時も映画を鑑賞している時も、徹底的に内容を理解したくなるだろう。
こういう場合に現代文の問題が役に立つのである。
筆者の仕込んだ数々のテクニックを読み返すことでより実感できるし、自分がした理解が論理的に正しいかも確認できるのだ。
この威力は、私も芥川龍之介の文章を扱った入試過去問で堪能したことがある。
普通に読んだ場合は「ハイそうですか」程度の感覚しかなかった。
しかし設問に従い文章を何度も読み返し解析することで、歴史に残る文豪である理由がインストールされていくのである。
もう面白すぎて涙が出てくるほどだった。
それくらい入り込めたのも、問題として出された質問が適切にガイドをしてくれたからだ。
このように現代文の設問は、書き手と読み手のどちらにとってもメリットが高いのである。
しかしこれほどの効果がある科目なのに、なぜ多くの人にとって意味不明かつ勉強する必要がないと思われているのか。
もしかしたらその理由は「質問の仕方が悪いから」かもしれない。
例えば、わからないという人は「なぜ勉強する必要があるのですか?」と問いかけることが多い。
ここに原因があるように思うのだ。
なぜなら「~ですか?」という語尾で終わる質問では自分が考えないからだ。
無意識的に相手に全てを任せようというスタンスになってしまう。
つまり質問の仕方が悪いため自分で思考する機会が失われた結果、「わからない」という状況に陥っているように見えるのだ。
そして、この現象を解決する方法は現代文の設問を見ていれば簡単に見つかる。
語尾を変えればいいだけだ。
「なぜ勉強をする必要があるのか、説明せよ」
このように問題風に書き換えてしまうわけだ。
すると、疑問が途端に自分に向けた問いかけに切り替わる。
入試等を突破するために、乗り越えなければならない壁となる。
こうなると、いろいろな理由が浮かんでくるのだ。
例えば「現代文を勉強する理由」を聞かれたら次のような答えが思いつく。
この世界には教科書から新聞、マンガにSNSと、たくさんの日本語があふれている。
これらは日本人にとっては当たり前のように読めているように思われがちだ。
だが物語や文章にたくさん触れていく中で、面白そうだが難しくて読めそうにない物に行き当たることがある。
また仕事の中でもわかっているようで理解できていなかった文に出くわすこともあるだろう。
こういった状況に立ち向かう力を養うために現代文を勉強するのだ。
このように「説明せよ」と自分に向かって聞くことで、何らかの答えが浮かんでくるわけである。
しかし、それがどれくらい正しいのか検証するのはかなり難しい行為だ。
ここで現代文のさらなる効能が表れる。
解答と比較すれば、自分の理解具合を判定できるのである。
そのため読み方の調整ができるから、より高い精度で文章を味わえるようになるのだ。
さらに相手を納得させる解答の仕方も自然と身に付いていくだろう。
これこそが身に付く最大の力である。
そしてこの観点で考えると、勉強するメリットはとんでもない量になる。
人生が質問にあふれているからだ。
「なぜ人は生まれ死んでいくのですか?」
「なぜラーメンはこんなに美味しいのですか?」
「なぜ勉強が嫌なのですか?」
人間はこのように脳内でいつも何らかの問いかけをしているのである。
それは仕事でも、プライベートでも変わらない。
生きている限り決して終わることがない問答である。
しかし多くの場合は、その答えを導けずもどかしい日々を送ることになる。
ここで、現代文が生きてくるのだ。
この勉強では、文章を正しく読まないといけない。
さらに設問に対して相手が納得する答えを用意する必要もある。
これはとても難しい行為だ。
だが意識して繰り返していくことで、段々と解答用の筋肉が鍛えられていくのである。
そうすればあらゆる場面で有用な力をもたらす。
例えば自分で考えた質問に対し、自己解決をできるようになる。
他にも問題文として取り上げられるわかりにくい文章に触れていれば、仕事で出くわす意味の取りづらいメールに対してもある程度の耐性ができる。
また自身で納得できる答えを導く過程で、人に伝える力も手に入れることが可能だ。
このように現代文で何度も行われた「説明せよ」という問いかけは、人生を切り開く上でとても大事な力を与えてくれるのである。
改めて思い返してみると学校に通っている間に、数多くの質問をしていたように思う。
そもそも論からくだらない内容を含めて、いっぱいしてきた。
そして、多くは答えが見つからないまま放置されていった。
しかしこれらに対し、大人になってから解答がわかるということも多い。
それは子どもの頃の自分が完全に「他人」になったから起こるのだろう。
だからかつての疑問が「昔の私」から問いかけられた形になり、自力で考えてみようという発想になるのである。
よって昔はわからなかった「勉強をする理由」も「数学は論理的思考力を鍛えるから仕事で役に立つ」や「英語ができるとアメリカで給料をいっぱい貰える」と答えを出すことができるわけだ。
ただ「わかったところで時すでに遅し」と、ここで後悔しておしまいというケースが大半だと思う。
だが現代文で得られる知識は、年齢に関係なく効果をもたらす。
これからも数多くするであろう「~ですか?」という質問を、「説明せよ」と自分への問題に変換できるためだ。
また、これに対して自身だけでなく相手を納得させる説明をする力も身に付くからだ。
ここまで有用な能力は他にもないだろう。
しかも効果はそれだけではない。
現代文で取り上げられる文章は、全て優れた筆者が書いているからだ。
芥川龍之介や夏目漱石に太宰治という100年近く語り継がれていく文豪。
ビジネス書でもおなじみの社長やノーベル賞に輝いた科学者。
いずれもトップクラスの知識人である。
そんな彼らの叡智が詰まった言葉たちを現代文では吸収できるのだ。
さらに「説明せよ」という強力なガイドも付いている。
これほど贅沢な科目が他にあるだろうか。
私の知る限り、これは現代文以外にはない。
だからよりよい答えを導き、そして相手にも自分にも効果的な質問を提示できるように、改めて現代文について勉強していきたいと思う。
生きている限り疑問は発生し続けるのだ。
ならば、それらを徹底的に味わい尽くした方が得である。
そして、この工程を最大限に効率化する手段が現代文には詰まっている。
この力を信じて、数多くの「説明せよ」という設問に答え続けていきたい。
□ライターズプロフィール
村人F(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
名乗る名前などございません。村人のF番目で十分でございます。
秋田出身だが、茨城、立川と数年ごとに居住地が変わり、現在は名古屋在住。
読売巨人軍とSound Horizonをこよなく愛する。
IT企業に勤務。応用情報技術者試験、合格。
2022年1月から、天狼院書店ライターズ倶楽部所属。
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