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読んだ人の感動を引き継ぐ「読継本」は、次世代のコミュニケーションツールとなるかもしれない(読継本・インタビュー)《WEB READING LIFE》


2023/4/20/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
人との出会いの機会が、アナログからSNSなどのデジタルへと移りゆくなか、まるでその流れに逆行するかのような新しいサービスが始まろうとしている。人から人へと手渡される「感動」を付加価値として、新たなつながりを構築するツールとなることを願って誕生したのが、「読継本」だという。読み終わった本を次の人へと受け継いでいくバトンリレーの肝は、他者との読書体験の共有にある。「出会い系サイトならぬ、出会い系本だと思ってもらえれば」と話す天狼院書店店主の三浦崇典さんに、新サービス「読継本」についてお話を伺った。
 
汚れていくことが「価値」になる本とは?
--「読継本」は、読み終わった本を天狼院書店に買ってもらって、それを再び販売するリサイクルシステムのようなものだとお伺いしました。それだけを聞くと古本屋のような形かと思うのですが、「読継本」ならではの独自のコンセプトがありましたらお聞かせください。
 
三浦:古本のリサイクルとは、全く別の概念から読継本は生まれました。読継本は本来の本を読む楽しさを買うだけではなく、ちょっと語弊がある言い方かもしれませんが、人との出会いを買うことができる本だと考えてもらったらいいと思います。なので、本というよりは、人とつながりを持つためのツールという考え方なので、古本屋で古本を買う感覚とはまた違ってくるのではないでしょうか。
 
古本屋で本を買っても、以前の持ち主とつながることはないですよね。前の持ち主が誰かもわからないし、その人が本のどの部分で感動したのかも知ることはできないでしょう。しかも気に入って読み潰した本、例えばアンダーラインを引いたり、お気に入りのページを折ったり、書き込みをしてしまった本は、汚れた本ということで古本屋では買ってもらえません。ですが、読継本では、逆に読んだあとの軌跡にこそ価値を見出しています。
 
--古本屋で値がつかないくらいの本に価値があるということでしょうか? 買うならば、できるだけ綺麗な状態のものがいいような気がするのですが。
 
三浦:単に読書を楽しむ用途であれば、そうかもしれません。ですがこの読継本の最も重要なコンセプトは、人とつながりを持って読書体験や感動を共有するというところにあります。古書店では価値がないものと見なされる本に、新しい付加価値をつけていこうとするのが読継本になります。読み終わった本イコール古本という概念を、僕としては壊そうと思っているんです。
 
読書を通じて感動体験を共有することが「価値」となる
--読書の共有体験に価値を置くということですね? 共有体験があると共感が生まれそうですが、果たして、人とのつながりはどういう形を想定されていますか? また、読継本をどのような形で販売される予定ですか?
 
三浦:僕は孤独の「孤」に読むと書いて「孤読」という造語を作ったんですけど、まさに「孤読」を避けるために、人と人との感動の体験を共有する読書体験を共有するというのが、読継本の大きな目的でもあります。感動の軌跡を追体験して、「この人、同じところでドッグイヤーしてる!」みたいな感じで、自分より前に読んだ人、前の読人(よみびと)と言っていますが、その人と本を通じて出会っていただきたいと思っています。
 
別に、交流は本名じゃなくても大丈夫です。筆名みたいな感じで、リーディングネームというのを新しく作りました。読名、とでもいうところでしょうか。それを自分で好きなように作ってもらって構いません。読継本の中に、図書カードみたいなものを入れていますので、そこにインスタグラムやツイッターなどのSNSのアカウントを貼っておけば、交流ができるということになります。
 
読継本は、天狼院書店の秘本のように、黒いカバーで覆ってタイトルが見えないようにして販売します。何の本が入っているかわからないほうが、ドキドキしますよね。それを含めて楽しんでほしいです。黒のカバーには、白いペンでその本のキャッチコピーのようなものでもいいし、おすすめのコメントを書いてもらえればと思っています。いろんな人の直筆の言葉が本のカバーにぎっしりと書き込まれた状態になって、それがズラッと並ぶと壮観ですよね。買うときには、字の好みとかキャッチコピーに惹かれて購入することもあると思います。また読継本は、本棚に並べるのではなく、吊り下げた状態で陳列するとかっこいいかなとイメージしているところです。
 
読継本が、人と人との出会いをつなぐバトンとなることを願って
--本というアナログなものと、SNSでの交流というデジタルなものとのハイブリッドシステムになるわけですね? デジタルが勢いを増す今、なぜ読み終わった本を媒介としたサービスを始められようと思ったのですか?
 
三浦:人と安易に出会えるのって、つまらなくないですか? 僕はジブリ映画が大好きなんですが、『耳をすませば』の天沢聖司と月島雫のような出会いを実現させたいなんて思っているんです。なので、そんな状況設定を、本を使ってやっていくと面白いなと。若干アナログが入った方が面白くないですか?
 
今の時代、アプリなどですぐつながれるのって容易なんですけど、容易なだけにドラマが薄くないかなというのをちょっと感じているんです。今から、ある種のアナログ回帰の出会いというのが、すごく求められる時代になるかなと僕は思っています。人と人が出会ったその間に、モノとしての本が介在するというのは、非常に奥ゆかしくて、それが面白いんじゃないかなと感じるんですね。何だか汚れていてページが折られている本みたいな、そんな人の手垢がついたようなものに、もう一回価値が戻って来る可能性があるような気がしています。
 
--面白いコンセプトの読継本ですが、やはり新刊とは違う扱いになると思います。読継本の価格はどのように設定される予定ですか?
 
三浦:新書や漫画は、一律で500円です。それ以外の四六判、A5版以下を想定しているんですけれど、四六判の普通のソフトカバー、ハードカバーなどA5版以下の一般書に関しては、1000円を予定しています。なので、価格設定は1000円と500円の二択になってくると思います。あと天狼院書店の読書クラブに入ってない方は、一冊読継本を買えば売ることができるという状況になります。
 
--天狼院は全国に10か所店舗がありますが、読継本はオンリーワンの本になると思うので、店舗ごとに品揃えが違うということになるのではないでしょうか? 例えば京都や名古屋の店舗に欲しいものがあったときにそれを買うとしたら、その店舗に行かないと買えないのでしょうか?
 
三浦:実は現在、天狼院書店のホームページの大改装を考えていて、今、設計が着々と裏で進んでいるんですね。ECサイト化する予定です。なので、ECサイトで他店舗の本も買えるようにします(笑)。ただ、一番いいのは、吊り下げられている読継本を実際に見ながら選んでいって、買い物カゴに入れていくのが楽しいんじゃないかなと思っています。それで、ライブコマースで売ることも想定しています。
 
ライブコマースがどういうものかというと、お客様が「遠方で店舗に行けないわ」とか、「ECサイトだけじゃなくて、雰囲気が知りたいわ」となったときに、スタッフが「じゃあ、今週は東京天狼院からお送りします」みたいに、ライブ放送のようなものをするんです。そこで、「どういうものがありますかね」ってスタッフが店舗を見に行って、現場から「欲しい人どんどん言ってください」とお客様に呼び掛けて、やり取りをしながら決済をしてもらって、そのまま本を発送してしまうみたいなやり方を想定しています。
 
あと月に1回くらい、古本市みたいなバザーを開くつもりです。人と直に繋がれるじゃないですか。これは面白いなと思いますね。そんなことをしながら、人と人とをつなげていけたら嬉しいですね。
 
--人とのつながりを目的にした読継本ですが、本で出会うというアイデアは人のぬくもりが感じられて、一周回って逆に新鮮な気がします。読継本は本を読み継いでいくだけでなく、人との縁をつなぐ新たなコミュニケーションツールとしての役割を担うということですね。「出会い系本だと思ってもらえれば」とおっしゃっていた読継本が、恋愛や友人関係が始まるきっかけを与えてくれるかもしれません。
 
三浦:そうなれば嬉しいですね。本を読み、本で出会い、感動の軌跡で繋がるのが読継本です。その本を前に読んだ人と読書体験を共有して、SNSなどでつながることができるという不思議な本なんです。読書中、感動して線を引いたり、ページを折ったりした感動の軌跡が価値となります。読継本を介し、感動体験を共有することで出会いのバトンリレーがつながっていくことを願っています。
 
 

【出品大募集中】本を読み、本で出会い、“感動の軌跡”で繋がる読継本


 
 

□ライターズプロフィール
今村真緒

福岡県在住。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、推し活、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。

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