週刊READING LIFE vol.216

ダークだけど目が離せない映画たち《週刊READING LIFE Vol.216 オールタイムベスト映画5》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/5/22/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
後味が悪い、気が滅入る映画として「鬱映画」という括りを最近よく目にする。
お薦めされるがままに観てみると、後味の悪さとグロさに後悔する。
 
そりゃそうよね。
そうやって紹介されているのだから……。
 
でも、ダークな映画に惹かれる自分もいるわけで。
 
まったく共感できない映画なのに、なんだか目が離せない映画がある。
恐ろしいのに目が離せない映画がある。
 
あれは何だったんだ? どういうことだ?
もう一度確かめたい映画がある。
 
そんな思いが残る映画たち。
 
四の五の言わずに早く紹介しろって?
 
承知しました。
では、ダークだけど目が離せない、そんな映画を5本、紹介したいと思います。
洋画3本、邦画1本、短編アニメ1本のラインナップになっております。
あ、格好いい映画ではありますが、小さなお子様にはお薦めしませんのであしからず。
最後までお付き合いいただけると光栄です。
それでは、いきなり、超絶ビッグな監督作品からどうぞ!
 
1本目は『時計じかけのオレンジ』を紹介しよう。
 
1971年に公開されたこの映画は、映画界の巨匠、スタンリー・キューブリック監督の作品だ。
スティーブン・キング原作でジャック・ニコルソンが主演した『シャイニング』もキューブリックの監督作品だ。
 
名作といっても人にお薦めしにくい映画ではある。
だって、胸クソ悪い暴力のオンパレードなんだもの。
しかし、映像がなんとも格好いい。
目を背けたくなるのに、目が離せない、まさしくそんな映画にぴったりではないだろうか。
1971年の古い映画だというのに、おしゃれなのだ。
もちろん、暴力をおしゃれと言っているわけではない。
 
ジーン・ケリーの「雨に唄えば」や、ベートーヴェンの「交響曲第九番」をバックに行われる暴力行為。
そしてそれは、時には早送りで行われる。
その映像に圧倒される。
また、少年たちの統一されたコスチュームやインテリアやメイク。
胸クソ悪くても、「キューブリック、すげぇ」と言わざるを得ない。
 
舞台は暴力が蔓延る近未来のロンドンの架空の都市。
主人公は暴力の化身であるアレックスという15歳の少年だ。
仲間たちと喧嘩とレイプに明けくれる日々を送っている。
演じているマルコム・マクダウェルはとても15歳にはみえないが印象に強く残る。
仲間と一緒にお金持ちの家に強盗に入り、老婦人を撲殺するが、アレックスは仲間に裏切られて収監されてしまう。
 
後半は洗脳の話になってくる。
アレックスは凶悪犯罪者の人格を改造する「ルドヴィゴ療法」の実験台となることを引き換えに刑期短縮の機会を得る。
この治療がまたえぐい。
「不快感」と「残虐な映像」を同時に進行させて人格を改造することが目的の実験だ。
 
この作品を観ると音楽と記憶が深く繋がっていることがよくわかる。
辛い時期によく聴いた音楽を聴くと、トラウマを思い出す引き金になったりする。
大好きな音楽が辛い記憶と結びつき、これを聴くと、アレックスは吐き気に襲われる身体になってしまう。
そして、過去に犯した過ちが、音楽とともに復讐として彼のもとへとやってくるのだが……。
 
ラストまで観ると、なにを観せられたんだろうと、放心状態になる。
途中で心折れる人もいるかもしれないが……。
 
キューブリック、変態だな。
ただ、その才能には感服だ。
 
では、次の作品を紹介しよう。
 
2本目は『メメント』だ。
 
2000年に公開されたこの映画は、『ダークナイト』『インセプション』などで有名なクリストファー・ノーラン監督の作品だ。
観終わった後は、「どゆこと?」と頭が混乱する。
そして、もう一度巻き戻して観たくなる。
 
主人公は10分間しか記憶を保てない男。
妻が殺害されたショックで記憶障害を負ってしまう。
犯人をさがしたくても記憶を保つことができない。
どうする?
ポラロイドカメラで写真を写してメモを書く。
 
ありふれたモーテルの部屋。
聖書を読む。
 
次にしたいことだけわかっていて、たった今したことを覚えていない。
では、何を信じる?
そして男は身体にタトゥーを彫って、記憶を身体に刻む。
 
なんとも難解な映画だ。
驚くべきは、時系列で画面の色が違う。
時系列が現在から過去へ遡っていくのがカラーパートで、時系列が過去から現在へとそのまま進行していくのがモノクロパートだ。
時系列が頭のなかでパニックになる。
主人公ではないが、起きたことをフローチャートのように書きとめたくなる。
主人公こそ信頼できない。
 
ちなみに、わたしはこの映画を元旦に観た。
ええ、正月には向かない映画であることは間違いない。
ただ、おめでたい正月と似つかわしくない作品であるからこそ、余計に記憶に残るのかもしれない。
忘れたくない映画は元旦に観ることをお薦めする。
 
さて、2本紹介したが、なかなかのこってりではないだろうか。
アブラマシマシな映画だったので、ちょっと清涼感のある映画を1本紹介しよう。
清涼感といっても、もしかしたら今の2本よりも恐ろしいかもしれない。
爽やかに感じるけれど、一筋縄ではいかない、ジブリの短編アニメだ。
 
3本目は『On Your Mark』を紹介しよう。
 
なんてものを作ったんだと驚く。
環境を破壊する人類への恐ろしい警告だ。
 
1995年にCHAGE and ASKAの楽曲である「On Your Mark」のPVをスタジオジブリが手掛けた。
コンサートツアーで上映された作品だが、『耳をすませば』と同時上映作品として劇場でも上映されている。
原作、脚本、監督のすべてが宮崎駿という豪華さ。
 
6分48秒という短い時間のなかに、いろいろな意味に解釈できる映像がたくさん散りばめられている。
 
主人公の二人の警官がCHAGEとASKAを思わせる。
このASKAのような青年が格好いい。
『もののけ姫』のアシタカや『ハウルの動く城』のハウルよりも格好いいのではないかとわたしは思う。
 
のどかな田舎の風景のなか、突如現れる奇妙なマーク。
それは、放射能注意のマークだ。
放射能が漏れて普通に住めなくなった世界が舞台ということだ。
映像にセリフは一切ない。
流れてくるのはCHAGE and ASKAの楽曲だけ。
 
この作品では幾度となくタイムループが起こる。
6分48秒の作品のなかで、タイムループが何度も起こるってすごくないか?
 
地上は人間の住める場所でなくなり、人々は地下で生活している。
そんな世界で人が頼るのが宗教だ。
その宗教の施設に武装した警官が突入する。
警官だけれど、人を殺すのが当たり前のように、ためらいなく銃を撃ち、息をしていないかを確認する場面が恐ろしい。
これが彼らにとって「普通」の仕事なのかと思うと、愕然とする。
 
そして、主人公の二人は監禁されていた翼の生えた天使のような女の子を救う。
救出に失敗したり、救出に成功したり、同じ場面でタイムループが起きる。
 
観る機会があれば、小物にも注目してほしい。
女の子が監禁されて横たわる床に、炭酸の清涼飲料水の空き缶が転がっている。
そして、救出に失敗したときに二人が飲んでいた居酒屋の壁にかけられたメニューに「バイオ蛸酢」というメニューがある。
この二つは何を意味しているのか……。
 
人類みずからが壊してしまった世界の恐ろしさが、一見爽やかに描かれているこの作品。
ゾッとするほど恐ろしく、ハッとするほど美しいジブリの短編アニメーションなのだ。
 
では、後半2本、いってみよう!
この2本は女の情念の静と、執念の動が描かれている。
 
4本目は『この子の七つのお祝いに』を紹介しよう。
 
岸田今日子の演技がトラウマ級に光るこの映画は、1982年に公開された日本映画だ。
原作は、第1回横溝正史賞を受賞した、斎藤澪の同名小説。
この映画は、幼い頃、偶然、テレビで観た。
何もわかっていない幼いわたしにとって、とにかく岸田今日子の演技が怖かった記憶がある。
あまりの怖さで、当時はホラー映画と勘違いしていた。
 
今、見直してみると、ホラーではなくサスペンス映画だった。
終戦から数年ほどたった日本が舞台。
岸田今日子が演じる身体の弱い母親は、狭いアパートで幼い娘と二人暮らしをしている。
そして、幼い娘に父親の悪口を毎晩言い聞かせる。
 
「お父さんを恨んで、憎みなさい。お父さんに復讐してね。決して許してはダメ」
 
毎晩父親は悪い人だと教え込まれる幼い娘。
そして、子守歌として母親が娘に歌うのは「この子の七つのお祝いに」。
そう言われるとピンとこないかもしれないが、「とおりゃんせ」と言われるとわかる人も多いだろう。
 
「とおりゃんせ」
 
もう、パワーワードだ。
怖い言葉がすべて入った童謡を、岸田今日子が震える声で歌うのだ。
 
そんなの怖いに決まっている!
 
そして、狭いアパートの部屋に並ぶ日本人形。
日本人形と「とおりゃんせ」の童謡の組み合わせは最強だ。
そりゃ、子どもが見たらトラウマになるでしょう。
瞬きをしない岸田今日子の演技がとにかく凄まじい。
そして、娘が7つになったとき、娘の前で自殺をする。
 
30年後、ある一人の女が殺される。
ルポライターの男は、次期総理の座を狙う大蔵大臣の私設秘書の妻である占い師が、奇妙な手相占いで政界に影響を与えていることを知る。
事件を追いかけていくうちに、この事件が30年以上も前の人の恨みと繋がるというわけだ。
女の恨みの深さがとんでもなく怖く、悲しい。
夜、寝る前にこの映画を観ると、大人でもトイレに行けなくなるかもしれない。
 
では、ついに最後の1本を紹介しよう。
 
5本目は『ミザリー』だ。
 
1991年公開のロブ・ライナー監督の作品だ。
簡単に説明すると、ストーカー映画だ。
スティーブン・キング原作のこの作品は、主人公である作家の狂信的なファンをキャシー・ベイツが演じている。
1991年のアカデミー賞で彼女が見事主演女優賞を獲得しているのも納得だ。
さきほどの岸田今日子が静の怖さだとすると、キャシー・ベイツは動の怖さだ。
感情の起伏も激しく、狂気を身体全体で表現する。
 
主人公は『ミザリー』という小説が当たった有名作家だ。
冒頭、主人公が雪道のなか、車を走らせる。
そして、車は吹雪のなか、事故を起こす。
血だらけ主人公を助け出したのが、キャシー・ベイツ演じるアニーだ。
彼女は看護師だったので適切な処置で作家は一命を取りとめる。
彼女はこの作家の大ファン。
作家のファンというより、『ミザリー』という小説の大ファンだ。
 
主人公の脚は複雑骨折で動かない。
雪で道が塞がれている。
事故にあったことは誰も知らない。
密閉された空間。
 
もう、恐怖でしかない。
 
大好きな作家を優しく看病するのは長くは続かない。
結構早い段階でアニーの狂気が炸裂する。
アニー、キレるの早いってば!
 
作家も「こいつはやばいヤツだ」とすぐ見抜き、精神的にも肉体的にも追い詰められていく状況のなかで、駆け引きのような会話をするのが印象的だ。
 
やはり、目に見えないものよりも、人の心の歪みのほうが怖いのかもしれない。
幽霊だって、もとは人の怨念から生まれますから。
 
どの映画も、心に何か棲みつくことは間違いない。
もし、ご覧になるのなら、心が穏やかなときに観ることをお薦めする。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

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2023-05-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.216

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