3時間のインタビューで実感する「友達」《週刊READING LIFE Vol.231 癒しの時間》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2023/9/11/公開
記事:村人F (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
インタビューをしたことのある人はほとんどいないだろうが、重労働だと推測できるだろう。
まず準備段階で相手の情報を徹底的に調べて質問を用意しておかなければ、まともに会話が成り立たない。
さらに無事終了したとしても、その後には「文字起こし」という恐ろしい作業が待っている。これは録音した会話を全て文字の形に落とし込むことだ。
この作業によって聞き出した情報を全て文章形式で確認できるようになるのだが、これが非常に辛い。
1時間インタビューした場合、大体2万字近い文字数になるからだ。
最近はAIの発達で自動化できるようになったとはいえ、この量の文章と向き合うのはタフな作業である。
しかも、その後には記事としてまとめる必要もある。
これらはかなりの仕事量だ。
そして私は、このインタビューに趣味の自己啓発で挑んでしまった。
通っている文章講座の課題で出たからという安易な理由である。
ただ、それを決意した時点でも後の作業を想像し結構な後悔をしてしまっていた。
しかし実際に行ってみると、思っていた以上に楽しくできた。
徹底的に調べ上げなければならない事前準備も、それによって盛り上がりすぎた3時間におよぶ音声データの書き起こしも、苦行という感覚がないまま終わったように思う。
むしろ癒しとまで言ってもいいかもしれない。
それくらい心地いい時間を過ごせたのである。
理由は、相手が友達だったからだろう。
知り合ったのは今年に入ってからだから、まだ1年も経っていない。
ただ音楽の趣向が異常に合い、マニアックな会話ですらスムーズに成立してしまうほど仲良くなった。
依頼したのもその一環で、趣味でされている曲作りについて聞きたいと思ったのがキッカケだ。
そういう意味でじっくり話をしたい方にインタビューをできたので、楽しい会になるのは必然とも言えるだろう。
ただ、だからこそインタビューをする意味が凝縮されているように思えたのだ。
まず事前準備の段階で、これまでの関係が整理できる。
出会ってから1年も経っていないので、正直知らないことも多かった。
LINEでの連絡は結構しているが、現実で会ったのも3回ほどしかない。
だから仲がいいとはいえ、よくわかっていない部分も多々あったわけである。
しかしインタビューを依頼するためには、相手についてよく理解しなければならない。
趣味の曲作りについて聞く場合なら、動画サイトに投稿された作品の全チェックは当然行わなければならない。
それだけでなく経歴や音楽以外の好きなことなど、よい内容にするためには調査すべきことが多くあるのだ。
ここまで徹底的に調べ上げてようやく、ちゃんとした質問ができる。
その意味では事前準備は全ての勝負を決める最重要過程であり、だからこそ普段はプレッシャーが非常にかかる勉強時間となってしまう。
だが友達相手になると、これが思った以上に楽しくできたのだ。
インタビューを意識して作った曲を聴き返すと、今まで逃していた細かいニュアンスを発見できる。
わかりやすい特徴だけでなく、歌詞やメロディーの中に込められた相手の性格や癖、伝えたかったメッセージなど様々な情報が読み取れる。
これを何度も繰り返していくうちに、わからなかった部分が自然と晴れていく。
こうして徹底的に調べ上げていくことで、だから仲良くなったのだと再認識する。
この時間は、興味のある分野は楽しく勉強できるという事実を実感するのに最適だった。
そして、これらの感覚は文字起こしにも当てはまる。
この作業では、会話の全てと文字で向き合う必要がある。
今回行った3時間の音声データを自動で作業してくれるAIに処理させたところ、その文字数は約8万字におよんだ。
これら原稿用紙換算で200枚におよぶ文字列と向き合わなければならないのだ。
しかも会話をそのまま文字にしているから「えーと」といった不要な言葉や、日本語として不自然な部分もある。
これらを整形しながら見直す必要があるため、作業完了までかかった時間は約16時間となった。
しかしこの時間は辛いどころか、むしろ幸せな時間だった。
それは記憶に残らずスッと消えてしまうような普段の会話。
これらを文字という形で記録していく作業だからだ。
思えば普段の会話では、どれだけ適当に言葉を交わしていたことだろう。
たとえ喫茶店で1時間おしゃべりしたとしても、出てきたフレーズなどほぼ忘れてしまう。
仲のいい友達同士でも、頭に残る部分などほんの少ししかないのだ。
だがインタビューで録音することで、これらを身体に染み込ませることができる。
この効果は、想像以上に楽しい。
相手の口癖がだんだんとわかり面白くなる。
普段はスルーしていた文言の中にも、結構な名言が隠れていたことにも気付く。
なにより超高速かつ噛みまくりで判別不能な私の発言をしっかり聞いてくれた上で、思いを素直に伝えてくれる。
こういった友達だからこそしてくれる配慮が、文字起こしをすることで理解できるのだ。
さらに結果を、記事を書くために何度も読み返す。
これによって普段は記憶から消え去るだけだった、何気ない会話が身体に染み込んでいく。
この心地よさは、仲良くなってよかったと再認識するのに十分すぎる感覚だった。
そして、これらの作業を丁寧に行うことでインタビュー記事を書こうと心から本気で思える。
私の友達が想像していた以上に魅力的な人だったことを、事前準備と文字起こしを通して実感しているからだ。
だからこそ世に出すため原稿を徹底的に仕上げたくなる。
文章としては整っていない会話を、相手らしさはそのままにスムーズな形に修正する。
本当に言いたかったことを意訳して、気の利いた発言をより際立たせることもする。
このように妥協なく渾身の作品にしたくなるのは、相手が友達だからなのだ。
その意味では、世の中で最もじっくりとした会話をする手段こそインタビューと言えるだろう。
逆に言えば、普段どれだけ雑に会話をしているか。
これを浮かび上がらせるのがインタビューのように思える。
調査して改めて思ったのだ。
私は友達についてほとんどわかっていなかったと。
なぜ、そのような音楽を聴くようになったのか。
どうして曲を作ろうと思ったのか。
仲がいいと思っていた人に対しても、漏れている情報がどんどん見えてくる。
さらに他に対しても似たような状況になっていたことに気付く。
私は友達に対しても、なんとなくの理解しかしていない状態で触れ合っている。
この無知具合が、新たな事実を発見する度に認識させられてしまうのだ。
そして思う。
これで本当にいいのかと。
相手は仲良く接してくれている方である。
そういった存在ほど貴重な人はいない。
私は基本的には口下手なので、自分から友達になろうとは中々言い出せないタイプである。
それなのに話を合わせてくれるだけでなく、貴重な時間を作ってくれる。
考えて見れば3時間はとんでもない長さではないか。
それほどの時間、会話に付き合ってくれたのだ。
しかも完成した原稿も何回もチェックしてくれる。
この文量も、文字起こしからカットしたとはいえ4000字におよぶ大作だ。
これにしっかり目を通し、よりよい作品になるようアドバイスをくれる。
そういうことをしてくれる方と友達になれたのだ。
ならばもっと向き合わなければならない。
頭に浮かぶ友達の皆さんは、私に対して仲良く接してくれているのだから。
そのお返しは、「友達になってよかった」と思ってもらうこと以外にないだろう。
このためには、相手についてより興味を持たなければならない。
好きな曲やご飯など、知らないことがあまりにも多すぎるからだ。
そういったことを、会話を重ねるごとに理解していく。
これによってお互いに、それぞれを喜ばそうとしあうわけである。
そしてこの過程を繰り返していくからこそ、かけがえのない友達になっていくのだ。
今回のインタビューは、それを実感したよい機会だった。
普段の会話など、驚くほど記憶から消えてしまう。
喫茶店で2時間喋っていたところで、覚えているフレーズなど2、3個あればよい方だろう。
それくらい雑なやり取りをしてしまっているのだ。
しかしこれらは、文字にすると数万字におよぶ大作なのである。
そして、残しておきたい名言も思っていた以上に含まれる。
これらは記事として出しても問題ないほどに濃密な会話なのだ。
そして、この事実を最も実感できる方法こそインタビューなのだ。
事前準備にて相手との関係を整理して、知らなかったことを洗い出していく。
文字起こしを通して気付かなかった口癖やよいところを染み込ませる。
これらは確かに大変な作業なのだが、思っていたほどの苦行にはならない。
なぜなら友達だからである。
その関係になったのは、推したい部分があるからに他ならない。
それをじっくりと調査できるのだ。
だから楽しいに決まっているではないか。
そしてまとめた記事を書くことで、そのよさを広めることができる。
こうして人間関係の輪が広がることほど、美しい状況はないだろう。
あなたも、この奇跡を体感してみてはいかがだろうか?
もちろん3時間の会話を文字起こしも、インタビューを記事にまとめるような多くの作業は必須ではない。
時間は10分でもいいし、アウトプットも日記に書く程度でいい。
それだけで十分なのだ。
親友を心から推すためには。
□ライターズプロフィール
村人F(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
名乗る名前などありません。私などしょせん村人のF番目でございます。
秋田出身だが、茨城、立川と数年ごとに居住地が変わり、現在は名古屋在住。
読売巨人軍とSound Horizonをこよなく愛する。
IT企業に勤務。応用情報技術者試験、合格。
2022年1月から、天狼院書店ライターズ倶楽部所属。
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