産後の自分に贈る「最初の一杯」とは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:まるこめ(ライティング・ゼミ11月コース)
ずっと、悩んでいることがある。
妊娠を機に、禁酒を初めて約1年。あと1年も経たないうちに、その生活はきっと終わりを告げるだろう。そして「最初の1杯を何にするか」というのを考えるのが、授乳中で酒が飲めない私の楽しみであり、悩みのタネである。
「酒、飲めなくて辛くないんですか?」
と、聞かれるくらいには嗜んでいた酒。仕事から帰って、私の疲れを癒してくれていた酒。家族が料理を美味しそうに食べてくれているのを眺めながら、キッチンでいただく幸せな酒。子供が寝た後に、旦那さんと2人でいろんな話を膨らませながら楽しむ酒。
あんなにも好きだったはずの酒なのに……意外にも、妊娠がわかると「うん、飲まなくて平気だなぁ」となってしまうから不思議だ。
最近だと、ノンアルコールドリンクの種類も増え、昔に比べて美味しいものもかなりある。体のことも考えると、普段ジュースを飲まない分、ノンアルでも良いんじゃないかな、とさえ思うようになっていた。
今、酒が飲めないこと自体は別に辛くはない。
だけど、だけど……
いざ目の前に「酒が飲めるぞ」と禁酒生活のゴールが見えてしまうと、やっぱり飲みたい。
ただ、いざ飲めるぞ! となった時、何を飲むのが正解なのか答えが見つからないのだ。
若い頃であれば、迷わず「ビール」一択だったと思う。
疲れた体に駆け巡る、シュワシュワと弾ける炭酸。乾いた喉を潤しつつ「さあ、飯だ!」と号令をかけるような喉越し。一日頑張った辛さをつれて、腹の奥へ誘い消化してくれるビール独特のあの「苦味」も最高だ。どんな食事にも大体合うし、グビっと飲めるというのは「最初の一杯」には最も相応しいと思っていた。
けれど「最初の一杯」という重責を、ビールだけに押し付けてしまって良いものだろうか、とついつい考えてしまうのだ。2年近く禁酒して、いざ! という一杯を、ゆっくり味わうことも大事なんじゃないだろうか?
そうなると「日本酒」というのもアリだなぁ……となってしまう。
ひと口、ひと口と口に含めながら「あぁ、私頑張ったなぁ」と自身を労うのは最上のご褒美のような気がする。それに、日本酒を口に含んだ時に香りが口の中で広がる感じは、花畑の花が一斉にフワッと花開くような感じに似ている。あの幸せな心地を、美味しいつまみと共に堪能できたならどんなに素敵だろう。飲み終わった後のキリッとした感じも、メリハリが合ってたまらない。酒の肴を選ぶのも、日本酒を飲む楽しみの一つではないだろうか。「特別な一杯」のための特別な一皿。ツマミを作る過程も、特別な一杯のための前菜と思うとこれまた贅沢なもんだ。日常の一杯ではなくて、禁酒明けの「最初の一杯」なのだから、やっぱり雰囲気も大切にしたい。
いや、待てよ……雰囲気、となると「ワイン」だって良いじゃないか!
優しい泡たちが、口の中で「お疲れ様」とスタンディングオベーションで迎えてくれるような、スパークリングも良いし、フルーティーな中にキリッとした白も素敵だし、やはりオトナな雰囲気の赤も良い。ワインのペアリングって一つ一つが映えるし、生ハムやチーズにオリーブ……買ってきてお皿に乗せてしまえば、ワイングラスで「はい、乾杯!」と、あっという間に酒にありつけるのも良い。幼い子供がいる中でのタイパの良さは、確かに良いに越したことはない。
それなのに、どうしてだろう。甲乙つけ難いというよりは、どれも決定打にかける。こんなにも「飲めるなら、今にも飲みたいアルコール」と言えるくらいには、最初の一杯を心待ちにしているというのに……どうしても選びきれないでいる。結局のところ、「最初の一杯」って、お酒そのものの味よりも、その場にふわっと灯るあかりのような、空気の柔らかさに意味があるんじゃないだろうか。1日の育児や仕事の慌ただしさが、身体に残っていても、グラスを合わせる「カチン」という小さな音が、その日一日の重たさをそっと溶かしてくれる。そして、その瞬間、家族の会話がゆるやかに回り始めるのだ。
「なんだか、あっという間だったね」
「うん、そうだね」
こんな風に、これまでを振り返りながら、この瞬間だけは「お父さん、お母さん」から「夫婦」としての時間を過ごすことができる。お酒を飲むということは、私にとって夫婦の時間を楽しむためのスイッチみたいなものなんだと思う。そのスイッチを押せるなら、何を「最初の一杯」に持ってきても間違いない。旦那さんとならキンキンに冷えたジョッキでいただくビールも、温かみのあるお猪口でいただく日本酒も、おしゃれで雰囲気のあるグラスでいただくワインもどれも美味しいはずだ。そんなことを考えると、酒が飲めるようになる日が待ち遠しく、そして飲めるようになるまでの、この日々がとても楽しく感じられる。
《終わり》
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