第12回 《週間READING LIFE「けっこん、します」》
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
前回は第3章‘向き合うこと・感情’として、言葉の選び方などについてお伝えしました 。
今回はさらに違う側面から、いよいよ‘向き合うこと・関係の育てかた’についてです。
個人の見解で異なる事もあるかと思いますし、個人差もございます。これらをよくご理解頂いた上で、読み進めて頂きたいと思います。
不安や心配から、怒る・悲しい・悔しい・寂しいなど様々な感情が湧き上がり、ぶつかり合ってケンカになる。
「ケンカするほど仲が良い」という言葉をご存知でしょうか?
少し余談ですが、私は元夫とほとんどケンカした記憶がありません。
ということは、仲良しだったわけではなく、お互いに対して完全に「無関心」だったのです。
それでは本題に入りたいと思います。
皆さんは、パソコンを日頃からお使いでしょうか?
私のオフィスである日のこと、こんな光景がありました。
「社長ッ! パソコンがまた固まりました、どうしましょう?」
スタッフは一昨日くらいから、デスクトップパソコンと何度も会話し、ご機嫌を取りながら、見積書を期限内に仕上げるために必死になっていたのです。
それから3年半。
ある日突然、私のノートパソコンに、初めて見るメッセージが表示されました。
『バッテリーが劣化しています』
「劣化って?」と一瞬気になりましたが、
私は「まあ、まだ動くし使えるから問題ない」とスルーしました。
しばらくすると、次はこんなメッセージが出ました。
『バッテリーの充電が出来なくなりました』
「コンセントを繋ぎっぱなしにして使っていれば大丈夫でしょ」と、またスルーしました。
その2日後。
『ディスクがいっぱいです。不要なファイルを削除してください』
こちらはたまに見かけるメッセージなので、私はとくに考えることなく、
即座に「✖️」をクリックして画面を閉じました。
その時からパソコンは、何度も、色んなメッセージを私に送り続けてきました。
しかし私は「調子は悪いけれど、壊れたわけじゃない。まだ動くから大丈夫」と思い込み、いくつものSOSメッセージをスルーし、パソコンを酷使し続けました。
そして、ある朝のことです。
出勤し、いつものようにパソコンの電源を入れました。
すると、いつものデスクトップ画面がすんなりと立ち上がりません。
「コンセント、抜けてる?」と確認しましたが、ちゃんと繋がっていました。
それから少し待つことにして、2分ほど経過したでしょうか。
やっと、真っ黒な画面にいつものロゴがぽつんと浮かび上がってきました。
ホッとしたのも束の間。その数秒後、突然、事件は起こりました。
パソコンの画面が、これまでに見たこともない真っ青な色(ブルー画面)に変わり、英語混じりの不穏なメッセージが表示されたのです。
「何? このブルー画面。しかもこんなメッセージ見たことないし!」
「困った、なんとかしなきゃ」と、私は激しく焦り、色々なキーのあちこちを叩いてみました。
すると画面には、またしても初めて見る文字が現れました。
『自動修復 パソコンが正常に起動しませんでした』
自動修復という頼もしい文字に、私は
「なんだ、勝手に直してくれるんだ。よかった」とのんきに構えました。
よく見ると、その画面の右下に、小さく再起動と書かれたボタンがあります。
「良かった。これで再起動したら、もう大丈夫なはず」
私は慌てて、そのボタンをクリックしました。
すると次は、こんなメッセージが出たのです。
『デバイスに問題が発生したため再起動する必要があります』
「だから、今まさに再起動をクリックしたよ!」
思わずパソコンに向かって声が出ました。
しかし、パソコンは非情にもさらに次のメッセージを表示します。
『エラー情報を収集しています 自動的に再起動します』
「エラー情報? 何それ、まあいいか。でもなんで起動してくれないの?」
私はじっとパソコンを見つめました。募るイライラに任せて、その先の画面に進もうとした、まさにその瞬間でした。
パソコンの画面は、まるで怒り狂ったように真っ青から真っ黒に切り替わり、電源が「バシッ!」と大きな音を立てて落ちてしまったのです 。
「はー!? どういうこと!?」
つい、パソコンに向かって大声をあげてしまいました。
「もう一度電源を入れよう!」と、苛立ちのままに必要以上の力で、強くスイッチを押し込みました。
電源は入ったものの、また真っ黒な画面からロゴが出て、すぐに真っ青になり、同じエラーメッセージを私に送りつけてきます。
「どうしよう、完全に壊れた。今日中にやらなきゃいけない仕事があるのに……」
目の前の悪夢のような出来事の連続に、私はすっかりへこんでしまい、ただ黙って立ち尽くすしかありませんでした。
しかし、その沈黙の中で。
「もしかしたら……」と、私はある大切なことに、ハッ!と気づいたのです。
今までずっと、パソコンは何度も、何度も、色々なメッセージを私に送り続けてくれていました。限界が近づいていることを、とうとう悲鳴を上げながら知らせてくれていたのです。
それなのに、私は「面倒だから」「まだ使えるから」と気づかないふりをして、知らん顔をしていました。
きっと、パソコンも自分の発したメッセージをことごとくスルーされ続けて、ツラかったのだと思います。
私は大切な相棒を、自分の都合だけで、自己中心的に雑に扱ってしまっていました。都合の悪いことや面倒なことはすべて後回しにし、無視し続けた結果が、まさにこの悲劇だったのです。
ひどい扱いをしてきた私に、バチが当たったのだと痛感し深く反省しました。
「自分に届くメッセージを、自分にとって都合の良いように受け取ったり、見て見ぬフリをしてスルーしちゃダメなんだ!」と。
「後でね、いつかね」と対応を後回しにしてきたツケは、いつか一番最悪な形で返ってきます。
これからはパソコンも、人間関係も壊れてしまう前に、送られてくるサインの一つひとつを大事に受け止めようと心に誓いました。
と、今回は私のパソコンが壊れたお話でしたが、いかがでしたか?
実は、この『パソコンのエラーと故障のプロセス』は、日頃の人間関係や、ご夫婦の関係にそのまま置き換えることができるのです。
お互いが出会ったばかりの
**初期状態**
システムは最新で最適化されていて、何もしなくても高速でサクサクと動きます。
これは夫婦関係で言えば「好き」という感情が最大化されていて、新鮮で、お互いへの受容度が最高に高い時期です。
しかし、何年も一緒に暮らしていくうちに、必ず
**経年変化**が訪れます。
日々の忙しさやルーティンのなかで、小さな不満や我慢という‘メモリ(キャッシュ)’が少しずつ蓄積されていきます。
すると、お互いの反応に動作遅延が起きたり、些細なことから突発的なフリーズ(感情の衝突やケンカ)が発生するようになります。
この不調の『サイン(エラーメッセージ)』が出た時、私たちはどう対処しているでしょうか?
多くの人がやってしまいがちなのが、イライラしてキーボードを連打したり、無理やりコンセントを引っこ抜くような
** 短期的対処法 **です。
夫婦関係で言えば、感情を爆発させて怒鳴り散らしたり、あるいは完全に沈黙して関係を閉ざしてしまったり、
相手を強く非難する「Youメッセージ(あなたはいつも〜してくれない!)」を投げつけるような行為です。
これらは一時的な感情の発散にはなっても、大切なシステムを物理的に叩き壊してしまう原因になります。
本当に必要なのは、壊れる前に、あるいはフリーズしたその瞬間に、そっと寄り添う
** 持続的対処法 **です。
あの時オフィスでスタッフがやっていたように、少し時間をおいて熱を逃がし、相手の「ご機嫌」を伺いながら、優しくキーを叩いて対話のコマンドを入力してあげるのです。
具体的には、自分の本当の本音(第一次感情)を「Iメッセージ(私は寂しかった、心配だった)」として、言葉の温度を合わせて優しく差し出すことです。
「ご機嫌取り」と聞くと、なんだか自分を犠牲にして相手に媚びへつらうような、ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。
けれど、夫婦関係における「ご機嫌取り」とは、決して自己犠牲ではないのです。
それは「相手という大切なシステムが、今日も快適に、機嫌よく駆動できるようにするための、思いやりに満ちた環境調整」なのです。
感情と言葉の選択は、関係という車を長く走らせるためのアクセルとブレーキです。
そして、日々の関係の育て方とは、車でいうオイル交換や定期車検のような、こまめな日常のメンテナンスにほかなりません。
不完全な二人が、結婚生活という同じ船に一緒に乗る覚悟を決めて漕ぎ出したのです。
であれば、システムがフリーズしてから大慌てで叩くのではなく、日頃からお互いの仕様(システム)を理解し、すれ違いやエラーを未然に防ぐための‘日常的な関わり方(=育て方)’こそが、何よりも重要になってくるのです。
大切なパソコンも、そして一生を共にするパートナーシップも、壊れてしまってからでは遅いのです。
日々の小さな『メッセージ』をスルーせず、一つひとつを大事に扱っていくこと。
それこそが、‘関係を健やかに育てる’ための唯一の秘訣なのだと、私は強く痛感しています。
いかがでしたか?
次回の第13回は、さらにその先へ進みます。
‘向き合うこと・関係のその先へ’
日々のメンテナンスを重ね、関係性を丁寧に育て上げたお二人が手にする「真の信頼」の景色について、触れていきたいと思います。
《終わり》
❒ライタープロフィール
藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年以上携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。思い立ったら世界中どこまでも行き、知らない事はどんどん知ってみたい。好奇心旺盛で、即行動をする。
何があっても、今を全力で生きる。切り替えが早く、とにかく前向き。
これまでのブライダル業務の経験を活かして、次の世代に、未来に何を繋げていけるのか?
といつも模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。
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