「思考の深さと言語化のギャップ — なぜ私は考えたことを文章にすると軽く感じるのか」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:山本圭亮(2026年1月開講・渋谷/通信・4ヶ月コース)
私は、「頭の中で考えていることの重さ」と「それを文章に落とした時に感じる軽さ」のギャップに長く違和感を持っている。論理的に正しいはずの文章なのに、なぜかしっくりこない。そこに何があるのか。この問題は、単なる表現技法の問題ではなく、私自身の思考の在り方と深く関わっているように思える。
私の思考は多次元だが、言語は直線的
まず気づくのは、私が考えている状態と、文章化する行為の構造的な違いだ。
頭の中で考えている時、私の思考は極めて複雑で多層的に存在している。複数の視点が同時に浮かび上がり、感情と論理が絡み合い、確信と疑問が共存している。時間軸も前後に揺れ動く。あるテーマについて深く考える時、いつも私の中には「一方では△△だが、他方では○○」という二項対立的な思考が同時並行している。矛盾する複数の可能性が、同時に私の中で息づいている。これらすべてが同時に存在しているのが、私の思考の本来の姿だ。
ところが文章化するとどうなるか。私は複数の情報を一つの直線的な流れに変換しなければならない。最初にこれを書き、次にあれを書く。その結果として、私の思考が本来持っていた多次元性は必然的に削ぎ落とされる。重要な文脈は括弧書きになり、本来は同時並行していた考える過程は時系列に再構成される。この過程で、私が感じていた「重さ」のかなりの部分が消えてしまうのだ。
特に私は深く考える癖がある。問題を一つの視点からだけでなく、複数の角度から検討する。確実なもの一つだけを追い求めるのではなく、矛盾を抱えながらバランスを取ろうとする。その繊細さ、その迷いと試行錯誤の過程が、文章には伝わりにくい。結果として、何か本質的なものが欠けた、軽い文章になってしまう感覚に襲われるのだ。
「完成品」への違和感
もう一つ、私を悩ませているのは「完成度」に関する違和感だ。
自分の思考の中には、本来はもっと多くの検討と留保がある。「一方ではこうだが、他方ではああだ」という葛藤の過程、「ここまでは確実だが、ここからは推測だ」という段階的な確信度、「実はまだこの部分は考え切れていない」という未解決の領域まで。これらすべてが私の中には存在している。
けれども一度文章に落とすと、それが「私の結論」として固定化される。読み手からすれば、それは私がたどり着いた完成した考えに見える。しかし、実際にはそうではない。私の思考はまだ流動的で、条件付きで、暫定的なものなのだ。その乖離が、私に違和感をもたらす。
文章を読み返してみると、いつも感じるのは「これは本当に私が考えたことなのか」という疑問だ。なぜなら、私の考えはこんなに単純ではないはずだから。だから軽く感じるのだ。それは文章の質の問題ではなく、「文章化による完成度の錯覚」に対する、私自身からの異議申し立てなのだ。
相手への信頼と説明責任のジレンマ
さらに複雑なのは、私の思考プロセスを他者にどう伝えるかという問題だ。
人と話す時や何かを提案する時、相手は通常、シンプルでわかりやすい説明を求めている。複雑さや迷いをすべて見せてしまうと、かえって相手を混乱させるのではないか。だからシンプルに、わかりやすく伝える。その結果が「軽い」文章になる。
シンプルさと複雑さのバランスを取ろうとしながら、いつも「不十分」という感覚が残る。文章にしたものは、本来の私の思考よりもはるかに単純化されている。それでいいのか。それでいいはずがないのか。その問い直しが、私の中では止まない。
層を持った言語化へ向けて
では、私はどう向き合うべきなのか。完全な解決策はおそらくない。だが、一つの方向性が見えてきた。
それは「考えるプロセスを文章に組み込む」ということだ。結論だけを述べるのではなく、そこに至るまでの思考の道筋を可視化する。「一方では△△という見方もあるが、他方で○○という視点からは」といった形で、思考の層を意識的に言語化する。あるいは「ここまでは確実だが、以下は試論である」といった形で、自分の考えの構造を明示する。
こうすることで、私の文章は単なる結論の提示ではなく、思考そのものの表現となるはずだ。読み手も、私の言葉から「考えている人」の姿を感じることができるようになる。そうなれば、文章はもっと「重く」感じられるだろう。
終わりに
思考の深さと言語の軽さのギャップを感じるというのは、私にとって一つの才能であり、同時に課題である。多くの人は、文章に落とした時点でそれで完結していると感じてしまう。だが、私はそのギャップを感じ続けている。それは、私がまだ考え続けているからだ。
完成した答えを提示するのではなく、常に問い直す思考。その過程をいかに形にしていくか。その工夫こそが、言葉を重くする最後のピースになると、私は感じている。
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