メディアグランプリ

看護師長の礎は、法隆寺の木と熊本城の石垣である


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:清水 明子(2026年1月開講・福岡・2週間集中講座)

 

 

「良い組織をつくるとは、どういうことなのか」
私は長い間、その答えを探していた。そして今、振り返って思う。私の看護師長としての原点は、二つの日本の叡智に支えられていたのだと。それが、西岡常一氏の言葉と熊本城の石垣である。

西岡常一氏は、世界最古の木造建築である法隆寺を支え続けた名棟梁だ。彼の著書木に学べ』には、技術を超えた深い哲学が詰まっている。その中で、私の心に強く残った言葉がある。
「木を買うな。山を買え」

それは、木材そのものを見るのではなく、その木が育った環境を見よ、という教えだ。斜面の向き、風の当たり方、日照、寒暖差。そうした環境の中で育った木には、それぞれ固有の「癖」がある。左に曲がって育った木は、建物になっても、いずれ左へ戻ろうとする。だからこそ、その癖を見越して、最も力を発揮できる場所に使うのだという。

北の斜面に育った木は、一般的に建築には向かないとされる。しかし、西岡氏は言う。唯一使える場所がある。それは、建物の中で日が当たらず、冷えやすい場所だと。木の欠点を排除するのではなく、特性として理解し、活かす。そこに、千年建つ建築の秘密がある。

この言葉を読んだとき、私ははっとした。
これは、そのまま人の育成ではないか、と。

看護師長として部下を束ねるようになった私は、常に一人ひとりを「見る」ことを意識してきた。能力だけではない。性格、反応の癖、得意な場面、苦手な状況。厳しい環境で力を発揮する人もいれば、穏やかな場所で本領を発揮する人もいる。同じ配置、同じ声かけで、全員が育つわけがない。

だから私は、その人に合った仕事を与え、その人に合ったアプローチを心がけてきた。管理とは、均一化することではない。違いを理解し、組み合わせ、チームとして最大の力を引き出すことなのだと、法隆寺の木組みが教えてくれた。

もう一つ、私の心に深く刻まれている光景がある。それは、熊本城の石垣だ。
一つとして同じ形のない、ゴツゴツとした石。それらが、接着剤も使わず、絶妙なバランスで組み上げられ、巨大な城を支えている。初めて間近で見たとき、私は思った。
「これだ。私がつくりたいのは、この石垣だ」と。

人は皆、形が違う。角ばった人もいれば、丸みのある人もいる。そのままでは噛み合わないこともある。しかし、特性を見極め、適材適所に置けば、驚くほど強固な組織になる。石を削りすぎれば、石は壊れる。削らなければ組めないときもあるが、それは最小限でいい。

実は、私の看護師長人生の中で、「少しだけ角を削った」部下が二人だけいる。削ったのは、その人の本質ではない。チームとして機能するために必要な、ごくわずかな部分だけだ。それ以上は、決して削らなかった。

看護は、マニュアルや手順だけでは成り立たない。患者一人ひとりに病状の違いがあり、人生の背景があり、価値観があるように、看護師一人ひとりにも、歩んできた道と心の癖がある。その違いを無視して一律に扱えば、どこかで無理が生じ、ひずみが生まれる。ひずみは、やがて疲弊となり、離職やチーム崩壊という形で表に出てくる。

だからこそ、看護師長には「見る力」が必要なのだ。今、この人はどこに立っているのか。何に悩み、何に力を発揮するのか。声をかけるべきか、あえて見守るべきか。その判断の積み重ねが、チームを形づくる。

看護師長によって部下の束ね方は違う。レンガやブロックのように同じ形にして積み上げていく看護師長もいる。それは、とてもきれいに積みあがる。そのまま積み上げる者、目地を使い、強固なものにしていく者など様々だ。
部下の特性が様々なように、看護師長も様々だ。

私のこの方針が正しかったのかどうか。答えは、今、目の前にある。
私が束ねてきた部下たちは、全員が看護師長として現場で活躍している。さらに、私が進学した九州大学専門職大学院に、かつての部下が後に続いて入学している。これは部下を信じ、育て、任せてきた結果だと、私は受け止めている。

看護師長をやってよかった。
心から、そう思っている。

法隆寺の木と、熊本城の石垣。「木を組む」「石を組む」ということは、一本一本、一段一段慎重に作業を進めることだ。焦れば崩れる、基礎が甘ければどれほど立派に見えても長くはもたない。
法隆寺と熊本城。千年の時を越え、四百年の時を越え、今も私たちの前にその姿を見せてくれている。

西岡常一氏の言葉と、熊本城の石垣。それらは、今も私の中に息づき、次の世代へと受け継がれていく礎となっている。

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00



■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



関連記事