「昭和のラスボス」の平成のやり残し《週刊READING LIFE Vol.362「もうすぐ夏が来る 」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:まるこめ (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
梅雨だ。
梅雨が終われば、夏が来る。
暦の上では夏だけれど、本格的な夏はもう目の前に迫ってきている。
梅雨真っ只中に産まれたせいなのか、この時期はなんだかワクワクしてしまう。
夏が来たら、何をしよう?
B B Qは外せないし、花火もしたいもんなぁ。暑いけど、素麺も食べたいし、子供らをどこかへ連れていってあげたい。
楽しいことを考えられる、夏が好きだ。
主婦としては、花粉を気にせず洗濯物が干せるということも添えておきたい。なんでもすぐ乾いてくれるなんて、お日さまサイコー! 天からの恵みですわ、ホント。
そんな私が、近年になってこの時期になると決まって後悔することがある。
「ビキニ、着ときゃよかった……」
全く、着たことがないわけじゃない。若い頃、そりゃ海に行った際に着ましたよ、ビキニ。
ただ、私が着たのはビキニの上からパーカーを着てショートパンツを履くものだったから、パッと見はビキニに見えない。パーカーのファスナーを開ければ「それなり」に見えたはずだけど、なんだかんだで「オトナ女子」への扉をそっと閉じるように、ファスナーを上へと上げてしまって「ビキニとは?」という具合になってしまっていた。
あぁ、憧れのビキニ。
上と下がセパレートになったあの「いかにも」なビキニ。
海開きシーズンになると、ニュースで海水浴の報道を目にすることが増えてくる。
美人なお姉さま方が、きっと日頃鍛えたであろうその姿に、思い思いの情熱を身にまとい真夏の海へと繰り出す。インタビュー映像を観ながらふと、彼女らのビキニを眺めては「あーマジでビキニ着とけばよかったわー」とビール片手に思うのだ。
40を目前に今更な気もするけれど、ピチピチだった20代の頃はそんな事は全く思わなかった。元々、衣食住の中でも「衣」に対する熱は皆無に等しかった。服なんて、着られればいいじゃん! みたいな。服にお金をかけるくらいなら、シャレオツなカフェでコーヒーやスイーツに舌鼓を打ちたかったし、どこかへ出かけたかった。デニムにTシャツ、スニカーで十分だった。見かねた母が「ミニスカートとか、履いたらいいのに」とぼやくくらいには、外で生足が出ていることがなかった。
それに、正直なところ「私なんかが、ビキニきてもなぁ」という思いもあった。
というのも、私の中でビキニってのはイケてる人というか、上位カーストの人というか「選ばれし存在」こそが着ることができる無双アイテムのようなものだと思っていた。そんな思いを抱くようになったのは、学生時代の苦い思い出のせいだ。
「平成一桁ババア」なんて言葉がS N Sで飛び交うようになった昨今。平成一桁にギリギリもなれず、古き良き「昭和の女」にもなれない、昭和最後の学年に産まれた「昭和のラスボス」となった私の世代が学生の時に流行ったルーズソックス。短くしたスカートから伸びた細い脚に、大きい、曲がるストローの曲がるところのジャバラのような靴下を携えるのが、当時の「カワイイ」の最先端だった。今は「kawaii」も多様性があって本当に良い時代になったけれど、平成の初期〜中期といえば「ギャルis正義」みたいな時期があったように思う。
お年頃になった私は、ありがたいことに誰とでも話してもらえるキャラではあったが、1軍女子には程遠いところに、いた。けれども、やっぱり履いてはみたいルーズソックス。親に何度もおねだりをした。でも強めのジャバラを身に纏う勇気はこれっぽっちもなかったので、パッと見ルーズソックス!? くらいの超少なめのジャバラ感の物を買ってもらえた。
買ってもらった時は、本当に嬉しかった。なんだか、これを履くことで可愛くなれそうな気がした。早い子だと、一緒に帰るボーイフレンドができ始めた時でもあったから、これを履くことで、もしかすると良いご縁ができでだねぇ……グフフ、なんて妄想までどんどん膨らんでいった。靴下を変えるだけで可愛くなれるなんて、めちゃくちゃいいじゃん! 顔はどうにもならんけど、靴下で可愛くなれるなら、こんな良いハナシないだろうって本気で思っていた。それなのに、まさかの一言がまるで大きなハンマーのように、私の淡い妄想をぶち壊してくれた。
「さすがに似合ってないんですけどー」
まさかだった、帰り道でそんなこと言われるなんて誰が想像しただろうか。
帰り道を歩いていると、少し後ろから声がした。
普段話したことはないけれど、面識はある1軍女子だった。もちろんその子の足には強そうなジャバラが付いていた。そりゃ自分でも、校則ぎりぎりの丈のスカートに、ルーズなの? 普通なの? どっちなんかい! とツッコみたくなるほどのルーズソックスを履いてりゃ、確かにミスマッチなのは理解していた。それを、仲の良い友人に言われればまだよかった。いっそ、笑いながら「そりゃないぜ」とネタにしてくれた方がよかった。
まさか、誰もいない帰り道に離れたところから石を投げられるなんて誰が想像しただろうか。しかも、そんなに話したことない人から、突然に。
顔から火が出るとは、まさにこのことだったと思う。
何も言い出せず、その場を走り去ることしかできなかった。たった一言でシンデレラの魔法が解けたみたいに、私のルーズソックスは、私を可愛くなんてしてくれようとはしなかった。
いや、そもそも私みたいなカースト下位の女がですね、簡単に上位の装備を身につけようっていうのが甘かった。ゲーマーの私なら、適正のレベルにならないと使えないものがあるってこと、当たり前のことだった。それなのにリアルは問題ないなんて、勘違いも甚だしい。顔を洗って出直すか、大人しく校則に適した靴下を履く、この2択しか残されていなかった。もちろん、選んだのは後者だった。さすがに、もう一度足を通す勇気は残っていなかった。可愛いものは、可愛い人だから着られるんだ。私なんかが着ても、可愛くなれないんだ。
こうして、陽キャになれない隠キャへの扉を開けた私は、自分の辞書からファッションという文字を捨て去ることとなった。
あれからウン十年。
流行りものに袖を通したい自分と「自分なんか」に似合わないと牽制する自分とが常にせめぎ合い。毎度卑屈になった自分にボコボコにされながら、平々凡々な服を着る日々を送っていた。髪も、まぁそれなりに見えればいいし、メイクもしたり、ほとんどしなかったり……おまけに歳も取ったから「可愛いには限度がある」と確信していた。
そんな時に、何人かのインスタグラマーさんが目に留まった。
ひとりは、自身は大きなサイズを着こなす女性なんだけどもファッションのコンサルタントとして働いている方。もうひとりは、タイ発祥のスワイメイクをご自身流に落としてブランディング化した方。どちらも、決まって言い回しは違えど「可愛いは今からでも、作れる」とハッキリ言っている。そして、どちらも「自分をよく知る」必要性を訴えているように感じた。前者はよくリールなどで「私なんかがこんな服着ても」なんて質問に対して「それは、あなたの中でブレーキかかってない?」とか「本音はこうだけど、そういう質問をすることで本質から目を背けてない?」とか、自分がそれを選び取る理由を「言語化」していた。一方、後者は「自分をよく知ることで、コンプレックスも味方に変えられるよね」とか「年齢なんて関係ない、シワもメイクの一つだ」みたいな、元々持っている装備は何か、とか、弱みを強みに変えるにはどうしたら良いかを「言語化」していた。
彼女らの投稿を見ては、時に反省し、時に勇気をもらえた。それと同時に「私も、もう少し小綺麗になりたいな」と思うようになった。
きっと、ルーズソックスを履いたあの日に私ができなかったのは、カーストの上位に上り詰めるわけでもなく、無理に背伸びしてスカートの丈を限界まで短くするでもなく、眉毛を爪楊枝くらいの細さにすることでもなかった。ルーズソックスを履いても大丈夫、と思える自分を纏うことができていなかったからだと思う。「私なんか」が履いちゃいけないなんて法がないんだから「私なんかでも」履いてなんの問題もないのだ。
「似合ってないんですけどー」と言われれば
「え? どうやったらうまく着こなせる?」と聞けばよかったと今になってとても後悔している。もしかしたら「いや、お前じゃ無理だから」と言われてフルボッコにされていたかもしれないが、それはそれで潔く諦めがつく。
「kawaii」の多様性が広がった今、それこそ好きなものを好きなように選びやすい時代になった。本当に、良い世の中になったもんだと思う。
まだ、手は出せないけれどいつか「ビキニ」を着てみたい、と思う。
ちょっと国内では着る勇気がないけれど、ハワイとかなら着ることができそうな気がする。
私が「ビキニ着ようかな」なんて言い出したら、旦那さんはどんな顔をするだろうか。
風呂上がりに素っ裸でウロウロしようものならナメクジを見るような目で「服、せめて下着着てから出てこいよ」と訴えてくる人だ。きっと、何を言ってるんだとひっくり返るに違いない。いや、もしかすると、ちゃんと隠すところは隠せているから怖いもの見たさで「いいね!」と言ってくれるかもしれない。
いずれにしても、産後とか関係なくモリモリ食べすぎてわがままボディを極めた私だ。
ビキニを着たいと言おうものなら、腹の上のポニョが黙っちゃいない。
「いつかはビキニ」という願いを叶える前に……とりあえずポニョには大人しくしてもらおうか。そのためには、とりあえず運動……するかぁと、深いため息をついた。
ビール片手に、ポテチを食べながら。
【終わり】
❏ライタープロフィール
まるこめ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
日常のあれやこれやに思いを馳せながら、ある時はペンを握り、ある時は包丁を握り、ある時はマウスを握る。自動車販売会社に勤める傍ら、9歳差の姉妹を育てる兼業主婦リーマン。今日も夕飯の献立が浮かばない。
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