天狼院通信(Web READING LIFE)

僕が月に10回以上マッサージ店に行く本当の理由《天狼院通信》


記事:三浦崇典(天狼院書店店主および『殺し屋のマーケティング』著者)

「だったら、整体とか行ったほうがいいですよ」

僕が月に10回以上、てもみんさんやリラクさんやもみ壱さんのようなマッサージ店に行くと言うと、必ず言われることだ。

言われるたびに、わかってないなあ、と思う。

たとえば、肩甲骨を本気で剥がしたり、コリがたまらない体を作りたいのだったら、たしかに、腕のいい整体に行ったり、根本的な治療をするだろう。

しかし、違うのだ。

そもそも、マッサージ店に行く目的が違う。

僕は、別に、コリがたまる体を治したくて、マッサージ店に行くわけでは、決してない。

むしろ、治してもらうと、非常に困る。
本気で困る。

もっと言うと、決して治してもらいたくない。

たとえば、永遠にコリが治ってしまうクスリがあったとすれば、僕は見なかったフリをして、捨てるだろうし、針や灸や、電気的な治療で治ってしまうのであれば、それも避けるだろう。

では、なぜ、僕は月に10回以上、マッサージ店に行くのか?

マッサージ店の店員さんがファンだからか?

それも違う。

以前、あるマッサージ店に行った際に、男性のスタッフから、シミジミとこう言われたことがある。

「本当に三浦さんはいいですよね」

まさか、愛の告白かと、ちょっと体が硬くなる。
そういう、愛情を持った男性にマッサージをされると思うと、心休まらない。

「あ、この前ですね、男の人にチェンジされたんですよ」

「チェンジ?」

はい、とその男性スタッフは、僕の肩甲骨あたりに指を巧みに押し込みながら言う。
さすが、キックボクシングとかやっているだけある、とてもいい。

「女性スタッフに変えてくれって言われて……」

「えー!!!」

風俗じゃあるまいし、と内心苦笑する。

「結構、あるんですよ。でも、三浦さんは、僕が担当になっても文句一つ言わずに話も聞いてくれてうれしいです」

当然だと、僕は思う。

僕にはポリシーがあるのだ。
もう、マッサージ店に通う際の厳格なオキテと言ってもいい。

絶対に、指名はしない。
その場にいた人に、頼む。
老若男女も問わない。

だから、たとえば、

「この子は新人で、まだ圧が足りないんですよ。違うスタッフを待ちますか?」

と、言われたとしても、チェンジを要求することは、決してない。

なぜなら、気に入ったマッサージ屋さんには、徹底して通うことを決めていて、そうだとすると、お気に入りのスタッフがいてはまずいからだ。

もし、いつも指名するスタッフがいなくて、そうではないスタッフが当たった際に、

「今日はすみません、○○は休みでして」

と、気を遣わせたり、劣等感を覚えさせては持続可能なサービスの享受が危うくなってしまう。
そうだったら、ちょっとくらい下手なリスクがあったとしても、絶対に指名しないという原則を曲げないほうがこちらの利益になる。

そのリスクを避けるためにも、教育が行き届き、スタッフ間のスキル格差がない店舗を選ぶ。

ま、でも、治るのが目的ではないので、そこもそれほど重要ではない。

もちろん、お目当ての女子スタッフのために通うわけでもない。

だとすれば、なぜ、僕はマッサージ店に通うのか?

理由は、簡単だ。

「三浦さん、超コッてますね! 今日も体がガチガチですね!」

と、言ってもらうために行っているのだ。

「三浦さん、今日は指が全然入らないですよ!」

なんて、最高だ。
そう言われることは、この上ない幸せである。

逆に、よく、僕の体を知っていて、前日に他のマッサージ店に行った際など、

「あれ? 今日は、それほど硬くないですね」

と言われるときなど、最悪である。

ああ、なんで、もっと、コリをためて来なかったんだと、とんでもなく、損をした気持ちになる。

そう、僕は、コリたいのだ。

できるなら、永遠にコリたいのだ。
肩甲骨は、剥がれたくなく、指が入らない状態になった際に、思いっきり、肩甲骨に指をグイグイと入れてもらいたいのだ。

それは、もう、至福である。

その過程のなかで、うとうと眠ってしまったら、さらに最高である。
体をほぐしてもらいながら、睡眠も補うという一石二鳥状態になる。

「三浦さん、今日は何連勤目ですか?」

と、今日も、マッサージ店のスタッフは言う。

「えーと、たしか、1090連勤くらいだよ」

と、僕はこともなげに言う。
重要なのは、こともなげに、というところだ。
すると、スタッフは、よくわかっていて、

「どうりで、ガチガチだと思いましたよ」

と、言ってくれる。

もしかして、僕が連勤をやめないのは、彼らにそう言ってもらうためかも知れない――

なーんてな笑。

 

 

■ライタープロフィール
三浦崇典(Takanori Miura)
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。小説家・ライター・編集者。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版。ソニー・イメージング・プロサポート会員。プロカメラマン。秘めフォト専任フォトグラファー。
NHK「おはよう日本」「あさイチ」、テレビ朝日「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、テレビ東京「モヤモヤさまぁ〜ず2」、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、日経雑誌『商業界』、雑誌『THE21』、雑誌『散歩の達人』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。雑誌『週刊ダイヤモンド』『日経ビジネス』にて書評コーナーを連載。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」講師、三浦が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2018-12-19 | Posted in 天狼院通信(Web READING LIFE)

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