ドラフト会議は、新しい出会いの場。【後編】《通年テーマ「祭り」》
記事:中川文香(READING LIFE編集部公認ライター)
『南九州移住ドラフト会議2018 クライマックスシリーズ』。
“移住” と “ドラフト会議” という、一見するとなぜその2つが? と疑問に思ってしまう組み合わせだ。
このイベント、野球のドラフト会議になぞらえた人と人のつながりを生み出す仕組みだった。
このドラフト会議に “選手” として参加している方は、いったいどんな思いでこのイベントに出ることを決めたのか?
インタビューを通して、参加者から見た移住ドラフト会議の魅力を探った。
まずお話を伺ったのは、石川知佳さん。
すでに宮崎で仕事を始めていて、今回は宮崎県東諸県郡綾町の球団に指名されたという。
「なんでこんなふうに友達増えるんだろう?(笑)」
─すでに宮崎でお仕事を始められているということですが……どのような経緯だったのでしょう?
石川さん(以下、敬称略):上場企業のグループ会社の社長をやらせていただいていたのですが、3月末で退任することに決めていたんです。
友人で、宮崎にベンチャー企業を誘致する仕事をしている方がいるんですけど、その方に退任の件を話したら、「宮崎に一度視察に来ない?」と言われて。
で、実際視察に行ってみたら宮崎すごいいいところで。
でもビジネスできるかな、ちょっと分からないな、と思っていたら移住ドラフト会議の広告がInstagramで流れてきて。
一緒に働いてくれる人とか、新しい出会いがあるかなっていう、人とのつながりを目的に参加しました。
─ “つながり” 生まれましたか?
石川:はい。ここで出会った方たちって、指名された球団の方以外でも個別で話が尽きない方ばかりで。
あと、こっちに来て驚いたんですけど、渋谷では食事とか飲みの席で隣の人と仲良くなるってありえなかったんですよ。でもこちらでは普通に飲んでて知らない人と友達になっちゃう。
先日、宮崎市内でごはん食べていたらたまたま、隣の隣にヘベス農家のオーナーさんがいて。
仲良くなって「ヘベス食べたことないでしょ? 持ってけ!」って袋いっぱいくれたんですよ。
─え、その場で!? ヘベス、持ってたんですね(笑)
石川:なんか東京だったらありえない人とのつながり方で、すごいなと思って。
その方たちとも仲良くなって農園にも遊びに行くし、これからお店はじめる、ってなったら、行くし。
そしたらお店のオーナーさんとも仲良くなって更にそのオーナーが仲良いお店を紹介してくれて、芋づる式に知り合いが増えていくんですよね。
そういうつながりから、「こういうことやろうと思ってる」って話したら、「こんな人知ってるよ? 紹介しようか?」ってその場で電話してセッティングしてくれたりして、採用費もかからないんです(笑)
─なるほど、そんなメリットもあるんですね。ちなみに現在は東京と宮崎の二拠点生活だそうですが、将来的には移住も視野に入れているのでしょうか?
石川:私のお客様は9割以上が東京の方なので、必ず東京に行っての打ち合わせは必要なんですよ。
なので二拠点生活というのは変わらないと思います。
ただ、来期は宮崎に本社を移して税金は宮崎に収めて……と、そういう関わり方もあるなと。
今は毎月一週間ほど宮崎に来ているんですけど、それがすごい楽しみなんです。
ごはんは美味しいし、人は良いし、ストレスフリーで、本当にお金で買えない価値を手に入れたと思っていて。みんな来たらいいのに、って(笑)
これから外の人を宮崎に呼んで、雇用も増やしていこうと思っています。
それに、来期の移住ドラフト会議にはスポンサーとして関わっていきたいと思っています!
なんと、今回選手として参加した方が来期はイベントのスポンサーに手を上げているとは!
おそるべし。
もうひとり、お話を聞いてみよう。
なんと、現役女子高校生ながら今回の移住ドラフト会議に参加しているという白鳥優季さん。
どうして “移住” とはおよそ縁のなさそうな高校生が参加しようと思ったのだろう。
出会う人によって、自分の見方も変わった。
―高校生なのにどうして、移住ドラフト会議に参加しようと思ったのですか?
白鳥さん(以下、敬称略):母が地域おこし協力隊になって、昨年鹿児島県の長島町に移住してきたんです。それから地域とか地方創生に興味が出てきて。母の仕事のお手伝いでつながったご縁で、もっとそういった活動をする人たちとつながりたい! と思って参加しました。
―私、高校生の頃地域のこととか考えたこともありませんでした……すごいですね!
白鳥:いや、私も正直興味を持ったのは鹿児島に引っ越してきてからです。
一年前、東京の高校に通っていた頃は普通に受験勉強して、普通にいい大学に行って、みたいなことを考えている、ごく普通の高校生でした。
その時から考えると、「なんで私ここにいるんや!」みたいな、本当に不思議な感じです(笑)
―人生の転機だったんですね。東京にいる頃は、何か興味にあることに取り組んだりとかは?
白鳥:東京にいる頃ってそんなに色々興味を持つようなことがなくて……
例えば最近、自分はデザインが好きだなと思い始めたんですけど、それって鹿児島に来て色々な地域に興味を持っていくうちに実際に訪れた地域からデザインの依頼をもらって、描いて、褒められて、というのがあったからで。
それで「あ、なんかすごいこれ好きかも!」って思って。
そんなことがきっかけで色々やってみたいなってことが最近出てきたんです。
前だったらこういうイベントに参加することもないし、興味を持てない? というか知らない? んですよね。
─なるほど。長島に来て、出会った人から広がって行った感じですか?
白鳥:そうですね。もちろん長島に来て出会った人たちもだし、それだけでなく、今回鹿児島の他の地域の方や宮崎の面白い人達とつながることが出来て。それが一番の宝だなぁ、と。
話を聞いていくと、まだ高校生の白鳥さんは「今すぐ移住」というタイミングでは無い様子。
けれど「これから住んでいる長島で活動しつつ、今回指名いただいた日南の力にもなっていけたらと思います。長島と日南でなにか出来たらベストだと思う!」と語ってくださった。
そうか、指名する球団も、指名される選手側も、必ずしも “移住” が最終ゴールではないのか。
もっと気軽に、人と地域とつながる。
“移住” というとなんだか人生の一大イベント感。
住む場所を変えるというのは身の回りの環境ががらりと変わるということ。
でも、なにも住まなくたって、地域と人と関わることは出来る。
今回、移住ドラフト会議を外から見てみてそのことが分かった。
実際に、選手として参加した方の中には移住を最終ゴールとはしていないものの、この場でのつながりから仕事が広がったり、今後の人生で関わっていく第二の拠点を見つけたという方もいる。
この場でいろいろな形のつながりが生まれているのだ。
「何か新しいこと始めたいなぁ」と考えている方は、全国各地にいるだろう。
そんな人が、普段生活している中ではなかなか知る機会すら無い一地域と、そこに住む人たちと出会うことが出来る。
「なんか、面白そう」
その気持ち一つで飛び込んでみたら、新しいつながりが広がっていく。
移住ドラフト会議とはそんな場所なのだ。
参加者全員で、一年がかりで準備をして野球のドラフト会議のような盛り上がりを作り上げる。
一年前は知らなかった人たちと一緒にげらげら笑いながら活動報告のプレゼンを聞いて、わくわくするような未来を語り、それぞれが少しの新しい思いを抱えて、それぞれの日常にまた戻っていく。
ここをきっかけに、また何かが始まる。
こんなお祭り騒ぎに混ざって、これまで全く関わりの無かった土地と人とつながる、というのも面白いんじゃないだろうか。
❏ライタープロフィール
中川 文香(READING LIFE公認ライター)
鹿児島県生まれ。大学進学で宮崎県、就職にて福岡県に住む。
システムエンジニアとして働く間に九州各県を仕事でまわる。
2017年Uターン。Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
現在は事務職として働きながら文章を書いている。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。興味のある分野は まちづくり・心理学。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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