祭り(READING LIFE)

光の海は一瞬にして消えてゆくけれど《週刊READING LIFE 祭り》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/3/18/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ああ、いよいよだな」
 
もう何度も聴いてきた音楽が流れ、私の出番がやってきた。
心地良い胸の高鳴りを抱いて、私は光の海へと飛び出していく。
 
2000年4月。
私の娘は、彼女が4歳になった時、クラシックバレエのお稽古を始めた。
早生まれの娘は、その頃、同じ学年のお友だちとでも約1年の差があるため、何をするのもゆっくりだった。
早生まれの子どもは、みんなそんなものらしく、これも成長の過程であって、だいたい小学校の中学年くらいになると他のお友だちと、体格や行動の面でも肩を揃えられると言われていた。
なので、4歳のお誕生日を待って、お稽古を始めることにしたのだ。
 
それは、ピアノとクラシックバレエ。
ピアノは、私が幼い頃に憧れていたものの、父に買ってもらうことがかなわず、ずっと心残りだったのだ。
さらには、その人の人生において、一つの楽器と、一つのスポーツと、一つの外国語が習得できると、その人は幸せである、ということを何かで聞いたことがあったからだ。
スポーツではないが、クラシックバレエで身体を鍛え、しなやかな表現力をつけてくれたらいいなと思ったのだ。
それに、私自身も宝塚歌劇の影響で、高校生からバレエを始めたこともあって、全く知らないお稽古事は勝手がわからないので、クラシックバレエから見学することにしたのだ。
 
幸い、ピアノもクラシックバレエも習いたいということで、娘のお稽古がスタートした。
娘がお世話になることになったバレエの先生は、それは、それは優しく、とにかくバレエの楽しさを伝えたいという考えの方だった。
昔のように、とにかくお稽古事の先生は鬼のように怖いというのは伝説で、いつもニコニコしていて叱ることなどないのだ。
そんな先生は人柄も素晴らしく、私もまたこの先生の元でクラシックバレエのお稽古を再開したいと思ったのだ。
 
そうして、娘と二人、同じバレエのお教室でお稽古を始めた。
娘はとにかく楽しいらしく、喜んでお稽古に通うようになった。
私も、20年近くぶりのお稽古だったが、それでもやっぱりバレエは楽しかった。
母娘で熱心にバレエのお稽古に励んだのだ。
 
そうやって、お稽古に通っていると、そのクラシックバレエのお教室は、毎年、夏に発表会を開催するということで、出演することにまでなった。
娘は、とにかくバレエのお稽古を気に入っているので、二つ返事だ。
さらに、私はそのバレエ教室の先生のお弟子さんが講師を担当している、カルチャーセンターの方でお稽古をしていたのだが、そちらも同じく夏には発表会があった。
私も、最後に発表会に出たのは、OL時代に少しだけ通っていたお教室の時なので、15年振りくらいだった。
それでも、その発表会が楽しかったので、私も夏に向けてお稽古に真面目に取り組んでいくこととなった。
 
やがて、発表会の演目が決まって、配役が伝えられる。
私は、何しろ入りたての新人だったが、ある群舞でのセンターで踊らせてもらうことになった。
昔、少しバレエのお稽古の経験があることが、その後20年経っていても少しは役に立ったようで、身体はちゃんと覚えていたのが有難かった。
カルチャーセンターのバレエのお稽古。
みんな大人ばかりのクラスだが、これがまたみんな真面目なのだ。
お稽古の時間が終わると、さらに近くに場所を借りて自主練までもするのだ。
先生から教えてもらった振りの確認、そして群舞はみんなで音や踊りを合わせて。
何度も繰り返し、本当に真面目に練習をしたものだった。
そして、発表会までの約4カ月間で、みんなの踊りは仕上がってゆくのだった。
 
こうして、みんなで一つのモノを創り上げてゆくプロセスが、私はたまらなく好きだった。
本番の、一瞬の踊りのために、長い時間をかけて、多くの人と協力し合って創り上げてゆくというこの醍醐味。
その過程には、上手く出来ない振りがあって、何度もあきらめかけたり、出来ないことを悔やんだりすることもあった。
それでも、なんとか本番の日を迎える頃には、自分なりに満足のいくような仕上がりにまで持ってゆけたのだった。
 
クラシックバレエの発表会の一日はとても長い。
メイク道具、衣装やトウシューズ、バレエシューズ、楽屋着やシューズカバーなど、発表会本番当日の荷物は大量だ。
そんな大荷物を持って大変なのだが、とても嬉しい朝なのだ。
 
このワクワク感、何かに似ているなと思ったら、子どもの頃、ずっと楽しみに待っていたお祭りのように思えたのだ。
前々から、そのお祭りの日を指折り数え楽しみに待っていたものだった。
昭和30年代後半に生まれた私は、子どもの頃というと今のような娯楽は殆どなく、夏休み、近所で開催される夏祭りをいつも心待ちにしていたものだった。
友だちと約束して、お小遣いをもらって繰り出すのだ。
 
いつもならば出来ないような、綿あめなどの買い食いが出来たり、金魚すくいや射的で友だちと競争したり、一年でも他にはそんな日はまずないくらい、楽しい非日常の一日だったのだ。
 
 
大きな荷物を抱えているにも関わらず、心はウキウキしながら、夏の陽ざしの暑い中でも足取りも軽やかに、早朝に家を出るくらいのことだったのだ。
朝早くから楽屋入りをして、まずはメイクを始める。
家を出るときにしてきた、普段のメイクは落として、舞台用のメイクを施してゆく。
舞台のメイクは、客席の遠い席からも見てもらうために、それは濃い、独特の描き方をする。
目は、ぱっちりと大きくなるようにアイシャドウやアイラインを入れ、派手なつけまつげをつける。
鼻は、高く見えるようにシャドウとハイライトで際立たせる。
頬には、普段では絶対につけないくらいの頬紅をつけて、完成するころには、もう誰かわからなくなるくらいに変貌するのだ。
この、メイクをしてゆく段階から、もう舞台本番の気分に向っていて、私はいつもワクワクしてくるのだった。
 
それから、今度は身体づくりだ。
柔軟をして、バー(バレエのお稽古で使う木の補助具)を使って、脚をほぐしてゆく。
楽屋の周りには、本番に向けてみんなが準備を進めている。
そんな風景は、独特のもので、他ではなかなか経験出来ないことだと思う。
こうして、出演者みんなが一つの舞台を創り上げてゆくという気持ちもどんどん集約してゆくのだ。
 
そうして、いよいよ開演。
朝早くから準備をしていても、発表会の当日はあっという間に時間が過ぎてしまう。
気がついたら、もう本番の時間だといつも感じるものだった。
 
演目がスタートして、いよいよ私たちの出番がやってきた。
みんなで円陣を組んで、心を一つにしていると、私たちの演目の紹介が始まった。
一つ前の踊りが終わり、舞台袖へと消えていった。
そして、舞台の照明が変わり、いよいよだ。
私たちの演目の音楽が流れる。
ああ、4カ月間、この音楽を何度聞いたことか。
何度、この音楽を流しながら、振りの練習をしたことか。
舞台の照明の温度を感じる、
音のきっかけを聞いて、私たちは光の海の方へと走って行く。
 
そして、無事にその年の踊りを終えることとなった。
舞台は生ものだとよく言われる。
失敗をしてしまったり、思うように動けなかったり。
終わった瞬間、反省をして、来年の課題が生まれる。
長かった、発表会までのお稽古が本番を迎えて終わってゆく。
キラキラとした華やかなメイクと衣装。
私たちのために作られた舞台セット。
お友だちや家族が客席から大きな拍手を送ってくれる。
あの瞬間、私は嬉しくて興奮する。
緊張などはせずに、とにかく嬉しくて仕方がないのだ。
 
そんな、まるで祭りのような非日常は、これまた祭りと同じように、あっという間に終わってしまうのだ。
祭りの後の静けさ。
それは、クラシックバレエの発表会でも経験する。
きらびやかな照明は、やがて暗転となって終わってゆく。
そして、楽屋に戻ると頑張ってくれた足をトウシューズから解放してやり、衣装を脱ぐ。
朝にしっかりとつけていた舞台メイクも落としてゆく。
ああ、この時間は何とも言えない気持ちになる。
華やかで、楽しい時間は本当に一瞬で。
その時を待つ時間や準備は本当に長くて。
 
日々の生活は、単調で同じ事の繰り返しのように感じることもある。
時にはつまらないと思うことだってあるかもしれない。
でも、そんな日々の中で、祭りのような非日常の喜びがあると、それを楽しみに日常生活も過ごせるのかもしれない。
日々の生活を疎かにして、非日常ばかりを楽しみにしてしまうと、それもつまらない人生になってしまう。
だって、お祭りはずっとは続かないから。
お祭りは、一日限りだから楽しいのかもしれない。
 
人生の日々の中の、アクセントになるようなお祭りがあると、その人の人生、日常はさらにエッジが立って心持も変わってゆくような、そんな気がする。
 
ああ、また久しぶりにバレエの発表会に出たくなったな。
あの独特の雰囲気、時間の流れ、非日常の一日。
祭りのような高揚感を、また体験したいな。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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