自分なりの人生テーマで、100年ライフを味わい尽くそう《週刊READING LIFE Vol.30「ライスワークとライフワークーーお金には代えられない私の人生テーマ」》
記事:小倉 秀子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「ライスワーク」
最近知ったこの言葉。
「食べていくための報酬を得る活動」と言う意味のようです。なるほどよく言ったものですね。
それに対して、これまでも何度も耳にしたことのある「ライフワーク」は、「生涯を通してやりがいを感じることのできる活動」とでも言ったら良いでしょうか。
私がこれまで生きたきた数十年の人生の中で、「ライスワーク」と思しき活動を行った時期が一度だけあります。それは、大学生の時にやっていたアルバイト。働いて収入を得ると言う経験は、これが初めてでした。
この時はどんな職種だって良くて、とにかく働きさえすれば、高校生の時のお小遣いよりもさらに多くのお金を手に入れられることが嬉しくて仕方がありませんでした。
私は一人暮らししていた訳ではなく、実家から通学していたので食費を稼いでいた訳ではありません。でも大学生になってからは親からお小遣いをもらわないようになって、自分の使うお金を自分で稼ぐことによって家の家計を助けていたことは確かだから、そう言う意味で大学時代の稼ぐ目的のアルバイトは「ライスワーク」に当てはまると思っています。
大学生時代の4年間で、私は主に2つのバイトを経験しました。
一つは「家庭教師」、もう一つは「レストランのホール係」です。
どちらも完全に、やりがいを追求すると言うよりは、ほぼ「お金を稼ぐ」ことが目的でした。この時ほどお給料(時給)を重要視して仕事を選んだことはありません。お金を稼ぐこと自体が楽しく、時給がいいものほどやる気がでました。
でも、大学の授業に出席することやサークルで活動することに重きをおいていたので、週に何日も、何時間も入らなければならないバイトは避けました。その結果一番適したバイトが家庭教師だったともいえます。
(レストランのホール係は短時間の勤務で入ったものの、他のメンバーはもっと長く多くシフトに入っていたようで、居づらくなってすぐにやめてしまいました)
家庭教師の仕事では当時、同時期に2〜3人くらいは担当していました。お金が稼ぐこと自体が嬉しかった当時の私にとって何が魅力的だったかと言うと、一回が2〜3時間という短い勤務時間で良いのに時給が一般的なバイトの数倍だったことでした。しかも、大学での勉強と、当時参加していたサークル活動の支障にならないので、学校生活と両立させるにはとても適していました。
主に中学生の英語と数学を教えました。中高一貫校の姉妹だったり、勉強について行くことに困難を感じている中2の女子だったり、受験を控えた中3女子だったり。家の近所や学校の近所での家庭教師だったので、ご家庭への移動時間を抑えることができました。
途中でやめた生徒さんもいらしたけれど、ほとんどのご家庭では、生徒さんが卒業するか、私が卒業するかまで家庭教師を続けました。
どこのご家庭でも、生徒さんが分からない、解けないから教えて欲しいということを教える、質問に答えるという形式の2時間でした。時には生徒さんの趣味について話を聞いたりする時間もあったし、私個人のことを聞かれて答えたりすることもありました。
ほとんど女子を受け持ったけれど、女子も3人いれば三様なので、おしゃべり好きな子には聞き役に回って相槌を打ったり、逆に無口なお子さんにはタイミングを見計らって話しかけたりして、なんとか良い関係を築く努力をしました。
中学の英語、数学で教えられないことはなかったし、コミュニケーションも問題なく取れたので、ご家庭や生徒さんと長く続けることができたのでしょう。でも、いまになって思い返してみると、生徒さん、保護者さんはどのくらい先生としての私に満足していたのだろうかと思います。
今になって考えると、随分とその都度かぎり、その場しのぎの指導だったと反省しきりです。
その後社会人になって、本格的に仕事を経験した後の今だから当時の幼さ拙さが余計に際立って見えてしまうのかも知れません。ゴールを決めて、大まかでもいいから年間の計画を立てて実施し、都度振り返ることで短期計画をブラッシュアップして行く。その繰り返しで目標を達成する精度をあげていけるのに。
本当に生徒さんのことを考えていたら、生徒さんの希望するがままに勉強の質問に答えて終わりにするだけではなくて、生徒さんの夢や目標に沿った道しるべを示してあげて、今どこまで来たか、あとどのくらいでゴールできるかを伝えてあげて励ましながら一緒に走るべきだったと思うのです。
生徒さんに教えることはその当時の私にとって、まさに学生の私が稼ぐ手段以外の意味を見出せていなかったのでしょう。教えることを社会人になっても続ける気はありませんでした。まさに、稼ぐ目的だけにとどまってしまった「ライスワーク」だったのです。
好きなこと、やりがいを感じられる活動でなければ、そのことについてもっと深く関わろう、活動を通して相手も幸せになれるように考えようとはしないのだと、この時の経験を通して痛感しました。この時以来、お金を一番の理由にして仕事に携わることはしていません。
就職してからは、希望したエンジニア職についてやりがいを感じながら仕事をし、収入を得ることができたことは本当に幸運だったと思います。育児休職をして復帰したのちも、現場が大好きな私は引き続きお客様と直接接する部署に配属してもらいました。二人目の育児も本格的になってきて、これ以上この部署で続けることは難しいなと私なりに感じた時、社内業務の部署へ異動して今の収入を維持するか、退職して収入は激減しても別のやりがいを見つけるかの選択で悩みましたが、結局後者を選びました。
でもそのおかげで、今の私が好きなこと、本当にやりたいこと、私個人で勝負できるものを模索し続け、それを趣味で終わらせずに収入につなげることにフォーカスしてこれまで活動してこれました。必ずしも好きなことが収入に繋がらなくてもいいかも知れませんが、好きなことや趣味は、続けるには何かとお金がかかります。なので、仕事にして収入を得ることで、長くその趣味を続けられるし、収入を得るならばさらに上達しなければならなくなるし、何より人に見てもらえることで独りよがりにならずにいろんな人の目に止まり、技術も向上して行きます。好きなことや趣味が収入を得るほどになったからこそ、より深い愉しみを味わえるようになれたと思っています。
具体的には、退職後は育児をしながら自宅でオーダーメイドのアクセサリーを作ったり、外に出られるようになってからはカメラマンとして活動したりして収入を得てきました。アクセサリーにしろ、カメラにしろ、退職後の新たなチャレンジで得た好きなこと、つまり「想いを形にする活動」が、私にとってのライフワークなのだと今確信を持って言えます。
この確信を得ると、想いを形にする活動にどんどん意欲が湧いてきます。今こうして書いていることも、まさに「想いを形にして届ける」ことに他なりません。だからもっと上手に形にできるようになりたいし、広く人々に届けたい、そして、ささやかでも誰かの役に立ちたいと望んでいます。その望みを叶えることで私自身がもっと奥の深い愉しみを味わえることを目指して、日々書き続けているのです。
今この時代は、人生100年時代と言われています。
100年生きるためには働いて収入を得る期間が自ずと長くなるということは、ベストセラー「LIFE SHIFT」(リンダ・グラッドン/アンドリュー・スコット著、東洋経済新報社)でも記されている通りです。ひとつの仕事に長く従事する時代から、いくつかの肩書を持ち、多様な働き方をする時代へと変わりつつあります。
そんな時代だからこそ、働き方の核となる、自分なりのテーマを持つことが大事なのではないかと私自身は考えています。自分なりの働き方のテーマに沿った仕事をライフワークとして持つことで、働くことは働くことだけではなく、やりたいこと、楽しいことになり、幸福感を味わえる。何より長続きするし、壁にぶち当たっても乗り越えようと努力できる。もっと深く知りたいと願い、変化を恐れず受け入れられるようになる。そうして幾つになっても成長していける。
「好き」「やってみたい」から始まり、いつの間にかライフワークという人生テーマに大きく成長した私の「想いを形にして届けたい」という想い。この想いをこれからも大事に育みながら、私だけでなく相手にもささやかでも幸福を届け、人の役に立ちながら100年ライフを味わい尽くしていきたいと願っています。
参考文献:
・「ライスワーク」と「ライフワーク」の2軸で働き方を考える
(ダイヤモンド・オンライン 2019.01.02)
❏ライタープロフィール
小倉 秀子(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)
東京都生まれ。東京理科大学卒。外資系IT企業で15年間勤務した後、二人目の育児を機に退職。
2014年7月、自らデザイン・製作したアクセサリーのブランドを立ち上げる。2017年8月よりイベントカメラマンとしても活動中。
現在は天狼院書店で、撮って書けるライターを目指して修行中。
2018年11月、天狼院フォトグランプリ準優勝。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
http://tenro-in.com/zemi/82065
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