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環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅

【環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅】第11回:まだ見ぬ麹菌の可能性を追い求めて――600年の歴史を持つ種麹の物語(株式会社糀屋三左衛門)


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/12/18/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
愛知県には様々な醸造食品がある。日本酒、味噌、酢、みりん、醤油。これらの醸造食品の製造に欠かせないのが麹だ。その麹の種となる「種麹」を製造しているメーカーが愛知県豊橋市にある。株式会社糀屋三左衛門だ。創業は室町時代、600年の長い伝統を持つ。
 
16世紀、室町幕府13代将軍足利義輝公より種麹業の許可証として賜ったという木版は代々受け継がれ、今も大切に保管されている。種麹の販売袋が、その木版を黒い墨で刷った袋だったことから「黒判(くろばん)」と呼ばれ、今でも蔵元からは「黒判さん」の愛称で親しまれている。
 
「種麹は黒子。パソコンに使われている半導体のようなものなので、一般のお客様にはあまり馴染みがないかもしれません」
 
第二十九代当主の村井裕一郎さんは、そう言って笑った。
 
発酵は、「麹菌」「乳酸菌」「酵母菌」それぞれが役割を果たしながら進む、ひとつの小さな生態系である。最終的にできあがる食品をどのようなものにしたいのかによって、活躍する麹菌も変わる。
 
「麹菌は、発酵食品をつくる過程で、最初の土台となる環境をつくったり、ととのえたりするのが役割で、発酵食品ができた時にはもう死んでしまっている、健気なやつなんです。だからスポットを当ててあげたい。そして秘めた可能性を引き出したい」
 
日々研究開発、製造に勤しむ研究室室長の白石さんと生産課課長の彦坂さんは、麹菌に対する愛情を口にした。
 
人にもそれぞれの個性と多くの可能性があるように、数千ある麹菌の菌株にもそれぞれの個性と秘めた可能性がある。その可能性をどう引き出すのか。長い伝統を持つ糀屋三左衛門の新たな挑戦を取材した。
 

 
(写真右)白石 洋平さん
株式会社糀屋三左衛門 取締役/研究室 室長
(写真左)彦坂 浩且さん
株式会社ビオック 生産課 課長
 
 

種麹は「家の基礎」である



 
「種麹」という言葉を初めて聞いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。種麹は麹菌を生育してできた胞子を集めたものです。1グラムの種麹には約80億の胞子があります。この種麹を米に撒けば米麹に、麦に撒けば麦麹になります。
 
意外に思われるかもしれませんが、酒、味噌、酢、みりん、醤油など、醸造食品メーカーのほとんどは、当社のような種麹メーカーから種麹を購入しています。家庭でヨーグルトをつくるとき、「一部を残して、次のヨーグルトをつくるときの種にする」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。それと同じように、麹も「できた麹を少しとっておき、次に麹をつくるときの種として使う」という方法で、醸造食品メーカーは麹菌を代々受け継いでいるというイメージを持っていた方もいます。しかし、菌株は変化していくので維持が難しいのです。受け継いでいく間に性質が変化したり、他の菌が混ざって汚染されることもあります。
 
また、味噌や酒などは、原材料に占める麹の割合が小さく、種麹に至っては1トンの米麹に対して金額で1%いかないくらいです。醸造食品メーカーが自前で種麹をつくるのは、手間ばかりかかって割に合わないのです。それで、種麹メーカーから品質が保証されたものを購入するというわけです。
 

 
酒づくりでは「一麹、二酛(もと)、三造り」、醬油づくりでは「一麹、二櫂(かい)、三火入れ」と言われるくらい、麹は最も重要です。外からは見えませんが、醸造食品の「骨格」、家で言えば「基礎」にあたります。「安定していること」「変わりにくいこと」が求められます。
 
しかし、相手は「麹菌」という生き物。温度や湿度など、環境が変わると影響を受けてしまいます。「工業製品」として常に一定の品質を保つために、当社では温度、湿度、清浄度をコントロールできるクリーンルームで種麹を生産しています。
 
それでも、「研究室ではうまくいったのに、工場で量産しようとしたらうまくいかない」とか、機械を変えただけで菌の状態が変わってしまったということもあります。「こうすればできる」という教科書がないんですね。ですから、毎日が試行錯誤の連続です。
 
センサーや映像技術の発達により、昔は手作業や職人の勘でやっていたことも、自動化したり数値で把握できるようになったりしています。でも、「同じ数値なのに状態が違う」ということもよくあり、その場で人の手による調整が必要になります。
 
昔、先輩方から「麹の声を聞け」と教えられましたが、やはり最後は五感が頼りです。匂い、熱さ、固さなど、「いつもとなんか違う」という空気感を感じたり、手袋を外して実際に指先で触れて感じたりすることを大切にしています。
 
 

麹づくりをもっと楽しいものに



 
600年の歴史を持つ種麹メーカーとして、品質を追求し、より付加価値の高い製品をと、高みを目指してきました。しかし、「高さ」を出すには裾野も広くなければなりません。麹をつくることへのハードルを低くして、もっと皆さんに楽しんでもらいたい。折しも、昨今は発酵ブームで、自分で麹づくりを楽しむ人も増えています。そこで、美味しさや品質を追求する「アート」としての側面と、「ホビー」としての楽しさを通して、麹の持つ可能性を広げていくことを目的として、2021年10月に「KOJI THE KITCHEN」プロジェクトを立ち上げました。
 
このプロジェクトで開催している「KOJI THE KITCHEN Academy」は、座学のほか、地元ホテルのシェフによる麴を使ったフレンチフルコースのディナーや、ワークショップ、麹づくりを通して、五感で麹を体験して頂く1泊2日のプログラムです。これまで3回実施していますが、今年は先着15名で募集したところ、受付開始後2日経たないうちに満席になるほどで、好評を頂いています。
 
参加される方は様々で、海外で麹をつくっている日本人の方、食品メーカーにお勤めの方、趣味で甘酒や麹づくりをしている方のほか、通訳ガイドをしている方が参加されたこともあります。「外国人観光客が醸造や発酵に興味を持っているけれど、自分自身が麹のことをよく知らないので勉強したい」とおっしゃっていました。
 
麹を使ったフルコースのディナーでは、麹そのものを食べて頂くメニューがあり、「麹は原料」というイメージが変わったとおっしゃる方も少なくありません。また、研究室で開発してきた麴加工技術を使って、米だけでなくゴボウやミックスベジタブルなど様々な食材も麹にできることをお伝えしています。参加者からは、「麹に対する概念が変わりました。自分でも色々やってみたい」というお声を頂いています。
 
こうした活動を通して伝えたいのは、「もっと気楽に楽しんでほしい」ということです。今は情報が溢れすぎて、麹づくりに関しても「こうじゃなければいけない」という思い込みがあるように感じています。「もっと自由でいい。もっと遊んでほしい」と思いますね。
 
私たちはプロですから、安定して同じものをつくる必要があります。でも、家庭でつくるのだったら、「今年の味噌の出来はよくなかったね」というのだって楽しいじゃないですか。怖がらないで遊んで頂きたいですし、そうした遊びの中から新しいものが生まれるかもしれません。最後おいしければいいし、麹づくりのプロセスを楽しんでもらえればと思います。
 
 

お客様が引き出す商品の可能性



 
当社の商品は業務用がメインですが、昔から一般のお客様に直接販売していたものとしては、甘酒があります。ただし、近所の方が買いに来たり、地元の神社で振る舞いに出したりするくらいでした。しかし、「もっと多くの人に当社の甘酒、麹の魅力を届けたい」との思いから、2022年に甘酒を中心とした麹商品シリーズの新ブランド『orise(おりせ)』を立ち上げ、オンラインストアで販売開始しました。
 
『orise』には「日常を忙しく過ごしている方や、自分を労わる時間が欲しいと考えている方に、ホッと一息つける少し贅沢な時間をお届けしたい」という思いが込められています。休息の時間を邪魔せず、そっと寄り添うような米麹の優しい甘みが特徴です。つくり方も昔と大きく変えておらず、今も機械ではなく手で混ぜています。
 
当社の甘酒は、うま味はあるがぬか臭さがなく、さっぱりした味わいで、お客様からは「のどが焼ける感じがしない」というご感想をよく頂きます。米と米麹の甘さだけですが、原液の糖度は40以上あります。品質検査を担当している社員は、実は甘酒があまり好きではないのですが、当社のは飲めるといいます。味や飲み口の評価が厳しいので、私はいつも冗談交じりに「あなたが飲める甘酒かどうかチェックして」とお願いしているんです。
 
甘酒は濃縮タイプなので、お好みの濃さに合わせて調整できますし、原液のまま調味料として使われる方もいらっしゃいます。私の叔母は、そのまま食べても美味しいと話していました。また、ヨーグルトにかけても美味しく頂けます。
 
フレーバーは、「純米」「小豆」「いも」「初恋レモン」の4種類があります。「初恋レモン」は、同じ豊橋市内にある「河合果樹園」で生産された無農薬レモン「初恋レモン」を使用した甘酒です。レモンの皮が入ったほろ苦さがあるのが売りで、他の甘酒とは違うさらさらとした感じに仕上げています。人気のあるフレーバーで、定期的に10本くらい購入して下さる方もいらっしゃいます。ヨーグルトのほか、かき氷にかけても美味しいです。
 
以前研究室に勤めていた社員が果樹園を経営している河合さんと懇意にしていて、そこから繋がったご縁で生まれた商品です。世の中にはレモンフレーバーの甘酒は他にもありますが、せっかくやるならうちにしかできないものをということで、レモンの皮を入れるなど、こだわりを持ってつくりました。
 
甘酒のアレンジ方法やレシピも考案して発信していますが、お客様からも様々な使い方を教えて頂いています。たとえば、「グリーンカレーが辛すぎるときに甘酒を入れたら、マイルドな味になった」とか、「初恋レモンを炭酸水で割ると、まるで甘酒でないような爽やかな味わいで驚いた」といった感想を頂きました。
 
「そんな使い方があるんだ」という発見があるのが嬉しいですね。私たちの知らなかった商品の可能性を、お客様が引き出して下さるのはありがたいことですし、こうした「相互作用」がもっと生まれてきたらいいなと思います。
 
 

古くして新しきものを



 
種麹のことを知らなくても、私たちの商品に接したことのない日本人はいないといっても過言ではないでしょう。私たちにとって、普段の仕事は地味なものに感じますが、身の回りに無数に存在する菌の中から「麹菌」というひとつの微生物だけを、こんなにも大量に安定的につくっているのは、世界にも類をみないことなので、誇りを持ってやっていきたいですね。
 
当社には「古くして新しきものを」という考え方があります。現状維持ではなく、昔からのことにヒントを得て、その時代に合ったやり方、内容で、ひとつひとつ積み重ねて次に繋いでいければと考えています。たとえば、経験や勘でやっていることを数値化したり、AIを活用する可能性を探ったりするのも、私たちの世代でやらなければならない課題だと捉えています。今やっていることが、何十年後かに「種麹のつくり方の教科書」になる可能性があるので、いい形で残していきたいです。
 
今後は医学や食品の分野など、色々な専門家と一緒に組むことで、もっと面白いことができるのではないかと考えています。長く続いた伝統を受け継ぎながら、まだまだ私たちの知らない麹の可能性を探究し、その魅力を世界に伝えていきたいと思います。
 
 

株式会社 糀屋三左衛門
所 在 地:豊橋市牟呂町内田111-1
HP: https://kojiyasanzaemon.jp/
オンラインストア: https://kojiyasanzaemon.store/

写真提供:株式会社 糀屋三左衛門

 
 
文:深谷百合子  写真:松下広美

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)

愛知県生まれ。三重県鈴鹿市在住。環境省認定環境カウンセラー、エネルギー管理士、公害防止管理者などの国家資格を保有。
国内及び海外電機メーカーの工場で省エネルギーや環境保全業務に20年以上携わった他、勤務する工場のバックヤードや環境施設の「案内人」として、多くの見学者やマスメディアに工場の環境対策を紹介した。
「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、工場の裏側や、ものづくりにかける想いを届け、私たちが普段目にしたり、手にする製品が生まれるまでの努力を伝えていきたいと考えている。

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