ミッション1:ニゴロブナの正体を知りたいなら「ふな寿司の匂いをかげる場所」で学べ!?《ふな寿司をめぐる冒険》
記事:すずき のりこ(READING LIFE公認ライター)
ふな寿司って何?
「“ふな寿司”を食べるぐらいなら、消費期限が切れた牛乳を飲むわ」
「えー、“ふな寿司”が好きな人なんているんや」
私が“ふな寿司”を好きだと言うと、こんな風に言われたりします。
“ふな寿司”とは、滋賀県の郷土料理で、琵琶湖で採れるニゴロブナを塩漬けして、更に飯漬けした発酵食品のことです。独特の匂いがするので「とてつもなく、くさい」とか「気絶するほどくさい」なんて言われることもあります。一匹2000円~3000円程する高級品なので、ハレの日の食事として、お正月やお祭りの際に出されることが多いです。
私は一口食べたその日から、ふな寿司が大好きになりました。だって、美味しいですもん。時間をかけて発酵し、幾層にも重なる複雑な味が、なんとも言えず美味しいのです。におい? 全然くさくなんてありませんよ。
「えー、めっちゃくさいやん。絶対に冷蔵庫に入れんといて欲しいわ」
「食べる時は、皿の上にラップを敷いて欲しいねん。匂いが移るから」
でも、滋賀県民でも、ふな寿司を嫌いな人は沢山います。その一方で、私みたいにふな寿司が大好きな人も多く「ふな寿司があったら、他のごちそうは要らんわ」という人もいるのです。
食の多様化が進み、食べるものが余っている時代に、未だにふな寿司が食べられているのは「美味しいから」に、他ならないはずなのです。
それなのに、沢山の人に嫌われている。でも、熱狂的に愛される食材でもある、ふな寿司。
こんな食材って、とても面白いと思うのです。
きっと、滋賀県には、ふな寿司を愛する人が沢山いるはず。
思えば、ふな寿司は好きだけれど、ふな寿司のことは何も知らない私が、県内にいるであろう“ふな寿司を好きな人”を訪ね、ふな寿司に関することを聞いてみる。そうしたら、ふな寿司のことを、もっと詳しく知ることが出来るのではないだろうか、と思ったのです。
そして「くさい」とか「まずい」と言われるふな寿司のイメージを覆し、ふな寿司を好き仲間がたくさん出来る……! そんな冒険になったら、素晴らしい……!
そういえば、ふな寿司の原料のニゴロブナって一体何だろう……?
普通のフナとは何が違うのかな?
ここには、ふな寿司を好きな人がいるはずだ!
そう思って、さっそく訪れたのは、滋賀県立琵琶湖博物館です。ここは、琵琶湖のことな
らなんでも学べるミュージアムです。
今回は、淡水魚の生態や保全に関する研究を行いながら「ふな寿司警察」なる、妖しいような面白いような活動もされている、主任学芸員の金尾滋史さんにお話を聞いてきました。ニゴロブナや、琵琶湖のこと、ふな寿司のこと、そして琵琶湖博物館の見所も伺ってきましたよ!
ニゴロブナは琵琶湖にしかいない!
¯¯¯ まず、ふな寿司の原料である「ニゴロブナ」って何でしょうか? 普通のフナとは何かが違うのでしょうか? そこから教えてください。
金尾:ニゴロブナは、琵琶湖の「固有種」ですね。
¯¯¯ 固有種、ですか?
金尾:はい。固有種というのは、その湖や水系にしかいない種類のことなんです。
¯¯¯ ということは、ニゴロブナは、琵琶湖にしか存在しないのでしょうか。
金尾:えぇ、そうなんです。
¯¯¯滋賀県で食べられているふな寿司は、琵琶湖でしか採れないニゴロブナを使っているんですね。
金尾:そうです。ちょっと、琵琶湖の話をしますね。琵琶湖の魚の凄いところって、固有種がとても多いところなんです。魚だけで固有種が16種類もいるんですよ。
¯¯¯ 琵琶湖にしかいない魚が、16種類ですか。それって凄いのでしょうか……?
金尾:凄いです!!!! 日本では、北海道にいるミヤベイワナ、秋田の田沢湖に生息していて絶滅したと言われたクニマスなど、湖の固有種の魚はせいぜい1つの湖に1種いれば良い方なんです。それに比べて琵琶湖には、16種類もいるのです!
¯¯¯ えー、日本の他の湖には、ほとんど固有種がいないのですか。そう聞くと、16種類って多いですね。その理由って何かあるのでしょうか? 琵琶湖というと、日本一大きな湖で、滋賀県の6分の1を占めるということぐらいしか、知らないのですが……。
金尾:それには「琵琶湖が400万年の歴史を持っている」というのが関係してきます。
¯¯¯ 400万年……。えっと、すみません、これって凄いのでしょうか……?
金尾:大体、湖は1万年~10万年程度で消滅すると言われています。地形変動や土砂の堆積などが主な原因ですね。
¯¯¯ えー、1万年~10万年程度で消滅してしまうのに、琵琶湖は400万年も存在し続ているのですね!
金尾:そうなんです。今の琵琶湖になってから40万年、昔からだと400万年続いています。更に面白いのは、琵琶湖の固有種には、2つの種類があるということです。
¯¯¯ ん? どういうことですか?
金尾:一つは、40万年前にいまの琵琶湖ができてから琵琶湖で進化してきた種類。もう一つは、他の場所にもかつては生息していたけれど、最終的に“琵琶湖にだけ残った”種類。この2種類がミックスされて存在している、ということなんです。世界には琵琶湖のように古い歴史をもつ湖が約20個あるのですが、その場合、元々その湖にいた種類が進化したという湖が多くて。琵琶湖のようなケースは珍しいんです。
¯¯¯ なるほど。世界的にも珍しいんですね。面白いですね。
金尾:でもね、面白いのはこれだけではないんです。滋賀県の人は、琵琶湖の魚をよく食べるのです。湖の魚をこれほどまでに食べる文化は、他の県では見られないことです。
¯¯¯ 確かに、私は他県から引っ越して来たのですが、滋賀県に来てから琵琶湖でとれた魚をよく目にしますね。
金尾:そうですよね。琵琶湖では、食べている魚の種類が多いんです。1種類、2種類ではないですからね。特に、固有種がよく食べられているのです。ビワマス、ホンモロコ、ニゴロブナ、イサザなどですね。
¯¯¯ これにも何か理由はありますか?
金尾:1つは住んでいる場所が沖合で、よけいな泥をもっていないこと。もう1つは、よく泳ぐ種類が多いので、漁獲されやすく、また身がしまっていて美味しいということです。
¯¯¯ へぇ、なるほど。
金尾:あと魚に対する調理方法もユニークなんです。これはうちの館長や他の先生がよく言われることなのですが「琵琶湖の魚は1つの魚に対して、料理のレパートリーが多いのがユニークだ」と。海の魚だと「この魚はこの料理方法!」って決まっているのが多いんです。
¯¯¯ 例えばカレイだったら煮付け、カツオだったらタタキとか、ですか?
金尾:そうですね。でも例えば、ニゴロブナはふな寿司だけですが、他のフナは刺身にしたり、炊いたり、あらいっていうのもありますね。滋賀では焼きはしませんが、岡山ではふなめしという、ミンチにして煮付けてご飯にかける料理もあります。1つの魚の種類に対してレパートリーが多いんです。
¯¯¯ 確かに、近所のおじさんから、フナの刺身や炊いたものを頂くことがあります。食べている魚も琵琶湖独自のものが多く、食べ方のバリエーションもあるって、面白いですね!
金尾:そうなんです。琵琶湖って、固有種が多いというのがまずユニークで、そのバックグラウンドには400万年の歴史を持っているのがあり、そして今度はそれを利用する人たちの文化も独特になっていたっていうのが、面白いところなんです。ふな寿司もその中で生まれたものの一つですね。
人と魚の関わりと、ふな寿司の匂いがかげる装置
金尾:琵琶湖博物館としては、こうした「人と魚の関わり」ということを伝えたいんです。2016年に水族展示をリニューアルしているのですが、その時に「ただ魚を展示するだけじゃなく、もっと人と魚の関わりを入れよう」って方針に決まったので、色々アイディアを出しました。
¯¯¯ おぉ、どんな風になったのでしょうか? 興味あります!!
金尾:まず、目の前に魚があって「美味しそう」という人もいますよね。ですので、湖魚料理や漁業と水族の魚をセットにするべきだと思ったんです。でも、うちは「水族館」ではなく「博物館」だから、こういう「関わり」を「見せる」べきだろうと思って、水族展示の最後に川魚屋さんを作ったんです。あ、ご案内しますね。
¯¯¯ えっ、川魚屋さんですか? 博物館の中に?
水族展示のコーナーでは、琵琶湖の魚の展示が続く。漁師の様子や、使っている網を展示したりもしています。
そして現れた、川魚屋さん! と、金尾さん??
¯¯¯ 本当に川魚屋さんがありました。そして、これって金尾さんですよね??
金尾:えぇ、僕がパネルになっております(笑)この川魚屋さ
んは、滋賀県にある実在する川魚屋さんを再現しているんです。
名前には滋賀県の「滋」を使いました。僕の名前ではないです
からね(笑)
「今まで見てきた魚は、こうやって料理になるんだよ」ってこ
とを伝えるために、これを作ったのです。
¯¯¯すごいインパクトですね。なるほど、今まで見てきた魚をこう
して頂いているんですね。ニゴロブナもありました。
この魚が美味しいふな寿司になるんですねぇ……。
金尾:そうそう、ここに、ふな寿司の匂いをかげる装置を設置したんです。
¯¯¯ え! ふな寿司の匂いですか? だ、大丈夫ですか? ふな寿司の匂いは気絶するほどくさいと言われていますが……。この蓋を空けたら、ふな寿司の匂いがするんですか?
金尾:えぇ、そうです。「五感で感じて欲しいな」と思って、匂いも作りました。他の展示室には、琵琶湖の周りに生えているヨシという植物の匂い、カワウという水鳥のコロニー(集団宮巣地)匂いも作って展示しているんです。
¯¯¯ なるほど。匂いって、感覚を刺激しますからね。
金尾:ただ、この匂いにたどり着くまでは結構大変でした。他の博物館でも匂いの展示をしている所があったので、ツテを頼って色々な業者にお願いしたのですが、結構断られてしまって。最終的には東京のアロマなどを作っている会社が引き受けてくれました。調香師さんという、依頼された匂いをかいで、薬品や自然素材などで再現してくれる方がいらっしゃって。一度滋賀に来て頂いて、ヨシ原に入っていただいたり、カワウのところに一緒に行ったり、ふな寿司を食べてもらったりしたんですね。何回か試作を繰り返して、ヨシとカワウの匂いはすんなり完成したのですが、ふな寿司はなかなか、OKが出せなかったです。
¯¯¯ ふな寿司の匂いは苦戦されたんですね。具体的に、どんな匂いにして欲しいという話もあったのでしょうか?
金尾:そうですね。フナの生臭さも匂いとして入れて欲しいけれど、あんまり強調すると腐った匂いが強くなるので、ヨーグルトのような乳酸的なものも入れて欲しいと要望しました。ふな寿司の発酵は、乳酸発酵なので。魚の匂いというより、周りのご飯の部分の匂いにして欲しいって伝えましたね。あと食べ物って、匂いをかいだ時と、食べている時の匂いの感じ方って違うじゃないですか。「かいでいる時の匂いがいいね」って話もしましたね。
¯¯¯ なるほど。色々考えて作られているんですね。
金尾:そういえば、ちょうどその時、調香師さんにとあるテレビ番組の密着取材が入っていたので、僕達が無理難題を言うクライアントとして、色々やり取りしている現場が映りました。「これはちょっと違う」とか(笑)
¯¯¯ 無理難題を言うクライアントですか(笑)
金尾:えぇ(笑)最後は、完成した匂いを、お客さんがかいでいるところを2人で見ている場面で、放送は終わるんですけどね。
¯¯¯ 匂いをかいだ人の反応ってどうなんですか……?
金尾:やっぱり、8割ぐらいは「うわっ、くさっ!」ってなりますよ。
¯¯¯ えー、やっぱりそうなんですか! 私は全然大丈夫ですけどね。うん。
(蓋を開けて匂いをかいでみるけれど、チーズのような磯のような香りを少し感じ
ただけでした)
金尾:「全然いける!」って人もいますよ。
「くさい」って先入観で匂いをかいでしまうから、くさいというのもあると思います。
でも、ふな寿司の匂いは完成したんですけれど、まだ100%の匂いではないんです。
¯¯¯ まだまだ改良の余地はある、ということでしょうか?
金尾:えぇ、ベストではなく、ギリギリセーフというところです。これならOKっていう感じ。これならふな寿司の匂いとしてありだな、っていうところで終わってしまっているんです。でも、調整が難しいらしくて。例えば、すっぱい匂いが早くぬけてしまって生臭さだけが残ってしまうとか。そう言うのが難しいらしいので……。本当は、もっとベストなふな寿司の匂いに近づけたいんです。
¯¯¯ 金尾さんは、お客さんが「くさっ!」って言われているのを見て、どう思われているんでしょうか?
金尾:本当はくさくないのになって。
¯¯¯(笑)
金尾:人の受け止め方なんで、それはいいと思います。でも、僕は食べてもないのに「くさい」って敬遠しないで欲しいなって思います。「一回食べてみたら分かるよ」って思っています。食べてもいないのに「くさい」とか「まずい」とかは言ってほしくないんです。食べてみて「やっぱりダメだった」は全然よいのですが。
¯¯¯ 匂いをかいでみるだけでなく、実際に食べてみて欲しい、と。
金尾:はい。でもね、ふな寿司って物によって、味が全然違ったりするんです。だから、最初は「万人受けするふな寿司」をまず食べて、それを入り口にして欲しいですね。
¯¯¯ えー。ふな寿司にも色々あって「万人受けする」ものがあるんですね。今度、食べてみたいです。
博物館の帰りには、琵琶湖の魚を食べて欲しい
金尾:琵琶湖博物館としては、人と魚の関わりを伝えたいので、館内を見てもらった後で「琵琶湖の魚をお土産に買って帰ろうかな」とか「琵琶湖の魚を食べて帰ろうかな」って、なってもらえるといいなと思っています。
¯¯¯ 館内には、お土産屋さんやレストランもありますね。
金尾:えぇ、お土産屋さんにもふな寿司が置いてあって買えますし、レストランでも食べられます。でも、帰りにどこかで「買おう」ってなった時に、売っている場所が結構ないんです。道の駅とか、デパチカ辺りにはあるのですが、売っている場所が少なくて、身近ではなくなってきているのですよね。駅前の居酒屋でふな寿司を食べられる場所も、意外になくて。昔ながらの居酒屋には置いてあることが多いのですが、チェーン店には置いていないですし。だから、僕は「ここで食べられます」っていうのを、掲示板に食レポみたいな形で書きたいんですけどね。
¯¯¯ それ、いいですね! 見たいです!
金尾:「ここの店に行けば食べられる」っていうマップを作って配ったりもしたいです。以前、川魚屋さんマップは作ったことがあったんですけど、廃業しているお店も出てきたり、情報が古くなってしまっていて。
¯¯¯ 博物館で琵琶湖の魚と人との関わりを学んで、帰りに琵琶湖の魚を食べるという風につながるといいですよね。
金尾:そうですよね。僕は魚が好きすぎて、色々と食べ歩いているので、個人的にSNSに感想を書います。それを見て、実際に足を運んでくれる人がいたりしますね。
――― 私も知りたいです! その情報を知りたい人は多いはずです!
県外の方にもふな寿司は人気である!?
¯¯¯ 個人的なことを聞いてもいいですか? 金尾さんはいつから、琵琶湖の魚が好きになったのですか? 小さな頃から?
金尾:僕は大学の時から、滋賀に来たんです。小さな頃から、生き物や魚に興味はあったのですが、広島出身なので「えー、フナを食べるなんてありない。淡水魚を食べるなんて」って思っていました。でも、ふな寿司も食べてみたらめちゃくちゃ美味しい! そして、淡水魚の研究をしながら、琵琶湖で釣った魚を「捕まえては食べる」を繰り返しているうちに、すっかり大好きになりました。今では、湖魚を愛するあまり、県内どこへでも足を運んで、湖魚料理を食べ歩いています(笑)
¯¯¯ ふな寿司もよく食べますか?
金尾:ええ、もちろんです。仲間内で色々なふな寿司を持ち寄って食べたりもしますし、学会などで魚の研究者が他府県から来たら、絶対にふな寿司が出てくる居酒屋に連れて行って食べます。他府県の学会に行く時も持っていきます。すぐになくなってしまいますし、大体人数分足りないことが多いですよ。
ふな寿司警察のパトロール先は、カルボナーラ!?
金尾:あと、SNSには“ふな寿司警察”で行ったお店のことも書いています。ふな寿司警察は、僕の個人的な活動ですが。
¯¯¯ “ふな寿司警察”!! それってなんですか(笑)?
金尾:「ふな寿司とコラボした商品がある」っていう情報を仕入れると、パトロールに行くんですよ。
¯¯¯ えっ(笑)! ふな寿司とコラボした商品は、たくさんあるんですか?
金尾:結構ありますよ。ふな寿司アイスや、ふな寿司ラスク、ふな寿司ビールとか。たまに新しい商品が発売されるので、情報を仕入れたらパトロールするんです。
¯¯¯ 最近はどこに行かれたんですか?
金尾:こないだは「ふな寿司ラーメンと、ふな寿司カルボナーラって書いてある張り紙を見たよ」っていう情報を頂いたので「これは行かなくては!」と思って、パトロールに出かけたんです。
¯¯¯ パトロール! カルボナーラとラーメンですか……はじめて聞く組み合わせです。
金尾:美味しかったですよ。ふな寿司の頭でだしをとって、豆乳ベースでスープを作っていました。カルボナーラはゆず胡椒を混ぜていて。
¯¯¯ へぇー! ぜひ行ってみたいです! 魚が好きで色々食べ歩いている金尾さんが言うなら絶対に美味しいんだろうな、と思って興味が沸きますね。
ふな寿司味のポテトチップスは、今どうなっている!?
¯¯¯ SNSでの発信は、よくされているんですか?
金尾:そうですね。個人的に色々興味あることを、毎日何か書いていますね。そういえば「ふな寿司味のポテトチップスが絶滅危惧種である」って投稿をしたら「いいね!」が300以上ついたことがありましたね。
¯¯¯ えっ、どういうことですか!? えーと、確か2017年にカルビーから47都道府県のご当地ポテトチップス第1弾が発売された時、滋賀県は「ふな寿司味」だったんですよね。SNSでも話題になっていました。それが絶滅危惧種、ですか!?
金尾:期間限定の発売だったので、半年後ぐらいに「どれぐらいお店に残っているのか」を個人的な興味で調べたら、もうほとんど見ないということが分かったので「これは、絶滅危惧種に挙げるべきである」っていうので載せたんです。僕は環境省や滋賀県のレッドデータブックの執筆もやっているので、同じように書いたんですね。本当のレッドデータブックと同じ論調と同じカテゴリーで「減少の脅威」とか自分で勝手に書いて。「ふな寿司の歴史を調べる」みたいな英語の引用文献もフェイクで作って。そしたら、見てくれている人たちが面白がって、色々コメントくれて(笑)知らない人にもシェアされました。
¯¯¯ ん? 私もこの投稿を見たことあります!!! 誰かがシェアしていました。いやー、面白いことする人がいるなって思いながら見ていました(笑)
金尾:まだ我が家に、5袋だけ残っています。賞味期限は切れているのですが、絶滅危惧種なので、系統保存しないといけないなと思って。
¯¯¯ 再販はしないのでしょうか?
金尾:カルビーさんに直接問い合わせをしたんですが、「再販はしません」ってことでした。なので、そろそろ「野生絶滅の宣言」を出ないといけませんね。
¯¯¯ 野生絶滅の宣言!! その投稿、楽しみにしています。
琵琶湖の魚を食べるのは、滋賀県の大事な文化である
¯¯¯ 琵琶湖博物館に来たら、ふな寿司を好きな人がいるだろうなと思って伺ったのですが、想像以上にふな寿司も琵琶湖の魚も大好きな金尾さんにお話が聞けて、今日はとても大満足でした。最後に改めて、琵琶湖博物館の魅力や、金尾さんが伝えたいことをお聞きしてもいいでしょうか?
金尾:やっぱり、一番伝えたいのは「人と魚の関わり」ですね。「琵琶湖の魚と人の関わり」というのは、他県にはない独自の文化なので、それを伝えて行きたいですね。今は滋賀で培われてきた淡水魚を食べるっていう文化自体が、離れつつあるんです。県内出身の子ですら「琵琶湖には、ブラックバスとかブルーギルしかいない」と思っていたり「琵琶湖の魚って食べられるんですか?」って、聞いてきたりするんです。そうじゃなくて「琵琶湖の魚を食べるっていうのは、滋賀県の大事な文化なんだよ」ってことを伝えて行きたいですし、残して行きたいですね。
¯¯¯ なるほど。琵琶湖のユニークで面白いところや、人と魚の関わり、そして「琵琶湖の魚を食べるという文化は滋賀県の大事な文化なのだ」ということが、今日はとてもよく分かりました。金尾さん、どうもありがとうございました。
今日学んだこと
・ ニゴロブナは、琵琶湖の固有種で、琵琶湖にしかいない
•琵琶湖には固有種が多い
•琵琶湖には400万年の歴史がある
•琵琶湖の魚の食べ方には独特の文化がある
•琵琶湖博物館には水族館だけでなく、川魚屋さん、ふな寿司の匂いをかげる装置がある
•「万人受けするふな寿司」があるらしい
•金尾さんは、魚を愛するあまり魚料理にも詳しい
•金尾さんは、ふな寿司警察の活動をしている
•「ふな寿司味のポテトチップス」は、そろそろ、野生絶滅の宣言を出されるらしい
•琵琶湖の魚と人との関わりは、滋賀県の大事な文化である
・今回、話を伺った方
金尾滋史(かなお しげふみ)さん
1980年広島生まれ。滋賀県立大学環境科学部、滋賀県立大学大学院環境科学研究科、多賀町立博物館学芸員を経て、2011年から県立琵琶湖博物館学芸員へ。専門は、水族繁殖学、魚類保全生態学。主な研究テーマは水田地帯を利用する魚類の生態と保全、地域と共に歩む希少淡水魚の保全など。地域の子どもたちに囲まれながら「学」と「芸」を両立させるカリスマ学芸員を目指して日々修行中。趣味は写真、紅茶、鉄道の旅。特技は書道。ふな寿司警察としての任務を行っている。
❏ライタープロフィール:すずきのりこ(READING LIFE 公認ライター)
1984年生まれ。2010年に結婚を機に滋賀へ移住。仕事を通してまちづくりや、市民活動に熱い人に出会い、地域や滋賀の良さに目覚める。滋賀県のよさについて熱く話しすぎて「……観光大使?」と友達にドン引きされた経験アリ。好きな食べ物は、ふな寿司と近江牛と彦根梨。
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