よにんめ 猫と暮らすオンナ、ミア《小説連載「人生を変える割烹」》
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
最後に会話したのって、いつだっけ?
ふと気がつくと、1週間誰とも会話していない、なんてことがざらにある。WEBコンテンツ制作会社の外注スタッフとして働くミアは、ふとそう思い立ち、コーヒーを淹れるためにキッチンに向かった。
「あ、そうだ、田舎のかあちゃんから、今度の正月は帰ってくるのかどうかっていう電話だったよね」
足元には飼い猫のポンタが寝そべっている。猫に話しかけているのか、独り言を言っているのか、時々区別がつかなくなる。ポンタはにゃー、と、返事ともつかない鳴き声をあげて、前足をおもむろに舐めて毛づくろいをはじめた。猫はきれい好きとは聞いていたが、自分でここまでキレイにしているとは思ってもみなかった。一方ミアといえば、ここ1週間ほど家から一歩も出ていない。誰にも会わないのでメイクもしないし、下手したらずっと寝間着のままだったりする。
コーヒーメーカーのスイッチを淹れて、ミアはシャワーに入った。今日は久しぶりに都内に出ての打ち合わせだ。新しい案件の仕事が始まるので、外注スタッフも含め全体でミーティングをしたいというクライアントからの要望だ。制作スタッフとしても、データで送られてくる指示書だけでなく、実際人の顔を見て作るほうが作りやすい。なんというか、魂が乗るのだ。しかしミアは分かっている。こういう仕事の仕方は、制作スタッフとしてはプロっぽくないことを。
指示通り的確に仕事をこなすこと、それが外注スタッフに求められていることだが、ミアはどうもそれだけでは、なにか嫌なのだ。人と接することが苦手だからWEB制作の仕事、しかも外注スタッフの道を選んだのに、作業だけで終わる日常というのも、ちょっとどこか物足りない。
そのためにミアは、ポンタと暮らし始めた。
猫がいればひとりじゃない。だけど人間じゃないから、人間関係の煩わしさはない。
「いいよね、猫は自由で。周りのこと一切気にしてないもんね、ポンタ」
シャワーから出たミアは、ポンタを見ながら髪の毛を乾かし始め、出かける支度をはじめた。やばい、メイクの順番、覚えてるかな……
高野ミア、39歳、独身。
晩婚化が進む日本、それにしても39歳で独身というのは、やはり少し遅すぎるかもしれない。巷にはアラフォー向けの婚活ビジネスが大盛況で、40を超えても幸せに結婚している人がいる。しかし既婚女性の9割が34歳までに結婚している事実は、もちろんミアも分かっている。
「ミアちゃん、あんたはいつ、結婚しよんの?」
愛媛の宇和島に住むミアの母親は、一人娘が心配で、折りに触れ電話をかけてきては娘の様子を探ろうとしていた。
「そろそろ、こっちに帰ってこんの? 誰かいい人おらんの?」
母親は、容赦ない。
一番訊いてほしくない、一番答えられない質問をストレートに投げかけてくるのがミアの母親だ。一人っ子として育ったミアは、家族からあまりある愛情をかけて育てられた。ミアちゃんこれお食べよ、これ要るかと、とにかく世話を焼きたがる母親と、母親の勢いにいつも飲まれて無口な父との、愛媛の典型的な農家の家だ。
「ミアは、すごいな。なんでもよう出来るし。さすがうちらの子やな」
ミアは母親の自慢の娘だった。学校の成績はいつも優秀、習い事のピアノもすぐに上達したし、絵画や習字といった美術系の授業でもいつもトップクラスの成績だった。スポーツもそつなくこなし、なんでも器用にできちゃう子、それがミアだった。
母の自慢の娘ミアは、そんな自分が嫌いだった。
「なんでもできて、すごいね」
「さすがミアだよね」
そんなふうに友人も学校の先生もミアのことを評価していたものの、それ自体がミアにとっては重荷だった。なんでも器用にできることは自分でも自覚していたけれど、それが実はミアにとって、最大の欠点でもあったからである。
つまり、器用貧乏。
なんでも、そこそこそつなく出来るというのはつまり、どこか突出して秀でたどころがないということだ。例えば葉加瀬太郎と言えばバイオリン、羽生結弦といえばフィギュアスケートというように、特技があるほうがかっこいいし、大成功できる可能性がある。一つのことに馬鹿みたいに打ち込み、それを習熟して自分のものにし、その突出したスキルや経験で自分の身を立てること、そしてそれが評価されて成功すること、そういうことが本当に羨ましいと思っていた。
「あなたの夢はなんですか?」
そう訊かれて、即座に自分がなりたい未来の職業を応えられる友人たちが本当に羨ましかった。なぜならミアは、いつも言葉に詰まっていたからである。
自分がやりたいことってなんだろう?自分の夢ってなんだろう?
どうして夢を持って生きなければならないのだろう?
夢に向かって生きることが、どうしてそんなに素晴らしいことなのだろう。
ミアにはわからなかった。
「なんでみんな、夢を持てとか、夢を叶えようとか、大きなお世話だよ。
そもそも夢なんて、どうやって見つければいいわけ?なにか一つでもあればいい、っていうけど、その一つがなにか分かったら苦労はいらない」
だからといって、田舎ののんびりしすぎる環境にも耐えられなかった。地元の大学を出て、地元の企業に就職し、2,3年働いたら職場の人と結婚して出産、子ども2人を育て、パートで家計を助ける。そんな生活はまっぴらごめんだとも思っていた。何か自分にもできることがあるはずだ、努力すればきっと何か見つかるはずだと思い。大学は愛媛を出ることを決意して東京に向かった。
「さすがミアさん、仕事が速くて助かります!」
「では、3日までに納品しますね。こっちのランペは今日中にできますので、夜には送っておきます。次の打ち合わせはいつにします?イメージコンサル川村さんの案件、こっちもそろそろ動かしていかないと……」
WEB制作会社では、複数の案件が錯綜していて、ミニマムな人員で回しているため、いつもいっぱいいっぱいだった。その中でミアが外注として多くの作業を引き受けてくれているので、仕事はなんとか回っているのだ。もしミアがいなかったら、あと5人はスタッフを雇う必要があるだろう。それぐらいミアの仕事は完璧で速かった。
「川村さんの案件、ミアちゃんにまるっとおまかせしていいかな。あのクライアントさん、ものすごく完璧主義だから、ミアちゃんが担当してくれると安心なんだよね」
「わかりました、じゃあ私が直接打ち合わせしてきますね。だいたい、もうこの資料で感じは分かってるので、問題ないと思います」
「さすが、ミアちゃん。助かる!」
そう言って社長は、ミアに川村サトミ案件のファイルをすべて手渡し、隣の部屋に消えていった。
「イメージコンサルタントさんかあ……」
自分とはかけ離れた、華やかそうな仕事である。パラパラとファイルをめくりながらインターネットで調べてみたら、どうやらかなりの美人であることがわかった。ファッションやイメージづくり、ブランディングをすることで、数々の政治家や企業の社長たちが大きな成果を出すことができているという。こういう人にかかったら、自分の魅力も引き出されるのだろうか?
川村サトミのファイルには、これまでサトミが担当してきたクライアントの数々がコンサルティング例として含まれていた。中には誰でもが知っている芸能人の姿もあった。その姿のビフォーアフターの違いは、思わずのけぞりそうになるぐらいで、慌ててネット検索して確認しようとしたぐらいである。それぐらいサトミの、イメージコンサルとしての力量はすごかった。
むくむくと、イメージコンサルタントという仕事に興味がわき始めた。
この人なら、私の夢を見つけてくれるかもしれない。
「やっぱりさ、二股かけてたんだよね、アイツ」
仕事仲間であり、よき相談相手でもあるマリコに、真っ先に言いたかった。
「こないだ一緒に食事にいったときも、誰かからかかってきた電話でずっと話しっぱなしだったし、帰りもなんだかあっさりしてるし、なんだかなあと思っていたら案の定、もうひとりオンナがいたんだって。もう、ひどいを通り越して呆れた」
「またなの、ミア? これで一体何人目? マッチドットコム、そんなのばっかりじゃない?ろくな男がいないよね」
マッチドットコムは日本国内でも250万人が利用しているマッチングサイトだ。一昔前までは、ネット上で出会うなんて怖いと思われていた時代だったのに、もはやネットの出会いのほうが当たり前ぐらいの感覚になりつつあった。それほど、インターネットを取り巻く世界の移り変わりは激しく、ミアの仕事はまさにその真只中にいるようなものだ。ミアはマッチドットコムで出会った男性と会っては分かれ、会っては別れを、ここ数年繰り返していた。
写真がまあまあ好みだからと思って会うと、だいたいろくなことがない。アル中、マザコン、ヒモ男、とにかくダメンズばかりに当たるのだ。5組に1組の結婚がネット上からの出会いと言われているけれど、それはガセネタじゃないのかと思うほど、出会う人出会う人がどうにもならなすぎる。
いったい、結婚したいと思える男なんて、この世にいるのだろうか。
ミアも人並みに結婚したいと思っているが、なんせ出会いがない。WEB制作という家に籠もって出来る仕事で、なおかつ仕事仲間もITオタクやエンジニアが多い。間違ってもあまり色気のある男子とは言えない人種だ。
仕事が速いミアはアタマの回転も速く、ムダや時間がかかることが大嫌いだ。リアルで出会ってお茶やディナーといった行程がまどろっこしく、まずは写真と条件で選べるネット上の出会いが一番性格にあっていた。
それにしても、ろくな出会いがない。リアルでもネットでも結婚したいと思える相手がいないのであれば、もう全滅じゃないか。
だからミアは、飼い猫のポンタをこよなく大事にしていた。
こちらが気にかけるとツンとするくせに、何かにつけてはにゃあにゃあとすり寄ってくるあの丁度いいツンデレの可愛さに、もうこれ以上は何もいらないとすら思えてくるのであった。
自分が楽しくできて、またその自分のスキルが重宝される仕事と、そこそこの収入と、それにかわいい飼い猫がいたら、もう充分じゃないか。
ミアはマリコの説教を聞きながら、マッチドットコムのアプリをスマホから消去した。
待ち合わせに指定されたのは、外苑前の銀杏並木沿いにあるテラスカフェだった。ミアがこんなシャレた場所にくるのは久しぶりのことだ。ここは、イメージコンサルタント川村サトミが打ち合わせのために指定してきた場所で、ひっそりと静かで、まるで隠れ家のようである。サトミが謎めいた女性であることはミアも承知していた。そしてむしろこのカフェを指定されたとき、なんだか自分に近いものを感じた。
「華やかな、イメージコンサルなんて仕事をしている人と感覚が似ているなんてね」
1人つぶやきながらドアをあけたら、一番奥の席にもうサトミは座って、パソコン画面を眺めていた。
「こんにちは、高野ミアさん、ですか。川村です。今日はありがとうございます」
「あ、こちらこそ、今日はよろしくおねがいします」
形式通りの初対面の挨拶が一通り終わると、サトミは早速ですが、と切り出した。こういうムダのない仕事の仕方をする人ならやりやすい、ミアはすぐにサトミに好感を持った。
打ち合わせというと、なぜかダラダラと天気の話をしたり、同僚の話をしたり、くだらない話をしたがる人が多すぎる。仕事なんだから用件だけ手際よく話せばいいのに、なかなか言いたいことを言ってこなかったり、本音を語らなかったりと、人の時間を無駄に食う打ち合わせが、ミアは大嫌いだった。
サトミはテキパキと自分の要望を伝え、それをWEB上で表現するのが可能なのか不可能なのかを確認していった。質問や相談の仕方がいやに専門的で、かつ的を得ていたので、WEB系の仕事の経験者かと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「サトミさん、WEBのことも詳しいんですね。こういうお仕事もされていたんですか」
「いいえ、全く。だけどクライアントさんにはIT関連会社の社長さんなども多いので、自然と学んで覚えました。私のような仕事は、いろんな職種の方とお話させていただくので、いろいろと教えて頂けるんですよ」
なるほど、おもしろい。なぜならミアの仕事もそうだからだ。
WEBのプラットフォームを持たないビジネスはもうほとんど存在しない。どんな業種でも、例え八百屋だろうと魚屋だろうとホームページを持っていたり、ネット通販サイトを持っていたりする。ミアはWEB制作を通じて、いろんな業種の人と出会い、仕事を覚えていった。ただしそのほとんどは資料から得た情報だけだった。
「おもしろいですよね、私たちのような仕事は。自分が表に出るわけじゃないですけど、誰かの役に立って、その方の下支えをする仕事ですから」
サトミはミアの心を見透かしたように、優しい目つきでミアをじっと見つめた。その目を見ていたミアは、なんだか心の奥底を見られたような気になってしまい、どきり、とした。
「人の仕事ばかりをして、自分のことはいつも後回し。それで本当にいいの?」
そんなふうに言われているような錯覚に陥った。
自分と同じ、人の裏側を支える仕事をしていながら、サトミの自信たっぷりの美しいあり方はどうだろう。カフェに1人座っている様も、話し方も、言葉の端々にも、女性として、また大人の社会人としての余裕が感じられる。
それに比べて自分はどうだろう。
一人暮らしの部屋でたった1人、飼い猫とパソコンに向かって暮らす生活……
「なんでもできる良い子のミア」は、一体どこに行ってしまったのだろう?
「ミアさん、大丈夫ですか?」
サトミに言われてはっと顔を上げた。
「では今日はこのへんで。追加の資料はそちらにお送りしますね。住所はこちらで間違いないですか?」
「はい、自宅に送って下さる方が助かります」
そう言ってミアは、ポストイットに自分の住所を書いて手渡した。
そういえば、ちゃんとした名刺すら、持ってなかったんだよね。
今日はとことん自分が嫌になった。
数日後、ミアの自宅に1通のレターパックが届いた。サトミからの追加の資料だった。いくつかの写真や雑誌の切り抜きが同封してあり、そこにはサトミの手書きの手紙も一緒に入っていた。
ミアさん
先日は、ありがとうございました。
ミアさんのおかげで、とても素敵なウェブサイトができそうでワクワクしています。
その御礼、と言ってはなんですが、今度一度、食事をご馳走させてくださいませんか。お連れしたいお店があるんです。
実はもう、◯月X日に予約を入れてあります。
京都駅に18時、お待ちしています。
サトミより
「え、京都?!」
あまりの唐突な申し出に面食らいはしたものの、無駄が嫌いなミアとサトミである。不思議な女性サトミからのオファーには、ノーと言えない雰囲気がただよっていた。
ちょっと行ってみるか、せっかくだしね。
思わずミアの口からは、鼻歌が聞こえていた。
ポンタはそんなミアを眺めながら、大きなあくびを一つして、また元の姿勢に戻って昼寝を始めた。
「ようこそ、おいでやす。サトミさん、また来てくれはったんどすね。おおきに、ありがとうございます」
10月の京都はまだ暑さも少し残る時期で、先斗町の女将は単衣の着物をさらりと着こなし、帯には金色に光るイチョウの刺繍が施されていた。この時期には袷を着るのが一般的なルールなのだが、料理屋の女将の仕事は楽ではない。客人をもてなすために文字通り東奔西走しているので、単衣の着物でも暑いぐらいだ。
「こちらは、お友達どすか。随分と色白の方どすなあ。お仕事はデスクワークですか。肩がこってはりますやろ、今日はゆっくりしていっておくれやす」
ミアはぎくり、として、思わず背筋を伸ばして居住まいを整えた。パソコン仕事が多いのでついつい猫背になるし、ほとんど家から出ないので顔色も悪い。自分の姿勢の悪さが想像以上に自分のことを物語っていることを、この時ミアは思い知った。
「苦手なものはございませんか。秋の京都は味覚の宝庫やさかい、ようけ召し上がっていっておくれやす。栗やら、銀杏やらは大丈夫どすか?」
苦手もなにも、栗も銀杏もそんなに食べた記憶がない。一人暮らしで自炊もしないので、そんな食材などほとんど食べる機会がないのだ。料理は嫌いではなかったが、自分ひとり分だけを作る気にもならず、狭い部屋をなるべく広く使うためにミアは引っ越しと同時に冷蔵庫を捨てた。あると却って食材を買い込んだり、料理をしても食べきれずに余ったものを保存したりで、それが気になって仕事のパフォーマンスが落ちることが我慢できなかった。なるべく手間暇がなく、ストレスがない生活。ミアは無駄なこと、まどろっこしいことが大嫌いだった。そんなミアをサトミは、まるで少し前までの自分を見ているようだと感じていた。
「銀杏はね、食べすぎんように気いつけてや。この季節は銀杏がほんま美味しいんで、ついついぎょうさん食べすぎてしまうんやけど、あまりたくさん食べたら倒れまっせ。それほど、毒性が強いんどす」
「え、なんでそんな、毒性があるものを食べるんですか? しかもお店で出すって、大丈夫なんですか」
「そやろ、それがな、京都の人は、食べることが好きなんや。死ぬかもしれへんけど、美味しいことが大事なんや。坂東三津五郎はんていう歌舞伎俳優はご存知どすか。ふぐ食べて、その毒で亡くなってしもた人や。ふぐの肝には毒があるってわかってはるのに、何皿も食べて亡くなってしまわはったんや」
「なぜそんな毒を、食べるんですか?」ミアはわからなかった。
「それぐらいな、食べることは、人に死ぬ恐怖すら忘れさせるもんなんや。死んでまで美味しいもんが食べたい、これ、人が生きるために必要な欲望の根源なんやと思う。食べて死んだら矛盾するって、私らは思いますけどな」
その夜ミアとサトミは、京都の美味しいものを食べ尽くして、飲んで、笑って楽しんだ。誰かと一緒に食事をすることがこんなにも楽しく幸せなことなのかと感じながら、銀杏をつまむ手が止まらなかった。
この銀杏、何個食べたら死ぬのかな。
いいや、死んでも。だって、こんなに楽しくて美味しい時間を過ごしているのだから。
川村サトミのウェブサイトが出来上がった。
京都から帰ったミアは、他の案件をさておき、サトミのウェブサイトにとりかかった。彼女が私に何を京都で伝えたかったのかがわかったような気がして、それをとにかく仕事に繁栄させたいと思った。
サトミの依頼は、イメージコンサルタントとしてのサイトづくりだったが、ただのウェブサイトではなかった。ミアにとっては無理難題なお題が課せられていたのである。それは「ぱっと見ただけで人が自分の明るい未来を思い描けるようなサイトにしてほしい」というものだった。イメージコンサルタントの仕事は人の未来を描く仕事、それが伝わるデザインにしてほしいというのが、サトミの要望だったのである。
艶のある黄緑色をベースに仕上げられたサイトは、ミアの自信作となった。かならずこれならサトミが気に入ってくれるはずという確信が、なぜかミアにはあった。なぜならそのサイトを作った張本人が、自分の未来になんだか明るい夢を、思い描ける予感を感じていたからだ。
ミアはスマホを手に取ると、掛け慣れた番号を押した。
「あ、かあちゃん? 来年のお正月は、そっち帰るね。何かお土産持って帰るし、いるもんあったら教えて」
今度のお正月は、家族でとのんびり過ごそう。かあちゃんのお雑煮が食べたい。もちろん、ポンタも連れて帰ろう。
<<第5話に続く>>
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女将のお懐紙レシピ
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ミアが未来の夢を見つけた!
塩炒り銀杏
塩炒り銀杏
(材料)
銀杏 30個ぐらい
瀬戸内海の塩(自凝雫塩)50cc
(作り方)
1 銀杏はペンチで挟んで硬い殻を少し割っておく。
2 琺瑯の鍋に塩、銀杏を入れて中〜弱火にかける。時々鍋をゆすって銀杏を炒る。
3 ほんのり色がつき、銀杏の香りがたってきたら出来上がり。
注意:食べ過ぎると気分が悪くなることがあります。特に小さいお子様には食べさせないでください。
塩が美味しいことが必須。美味しいお塩を使ってください。
美味しすぎて死んでも食べたいふぐ
(材料)
ふぐの肝臓
(作り方)
てっちり(ふぐの鍋料理)に1,2切れ、切った肝臓を添える。
注:死に至る可能性があるので、食べないでください。ふぐは、かの北大路魯山人も「これ以上美味いものはない」と評するぐらいに美味で、体脂肪がほとんどないことでも知られる高級魚である。
肝臓と卵巣に猛毒であるテトロドトキシンを含み、その部位をほんの10グラム食べただけで死に至ると言われている。そのため、ふぐを調理するにはふぐ調理師免許という別の免状が必要になる。京都にある料理屋「政」にて、あまりの美味しさにふぐの肝臓を食べて亡くなったのは歌舞伎俳優八代目三津五郎である。
*この物語はフィクションであり、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*レシピの効果には個人差があり、効果・効用を保証するものではありません。
◻︎ライタープロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。
http://tenro-in.com/zemi/102023