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こな落語

麺にも季節物が有る。色物だって有る《こな落語》


2022/06/20/公開
記事:山田将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
何とかフリーなんぞと申しまして、このところ色んな壁が取り払われております。
先日も、私んとこの隣が建て替えとかで、壁という壁が取り払われておりました。
聞きたいのは、そんな壁じゃない??
解かって居ります。
 
ただ、反対に取り払われないのが、落語界の壁というものでして。いつまで経っても、立川流は常設の寄席に呼ばれません。
そんなこと言ってる間に、立川流に冷たいデカい百貨店傍の〇△亭なんざぁ、先行きが怪しく為っちまったそうでして。
ま、〇春師匠と〇らく師匠を和解させて同時に舞台に上げれば、連日満員御礼に為るんですがねぇ。
もうちょいと、気が利いた了見の席亭が出てきて欲しいものです。
 
そこへいくってぇと、講談の席亭は懐が深いもんで。先日なんかも、講談の会に、噺家(落語家)さんが呼ばれてました。それも、ヒザ前(トリの二人前)てぇ、とてもいい香盤(順番)で。
そん時なんざぁ、噺家さんも粋に為るもんで、
「読み物の間の“色物”で御座います」
なんて、異色の自分を一段下げて紹介するてぇ寸法で。
 
本来寄席では、落語が本寸法(本来の型)で、間に出て来る漫才・漫談・奇術・形態模写といったものを“色物”なんてぇこと言います。
これは、張り出される口番表に落語は墨で、その他のものは赤や青といった別の色で書かれるところから来て居りやす。
 
何? 枕が長い。
解かってます。解かってます。
もう直ぐ、本題に入ぇ(へぇ)りやす。
 
御馴染みの大家さんが蘊蓄を垂れる麺類にも、落語と同じく季節物が有り、寄席と同じく“色物”が有ります。そんなことを大家に聞きに来たのは、長屋の住人の八五郎さん。
何でも、暑く為ったので素麺(そうめん)が食べたくなったそうで……
 
 
「こんちは。大家さんいらしゃいますか」
「はいはい、なんだ八じゃないか」
「じゃないかって、犬を呼ぶみてぇに言わんで下さいよ」
「何言ってるんだ。犬と間違われたくなかったら、毎月毎月、きちんきちんと店賃(家賃)を収めろってぇの」
「へいへい。来週には給金が入るんで、一番に持って参り(めぇり)やすから」
「期待しないで、待ってるよ。今日んとこは、何の用なんだい」
「えぇ、ここんとこ急に暑くなったんで、ちょいとばっかり冷(つべ)たい物が喰いたく為りやして。乾物屋に素麺を買いに行ったんですよ。そしたらですね、乾物屋の番頭が『素麺は季節物(もん)なんで、こんな時期にゃ有る訳無ぇよ』ってぬかすんですよ。麺類にも季節物なんて有るんですか」
「そりゃ、有るに決まってるだろ。秋から冬に掛けては、饂飩(うどん)や温かい蕎麦だ。初夏から秋の彼岸に掛けては、これが冷たいざる蕎麦や冷麦、そして素麺といった塩梅に為るわなぁ」
「そいじゃ何ですかい? 冷麦と素麺はどっちも同じ時期に売ってるんですかい?」
「そりゃそうだよ。どっちも夏場の喰い物だ」
「そりゃ変ですねぇ。乾物屋の番頭に言わせると、素麺は季節物で、盛夏に為らないと置いて無ぇって言ってましたけど」
「それはな、乾物屋てぇ小売りの商いだからなんだ。その点製麺屋は冷麦と素麺を同時に作るから、どちらも同じ夏物と考えるんだよ」
「へぇ、これで合点が行きやした」
「そりゃ良かった」
「ところで、大家さん。冷麦と素麺は同じ季節物とすると、何が違うんです?」
「簡単だ。麺の太さが違うんだ」
「えっ! それだけですか?」
「そうだよ。何か文句が有るのかい」
「大家さんにそう言われちゃ、何も言えませんけど……」
「いいかい、これは御上が決めた事なんだ。乾麺で太さ1.3mm以下が素麺。1.7mm以上が饂飩。その間が冷麦と決められているんだ」
「そんなに細かいんですか!?」
「それは乾麵での話だ。茹(う)でるとその差が大きく為るからね。因みに、太さが4.5mm以上に為ると“きしめん”ってぇ名に変わるけどな」
「ああ、名古屋の方が好むやつですね」
「そうそう。八っつぁんよく知ってるじゃないか」
「そんなことより、大家さん。あっしは、いつに為ったら素麺を買えるんです? いつに為ったら、乾物屋の店先(みせっつぁき)に素麺が並ぶんです?」
「そうよなぁ、昔っから気温が25度を超えると乾麺の蕎麦が売れ始める。28度を超えるとそれが冷麦に為る。32度を超える日なんざぁ、素麺しか売れやし無ぇ、って言うけどな」
「そうですかい。んじゃ、梅雨か明けねぇってぇと素麺にゃあり付けないんでやすね」
「そうそう、もうちっと待つことだな」
「へい、そうしやす。あ、そうだ、大家さん。乾物屋の番頭が『季節物は無いけど色物なら有るよ』なんて言ってましたけど、麺の色物って何なんすか?」
「あぁ、それは、素麺の束に2・3本混ざってる赤や緑に色付けされた素麺のことだ。今から出てるってことは、奴(やっこ)さん去年色物を仕入れ過ぎたみてぇだな」
「じゃ、その色物とやらは買ってはいけない代物で」
「そうだね。喰って毒にはならんが、奴さんの手間を減らしてやるだけだ、やめとくに越したことは無いな」
「へい、そうしやす。でも、素麺食べたいなぁ」
「もう、勝手にせいや! こちとら忙しいんだ。もう帰った帰った」
「解かりやした。また寄らしてもらいます」
 
 
 
 
≪お後が宜しいようで≫
*諸説有ります
 
【監修協力】
落語立川流真打 立川小談志

❏ライタープロフィール
山田将治(天狼院ライターズ倶楽部湘南編集部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年生まれ 東京生まれ東京育ち
天狼院落語部見習い 『天狼院・書店落語』席亭を拝命した
家業が麺類製造工場だった為、麺及び小麦に関する知識が豊富で蘊蓄が面倒。
また、東京下町生まれの為、無類の落語好き。普段から、江戸弁で捲し立て喧しいところが最大の欠点。

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2022-06-15 | Posted in こな落語

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