第10章 すべてに「はい」というのは騙されているのか〜自分の当たり前の基準を変えない限りうまくいかない《ママ起業のリアル》
記事:ギール 里映(READING LIFE編集部公認ライター)
「伊豆で合宿をやりますが、参加しますか」
起業塾に入って6ヶ月が経った頃、起業合宿なるものをやるので参加しませんかというオファーがありました。単なるオファーなので、もちろん答えには選択肢があります。参加するという選択も参加しないという選択も本来ならあるはずですが、そこにはなぜか、断ってはいけないと思わせる雰囲気がありました。
当然参加するでしょ?
参加しないとかありえないよね?
それで仕事やる気あるの?
やる気ないなら辞めれば?
そんな風な無言のメッセージをひしひしと感じるので、多くのメンバーが合宿に参加したのでした。
伊豆の温泉旅館に2泊し、自分のコンテンツの企画書を書き上げてプレゼンをするという合宿でした。私は企業研修があるような大企業に勤めたこともなければ、また他の起業塾に行ったこともなかったので、果たしてこの起業合宿なるものが、どういった種類のものなのか、判断しあぐねていました。
仲間の反応もさまざまです。
楽しみです! と素直に喜んでいる人、どうせまたお金を取るんでしょと懐疑的な人、うるさいからとにかく参加だけはしておくかという消極的な人、ぜったい参加するものか、そんなの無理に決まってるという否定的な人、怖いから参加しようという弱々しい人……
私はどちらかというと、まあとにかく参加しておくか、という消極的な人でした。起業塾に入って半年で、まだなんの成果も出していない私は、とても形見がせまく、自分の立ち位置を掴めない状態でした。周りをみまわせば先輩ばかり、ものすごく活躍していて、コンテンツもしっかりと立ち上がっていて、たくさんのファンがすでにいるような人たちばかりです。そんな人たちと一緒に合宿、しかも2泊も一緒だなんて、考えただけで憂鬱でした。
なるべく目立たないようにして、この2泊をやりすごそう、私はそう決めて、どこまでも消極的な気持ちで参加することに決めたのでした。
この起業塾ではいろんな教えや格言がありました。その中の一つに「全てに’はい’か’イエス’で答えること」というのがあります。つまり師匠から提案されたことについては全てイエスで答えることが当たり前で、それが成果を出すことに繋がるあり方だと教えられました。
最初この言葉を聞いたときは、ものすごく面食らいました。そんな時代錯誤で封建的な態度がまかりとおっているのかと驚きましたし、同時に反発心をも抱きました。強制なんかされたくないという反抗心がありました。私は子どもの頃から、何かにつけて反抗する子どもでしたから、その気質はいまにもずっと受け継がれています。
反抗心はあるけれど、それを面と向かって表現することは苦手でした。そのため長いものに巻かれるという選択肢を選んで、常に向き合うことを避けてきた人生、起業塾に入ったからといって、その習慣がやすやすと変えられるわけではありません。私は「行きません」と答えることにより、ますます私の立場がなくなるだろうことを危惧して、しぶしぶ合宿に参加することにしたのでした。
しぶる理由は簡単です。
当時の私には、5歳の息子と夫がいます。起業合宿だからといって、妻一人が家族を残して外泊するなどということは、このときはまったく考えられませんでした。社会の常識的にも、子どもを残して妻だけがどこかにいくということが、まだまだ「無理だよね」と考える人たちが多い雰囲気で、私も例に倣って家族に対して後ろめたさを感じていて、気まずさがなかったといえば嘘になります。
5歳の息子は幼稚園に通っており、毎日お弁当が必要でした。夫は料理などまったくできない人なので、ましてやお弁当など作れるはずもない。普通のサラリーマンで仕事優先の暮らしなので、留守の間に子どものお世話のお願いすらできない雰囲気です。後から思えば自分が勝手にそう思い込んでいたのかもしれない、ということもありますが、とにかく一人で起業のための合宿に参加するということが後ろめたくて、どうやって夫を説得していかせてもらったのか、もはや全く覚えてないぐらいです。
おそらく多くを語らず、「合宿があって、全員参加らしいから」ぐらいのことだけを言った気がします。そこを伝えたらそれ以上は詮索しない人だったので、その説明だけで充分でした。
結局は何一つ文句も言わず、2泊の間子どものお世話を引き受けてくれて、ひとまずは安心して合宿に参加する体制ができたわけです。もちろん出かける前には、まる2日分の食事の支度を終わらせてきていましたけれども。
総勢60名。学生時代の修学旅行を思い出す規模で、とにかく逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。60名全員が知り合いなわけではなく、ほとんどの人は初対面。しかしSNSを通して顔や活動はなんとなく知っているというメンバーで、それだけでも気後れです。合宿の目的は、自分の今後3年間の目標を宣言し、どのような想いで起業したのか、その想いがどう自分のコンテンツにつながっているのかを文章化し、合宿の最終日には全員の前でプレゼンし、優秀なプレゼンには賞が与えられるというものでした。
3年後の目標など考えたことも、書いたこともありません。何をどう書けばいいのかさっぱりわからず、初日は途方にくれました。幸い6名ほどのチームに分かれて作業するようグループ分けが施されていましたので、わからないことはチームのメンバーに相談すればいいという環境でした。
とにかくできる気がしない。優秀なプレゼンには賞が出ると聞いてもまったくテンションがあがりません。そんな賞が欲しいとはこれっぽっちも思わず、むしろ逃げたい気持ちでいっぱいでした。とにかく迷惑にならない範囲でついてはいくけれど、決して目立ちたくない。そこそこのプレゼンを作って、そこそこの発表をして、なんとか時間が過ぎればいいと、本気で思っていたのです。そんな気持ちですから、3年後の目標など考えられるはずもなく、プレゼン資料の作成は一文字も進みませんでした。今振り返ると相当ダメなあり方だとわかりますが、そんなことは当時知る由もありません。
合宿の目的は、プレゼンを作ることだけではありませんでした。
もう一つの大きなテーマは「自分の当たり前を変える」こと。むしろこちらのほうが大きな目的で、そのためにこの合宿全体が企画されていました。
合宿でのチーム分けやタイムスケジュール、部屋割り、食事の時間や並び順、その全てが巧みに仕組まれており、参加者の姿勢を読み取るために存在していたのです。
例えば食事の時間では、どう周りに配慮ができるかや、近くに座った先輩とどのように仲良くなり、自分の欲しい情報を引き出すことができるのか、そのあり方を見られていました。ただ参加してご飯を食べているだけでは成功する起業家とはいえない。どんな場でも最大限に有効活用して振る舞うこと、愛される起業家になるためにはどういう考え方、振る舞い方、やり方、在り方が必要なのかを、実体験させてくれる場でした。これも今だからこそ、そうだと分かりますが、当時はそこまで見抜く余裕はなく、あまりのわけのわからなさに早く帰りたくて仕方がありませんでした。
そんな逃げ腰で取り組んだ合宿でしたが、大どんでん返しが起こりました。
全体プレゼンの前にチームでプレゼンして、チーム代表を決めるのが2日目の課題です。6人がプレゼンして、全員が選んだ1人が最終選考に行きます。そんなチーム内プレゼンで、なんと私がトップ2人のうちの1人に選ばれてしまったのです。
私か、もう一人の女性のどちらかが最終選考に行きます。もう、譲る気満々でした。「私はいいから、○○さんがんばってください」と、いい人を装い引き下がる気でいっぱいでした。
しかしその瞬間、私の師匠が現れたのです。
もし師匠が、私が逃げ腰なのを目の当たりにしたら、がっかりされるどころか、もう今後相手にしてもらえないだろう。
そんな気配を即座に感じ、口をついて出た言葉は
「私が最終に出ます。私のほうが適していると思います」という宣言でした。
元来負けず嫌いの性格も手伝って、絶対に引き下がらないという姿勢を崩さないことに決めました。相手も頑固に、一歩も引き下がろうとしません。火花を散らすような対決をするハメになりました。
チームはたった1人の候補を決めるために、夜遅くまで話し合い、意見を分かち合いました。対戦相手の主張は、「自分のほうがギールよりも稼いでいるから自分がふさわしい」というものでした。それは明らかにそうなのですが、その一言が彼女に墓穴を掘らせました。チームは売り上げという成果の大小にかかわらず、私の思いに共感して、私を最終プレゼンターに選んでくれたのでした。
こうなったらもう、がんばるしかありません。
夜遅くまで自分のことをさておき真剣にディスカッションしてくれた仲間の気持ちを考えると、最終で私が全力を出さないことは明確な裏切り行為です。また前夜も深夜3時、4時、5時になるまで、プレゼンの練習に全員が手伝ってくれました。ちなみにチームメンバーは全員、合宿だけでなく自分の仕事もあります。そこもおろそかにすることなく、それでもチームのために自分の時間と労力を惜しみなくつかってくれることに私の心も共鳴し、絶対にプレゼンに勝つ、という意欲を湧き上がらせてくれました。当初の気持ちとは180度違う、新たな自分がここで生まれました。
最終プレゼンに残ったのは10名ぐらいだったでしょうか。どなたも私より先輩ばかりです。夜ほとんど寝ていなかったので疲れもピークに達し、人のプレゼンを聞くことすら大変状態でした。
私の順番は前のほうでした。
前半の終わりぐらいで、体力もそこがほぼ限界でした。
自分より前の発表を聞きながら、みんなすごいなあ、かっこいいなあ、素敵だなあと思うことしきり。その中で自分がどのように評価されるのかは分かりません。とにかく準備したものを全力でやることしか、私にはできません。
おそらく、15分ぐらいのプレゼンだったかと思います。パワポで作った資料を見せながら、私はなぜ自分がこのビジネスをしているのか、そして3年後はどんな未来に行きたいのかを皆の前で話しました。
食の力を伝えたい。食をほんの少し変えるだけで、人生が変わる。そのことをたくさんの方に知ってもらいたい。なぜなら、それが一人息子が将来暮らす社会、世界を必ずよくすることだから。
私は将来息子が、がんばってやり抜く心と体をもち、その心と体を使って人の役にたつと決めて行動する子に育ってほしいと思っています。そして人は一人では生きていけない。将来息子の伴侶となる方や友達、同僚、そして関わる多くの人たちそれぞれが、食の力を使いこなし、息子を助け、お互いを応援しあい、自らの夢を叶える生き方ができる社会を作りたい。
そんなようなことを、話したと思います。15分ほどのプレゼン、ただやり切って安堵し、あとのことはあまりよく覚えていません。
いよいよ最後、賞を発表する時間となりました。そこで私は驚愕の体験をすることとなります。
4つほど設定されていた賞のうち、私は3つの賞を受賞することとなったのです。優秀プレゼン賞とプロデューサー賞、そしてメンター特別賞のような賞の3つです。まさかの出来事はすぐには信じられず、茫然と立ち尽くすことしかできませんでした。
最初は逃げることばかり考えていた私が、最後には賞をいただけるほどのプレゼンができた。この出来事は私のそれからの起業人生を大きく変えるきっかけとなりました。私は自分の当たり前の基準を、たった2日でがらりと変えることに成功したのです。
どんな環境にあろうとも、逃げ腰でいたり、消極的に参加をしていたら得るものは何もありません。また同じ環境でも、それを自分ごとと捉え全力参加の姿勢で望めば、得られるものは無限大です。
よく、文句をいう人がいます。
自分が成果がでないのはコンサルの人と合わないからだとか、誰も自分のことを認めてくれないからだとか。つまり何事も人のせいにして、自分は悪くないと周りを悪者にしようとする人がいます。
またお金ばかり騙し取られているんじゃないかと疑う気持ちが強く、全力参加、自分ごととして参加できないという人もいます。こと起業に関しては、そもそも「売れたい」「稼ぎたい」と思う人たちが集まっているところなので、何事もお金基準で考えてしまう思考に陥る人も多いのでしょう。どちらのケースだったとしても、そのあり方では当然成果など出るはずもない。なぜならそういう気持ちで関わる人を、誰が応援したいと思うでしょうか。
まずは自分の身の回りの人が、自分のことを応援してくれるような存在であろう。そういう人は、神様からも応援されます。だからうまくいくし、成果にも繋がる。人にも神様にも愛されなかったら、対人で行うビジネスについてはうまくいくはずがありません。
しかし私たちはときおり、ノウハウされあればうまくいくに違いないとノウハウばかりを追いかけ、自分のあり方に関してはまったく気にも留めないことがあります。ノウハウも確かに大事なことではありますが、それだけを追いかけていては、起業して成功することはあり得ません。
人に愛されること、そして応援されること。それが起業で最も大事なことです。
そしてそれは、全てに’はい’か’イエス’で答えることから始まっていくのです。
《第11章に続く》
頑張るママのお助けレシピ
みんなが幸せ焦がし醤油とうもろこしご飯
材料 3カップ
玄米 3カップ
とうもろこし 1本
塩 少々
醤油 大さじ1
水 玄米の量x1.2倍量<作り方>
1 玄米はよく洗い、分量の水を圧力鍋に入れ、約40分浸水させる。
2 とうもろこしの芯と実を分けて、どちらも1に入れる。
3 塩、醤油を加え炊飯。中弱火で加熱し、水分がぼこぼこ言い始めたら一呼吸おいて、圧力鍋の蓋をかちりと閉める。そして火を強める。
4 圧力鍋がシューっと言い始めたら、弱火にして30分炊飯する。
5 30分たったら火を止めて火から下ろす。鍋を新聞紙などで包んで保温し、ピンが下がるまでまつ。
6 ピンが下がったら蓋をあけ、とうもろこしの芯をまず取り出す。そして残りのご飯をしゃもじで、十字を切るようにして混ぜ合わせてできあがり。*とうもろこしは黄色くて甘味があり、やる気を引き出す食材です。
*こどもも大好きなので、料理当番が不在になる日もこれがあると安心です。
*とうもろこしの芯はいい出汁がでるので入れてあります。食べられないので、取り出してください。
❏ライタープロフィール
ギール 里映(READING LIFE 編集部公認ライター)
食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。
この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いてます。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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