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メディアグランプリ

つまらない物はいりません《週刊READING LIFE Vol.65 「あなたのために」》


記事:深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 
「これはあなたのために、わざわざ選んだ物です」
 
そんな言葉とともにプレゼントを受け取ったら、あなたはどう思いますか?
 
相手と自分の関係が、どのくらい親しいのかによって、とらえ方はもちろん違うでしょう。しかし、よほど親しい間柄でなければ、こんな風に言われると、ちょっと恐縮してしまうような、そして何だかおしつけがましいような、そんな印象を受けてしまうでしょう。
 
けれども、所変われば人の受け取り方も変わります。
中国では「あなたのために、わざわざ選んだ」ことを強調する方がよいのです。
 
私は中国で仕事をしていた時、日本から持ち帰ったお土産を職場の中国人上司に渡す際、いつもと同じ調子で「つまらないものですけれど」と言って差し出したことがあります。
すると彼は、「つまらない物はいらないです。いい物をください」と笑いながら受け取りました。もちろん冗談です。
彼は日本への留学経験も有り、日本や日本人のことをよく知っているので、日本人が謙遜してこういうセリフを言うのをよく理解しています。そのうえで、中国ではそんな謙遜をしない方が喜ばれるということを教えてくれました。
 
中国では「メンツ」を重んじます。日本でも相手の「顔を立てる」という考え方が有りますが、中国人は日本人以上に「メンツ」にこだわります。
 
私は中国に6年半居ましたが、未だにこの「メンツ」というものの全貌を理解できていません。しかし、少なくともこれだけは理解できています。それは、「メンツを立てるとは、相手を重視すること」なのです。
 
プレゼントをする時、「その人のためにわざわざ選んだ」ということは、それだけその人を「重視」していることになるのです。相手の気持ちに負担をかけないように「ついでがあったので、買ってきました」等と言って渡したら、きっと相手は気分を害してしまいます。「え? 私はついでの人なの?」と。
 
その人を重視していることを、周りの人にも分かるような形で示すと、相手のメンツが立ち、さらに喜ばれます。
 
例えば、バレンタインデー。
中国では男性から女性にプレゼントを贈る習慣があります。その日、街中では両手いっぱいのバラの花束を抱えて歩く女性を見かけますし、職場に花束が届けられているのを見たこともあります。
 
そんなの二人で会った時に渡せばいいじゃないかと思いますが、それじゃ効果が半減なのです。やはり他の人達にもわかりやすい形で渡してこそ、彼女の「メンツ」が立つのです。まぁ確かに、もし自分がその立場だったら、そんな事されたらこっぱずかしいけれども、本当に好きな相手からだったら、ちょっぴり嬉しい気持ちがするかもしれません。
 
一方、日本のバレンタインデーと言えば、「本命チョコ」と「義理チョコ」というのがありますよね。バレンタインデーなのに、チョコを貰えない男性が寂しい思いをしないようにっていう「義理チョコ」は、言わば男性陣皆の「メンツ」を立てているとも言えます。けれども、明らかに「義理チョコ」と分かってて受け取る男性陣の気持ちは、どんなものなのでしょうか?
「お気遣いありがとう」、そんな感じでしょうか?
「気遣いは嬉しいけど、ついでか……」って感じでしょうか?
 
では、中国人に贈り物をする時、「わざわざ選んだもの」と言うからには、たいそうな物を選ばなければいけないのではないかと思ってしまいますが、そうとは限りません。それを選んだ理由が大事です。そして、それをはっきり相手に伝えればよいのです。
 
私も中国人から色々なプレゼントをもらいました。
 
「これは私の故郷の特産品なんです。とても美味しいんですよ」
「これはお箸ですが、私たちの名前が彫られているんです。友情の証として、私たちのことを思い出してほしいと思って」
「中国では、仕事柄あまりオシャレができなかったから、この香水と口紅を使って、日本に帰ったら心ゆくまでオシャレしてね」
「このカレンダーには、毎日中国の故事成語が書かれているんです。中国語の勉強に役立てて」
 
そんな風に彼らはプレゼントを選んだ理由を説明してくれました。
そのどれもが、「私のために」選ばれた物なのです。実際受け取る立場に立ってみると、「押しつけがましい」ような印象を受けることはありません。むしろ、私のことを思って一生懸命に選んでくれたのだと思うと、素直に嬉しいものです。
 
もちろん中国でも、「心ばかりのものです」と謙遜するフレーズもあります。例えば、訪問のお土産にちょっとしたお菓子を渡す時等に使います。でも、やはり相手のために、わざわざ時間と労力をかけて選んだ物を渡す時には、「あなたのために、こういう理由でわざわざ選んだ」ということを伝えるのがベストです。その贈り物が相手の手に渡った後は「相手の物」になるのですから、「つまらない物」等と言わない方がいいのです。
 
もしあなたが中国人に日本のお土産を渡すことがあれば、ぜひ遠慮せずに「あなたのために」と言ってみましょう。良く知っている間柄であれば、その人に合った理由をつけて渡してもいいですし、初対面の人でもこんな風に渡すと喜ばれます。
「これは今日本で人気があります」
「あの有名な◯◯も使っているそうです」
 
あるいは、「どうしてもこれを渡したいと思って、何軒かお店を探し回って、やっと手に入れました」等と、入手しにくかったことや労力をかけたことを強調してもいいのです。
 
相手が日本人だと、そんな事言ったら相手が恐縮して引かれてしまう可能性大ですが、中国人はきっと感激してくれます。
 
こんな風に、国によって受け取り方は違いますが、私自身は、贈り物をする時には日本人も遠慮したり、謙遜したりせずに、もっと自分の気持ちを相手に直接伝えてもいいのではないかと思います。何を贈ろうか考える時、そして物を選ぶ時、相手の好みを考えたり、受け取った時の相手の笑顔を想像したりしていることでしょう。その時間も相手への贈り物の一部なのですから。
 
そういう気持ちは言わなければ相手には伝わりません。まずはあなたにとって大切な人にプレゼントを渡す時、「あなたのためにわざわざこれを選びました」と言ってみてはいかがでしょうか?

 
 
 
 

◽︎深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
愛知県出身。
6年前から中国で工場建設の仕事に携わる。中国での仕事を終えたあと、自分は何をしたいのか? そんな自分探しの中、2019年8月開講のライティング・ゼミ日曜コースに参加。
もともと発信することは好きではなかったが、ライティング・ゼミ受講をきっかけに、記事を書いて発信することにハマる。今までは自分の書きたいことを書いてきたが、今後は、テーマに沿って自分の切り口で書くことで、ライターズ・アイを養いたいと考えている。

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