時代を越えた、変わらない世界に導いてくれる品《週刊READING LIFE Vol.66 買ってよかった! 2020年おすすめツール》
記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
営業マンにとって、勝負着はスーツである。
小さい頃、朝早くから父親がスーツ姿で、出かけているのを、子供心に見ていた記憶が、
蘇ってきた。
いつも同じ時間に、父親はスーツを着て、リュックを背負って家を出ていく。
「今日も遅くなるかもしれない、ご飯はいるからよろしくね、行ってきます」
この言葉を父親は家を出る時、見送っている母親にドアを開けながら、仕事に行く日には、必ず伝える。
何度も見ていたからなのだろう、今も鮮明にその記憶が身体に残っている。
令和の時代に入り、このような光景をみることが少なくなったのではないだろうか……。
昭和から平成に入り、平成から令和に時代が変わり、働き方も生活の仕方も大きく変わってきた。
もしかしたら、逆に今の時代は父親が母親を見送っている姿がみられる家庭もあるのではないだろうか。
僕はどちらが良いなどと、言うつもりは一切ない。
ただ、メールやLINEでコミュニティケーションを取るようになった事で、このような光景が無くなっているとしたら、寂しさが身体の奥深くから滲み出てくる。
「本当に大切にしなければ行けないモノが失われているのでは?」と。
僕は、社会人になり、家庭を持ってから、家を出る時、必ず、妻と息子一人ずつに「行ってきます」と言ってから、家をできるようにしている。
その時、妻や息子の「いってらっしゃい」の返答で、柔道の試合前のように、気合が入るのを感じるから。
時々、その返答が無い時は、身体がフワフワした感覚で家をでる事になってしまう。
そんな変わらない日々を送っていたある日、妻が僕の普段から使っている鞄を手に持っていた。
「この鞄、重すぎるよ、間違いなく姿勢悪くなるし、変えたら!?」と妻が言うのである。
「良いの?」と僕が聞き返すと、妻は笑顔で頷いてくれた。
後日、妻と息子と一緒に、「新たな鞄」を求めて、百貨店に買い物に出かけた。
どの鞄が良いのか、いつも悩んでしまう。
あれも良いな、これも良いな、こっちは量が入りそうだな、と多くの種類や形があると悩みに悩んでしまう。
ただ、唯一、選定の基準がある、営業マンの勝負服であるスーツに合うこと。
営業マンにとって、見た目、第一印象はとても大切である。
昔から、清潔感を保つ為に、髪や爪を綺麗に切っておく、スーツは自分の身の丈に合ったモノを着る、靴はつねに磨いて置くこと。
それに加えて、相手にも見られる鞄も、とても大切なアイテムの1つである。
営業マンによっては、お客さんに合いに行く時と会社に行く時で、鞄を変えている人までいるくらいである。
そのような考えが頭を巡っている中で、今回選んだ鞄はビジネスで使える「リュック型」にした。
もちろん、背負って使うだけでなく、手にも持てるタイプ。
なぜ、リュック型を選んだのか……。
おそらく、昭和から平成に掛けて、営業マンとして活躍した先輩方は、置いたら独立できる形の鞄を選んでいるのではないだろうか。
だから、「かばんはハンカチの上に置きなさい トップ営業がやっている小さなルール」(川田 修著 ダイヤモンド社)の本がヒットしたのだと思う。
僕も社会人になってから、ずっとそうであろうと思っていた。
そう信じて、高校球児が片肩に掛けて使っている鞄のように、しっかり独立できて、物が多く入り、ビジネスでも使えるタイプの鞄を買ってずっと使ってきた。
それが、ずっと当たり前だと思っていた……。
変化は突然、訪れる。
今や高校球児を甲子園でみると、多くの強豪校は以前使っていた肩に掛けるタイプの鞄ではなく、リュック型になっている。
これは何かあるのではないか。
両手が自由に使える、片方の肩に負担がかからないなど、身体への負担を意識してリュック型に変わって行っているようである。
長い歴史を持つ、高校球野球において、間違いなく変化が起きている。
スポーツの世界での変化は少し遅れた頃に、ビジネスの世界にもじゅんわりと浸透してくる。
満員の電車内を見てみると、どうだろうか。
今までだったら、肩に掛けたタイプの鞄が主流だったのが、今になって若いビジネスマンを中心にリュック型に変わってきている。
まさに、時代は進化しながらも繰り返す。
スーツを着て仕事をしていなかった時代は、リュックを使っていた人が多かったのではないだろうか……。
時代が流れ、サラリーマンが増え、服装はスーツになり、肩や手に持つタイプの鞄が主流だった時代から、新たな令和時代の幕開けと共に、スーツにリュックという格好をするサラリーマンが増えてきた。
僕も今回はビジネスで使えるリュック型の鞄にすることに決めた。
正直、かなり悩んでしまった。
肩掛けの鞄からリュック型に変えたら、周りからどのように見られるだろう。
流行に流されている奴と白い目で見られるのではないだろうかと……。
そんな事を悩んでいる間にも、時代は間違いなく、変わりはじめている。
もしかしたら、サラリーマンや営業マンがスーツを着ていた事が、昔のように語られる時代が近い将来くるかもしれない。
多くの事を考えながら、選んだリュック。
約半年以上、スーツにリュックで仕事をしているが、今まで買った鞄の中で、間違いなく一番良い鞄である。
何がそこまで、自分を満足させているのか。
移動の際に長時間使っていても、肩が痛くならない、何より、両手が空いているので、転んだ時に、しっかりと受け身が取れる、本も立ちながら両手で読める。
これが一番のメリットである。
今までのように、肩が凝ることも減ったし、雨が降った日に、床が濡れていて、転びそうになった時でも、バランスが取ることができるようになった。
これはかなり大切である。
満員電車の時など、乗る時はリュックを前に回して、肩に掛ける事で周りに迷惑を掛けることもなく、身体のバランスが保てるようになった。
スポーツの世界で取り組んでいる事は必ずと言っていいほど、ビジネスの世界に入ってくる。
特に、サラリーマンで営業職であれば、日々の1日1日が大切になってくる、長く働ける身体つくりは絶対に欠かす事ができないライフワークだ。
スーツにリュック姿になってから、少し経ったある日。
トイレで手を洗って、トイレから出ようと、鏡を見て歩き出した瞬間に、フラッシュバックが起きた。
自分の姿のはずが、父親の姿が一瞬、脳内でみえたのである。
もしかしたら、気のせいかもしれないが……。
最近、親戚や家族から「あなたは本当に亡くなったお父さんにそっくりね」と言われる事が増えたから、脳内で何か変な事が起きただけなのかもしれない。
そう考えながら、ゆっくり歩いていると、気がついてしまった。
父親がいつものように仕事に向かう朝、母親に「行ってきます」と言っていた時の姿が蘇ってきた。
スーツにリュック姿だった父親を。
時代は繰り返される、父親の時よりも、スーツにしてもリュックにしても、より性能は上がっているに違いないが、格好は変わっていない。
時代を越えて、性能は良くなっても、本質は変わらない。
そんな魅力が「リュック」にはある。
父親がスーツにリュックだった理由、それは、父親曰く、「スーツ姿でリュックを背負ってくる営業マンをお客さんも見たことがないだろう!? だから、敢えて、インパクトを残す為に、その姿になったんだ」
それが、昭和から平成を生きた営業マンとして、勝負し続けた父親の選んだ営業スタイルだった。
どうだろうか、もし、新たな鞄を買う事に悩んでいる人がいたら、是非、リュックを買う事をオススメしたい。
リュックがあなたを、時代を越えた、変わらない世界に導いてくれるかもしれない。
◽︎中野ヤスイチ((READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
島根県生まれ、東京都在住、会社員、妻と子供の3人暮らし、東京薬科大学卒業、奈良先端科学技術大学院大学卒業、バイオサイエンス修士。父親の転勤の影響もあり、島根県、千葉県、兵庫県、埼玉県、奈良県、佐賀県、大分県、東京都と全国を転々としている。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コアクティブ・コーチングを実践しながら、ライティングを勉強中。ライティングを始めたきっかけは、天狼院書店の「フルスロットル仕事術」を受講した事
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。