メディアグランプリ

万年筆がくれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:糸(25年・年末集中コース)

 

今年に入って、万年筆を買った。

ぶらりと入った文具屋で、万年筆のボディが黄色くてポップな感じの万年筆。

英国王室御用達のブランドにも関わらず、2000円少しのものだ。

日本製の書き心地抜群というノートをお供に。

 

書きたいことはなかったが、万年筆を使ってみたかった。

とりあえず、一緒に買った手帳に、日記のようなことを書き始めた。

新しい手帳に新しい万年筆、それだけで心が躍る。

書く内容も愚痴や、不平不満ではなく、前向きなことを書きたくなる。

なんとなく、クリエイティブでお洒落なことをしているように思えて、毎日日記を書くのが楽しくなった。

 

万年筆のペン先がカリカリと紙に触れる。

一文字一文字を完結させる書き方だ。

インクが乾く時間をとりつつ書き進める。

その間の取り方が、また楽しい。

比較的水色に近いインクを選んだせいか、水彩画を書いているような気分もしてくるが、鉛筆やボールペンよりもしっかりと色がつく。

 

日々パソコンや携帯があれば、鉛筆やボールペンを持つこともない。

マルチタスクをこなすため、会議の議事録、誰かと話した記録、出ては消えるアイデアをすぐにサーチできるようにパソコンのノートに書き溜める。

 

…非効率、低生産性の万年筆に惹かれた。

 

使い始めは、まずインクをセット。

インクは、カートリッジタイプ、ペン先をボトルのインクにつけて使うもの、直接、インキ瓶から補填するコンバーター式もある。

 

カートリッジを万年筆本体へ差し込むのに意外と力がいる。

「これあってる?」

と思った瞬間に、プスっとインクが入った感触がある。

インクが出るようになるまでには、少々時間がかかる。

私は短気なので、濡れたティッシュをペン先にあてて、

「(インクよ)出てこーい」と念じる。しばらくすると、じわっとインクが出てくる。

これが正しい作法なのかはわからない。

今度きちんと文具店の方にお伺いしてみたい。

 

万年筆は、インクのバリエーションが多い。

各社、インクのカラーバリエーションに名前があって、万年筆の沼にハマりそうになる。月夜、深海、紺碧、山葡萄、朝顔、紅葉、紫式部などとくる。

全部試してみたい…。

しかし、インクを変えるたびに、洗浄してのメンテが必要になる。

その手間をしても、様々な色で文字を書く、その妙。

白いノートにどんな文章でも物語ができそうな気分になる。

 

いつしか最適な万年筆を探すようになっていた。

ただ単に高いものは買いたくない。

というか、機能性を重視するので、最も私の求める機能を持っていれば、なるべく安いものがいい。

万年筆本体の装飾には拘らない。

やはりペン先の紙との接触感覚。これは試してみないとわからない。

細字が好き。

持っていて気持ちが上がること。ボディの色や、素材感。

インクが漏れないことは大前提。

2000円の王室御用達モデルはある意味最適解かもしれない。

 

使い始めて、6ヶ月ほどたった時、愛用の万年筆が消えた。

あのサイズ、あの感触、あの書き心地、そしてあのインクの色。

あれが良かった。

 

相当探したのに出てこない。

おかげで私の失われた創造性が少しずつ取り戻せてきたというのに。

愚痴の吐口ではない、前向き日記の相棒がいなくなった。

 

悲しさに暮れながらも、好きになってしまった相手のルーツを探るかのように、改めて万年筆とは何かを調べてみた。

日本筆記具工芸会という団体に「万年筆の歴史」が掲載されていた。

 

な、なんと、紀元前2400前頃エジブトで、藁の先端を削った藁ペンが万年筆のルーツだ。

西暦85年のローマでは、真鍮や銀製のスタイラスペン(尖筆ペン)が喧嘩の道具として使われたため、一般人の使用を禁止したとか。

なんとなく想像できる…。

700年頃からは、羽ペンが18世紀まで使われることになる万年筆の一種として紹介されている。かのシェークスピアが使ったのも羽ペンだ。

羽ペンにインクボトルで文をしたためる様子はいろんな映画でもみたことがある。

1750年頃には、羽ペンの先端がすぐに摩耗するので、耐久性のある金属製のペン先が開発されたそうだ。今の万年筆の原型だと思われる。

日本に初めて銅ペンが渡来したのは1871年。

1912年には、夏目漱石・北原白秋・幸田露伴・河合玉堂らが万年筆について語るエッセイと図解が載った「万年筆の印象と図解カタログ」なるものが発行されたと記載がある。

 

オーマイゴット、軽々しく、万年筆を語った自分が悔やまれる。

同時に、私が魅了された万年筆は時代を超えて受け継がれてきた筆記の道具であることをしっかりと認識した。それだけ魅力的な道具なんだ。

 

万年筆生活を継続したい私は、次に、「日本から世界に誇れるものを送り出したい」という想いを持ち、友人2人で1916年に始まった日本の会社の万年筆を、熟考の上、購入した。

企業理念にも共感するし、透明なボディで、インクの色が見えるところがまた良い。

値段は同じく2000円ほどだ。

 

この万年筆を次の相棒として日記を書き続けた。

また、あの日が戻った。

 

書くことって楽しい。

 

もっと書いてみたい。

 

伝えてみたい。

 

学んでみたい、書く方法。

 

2025年の年末、ライティング講座を受講した。

 

万年筆という道具が、私に新しいページを開かせたのかもしれない。

 

≪終わり≫

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