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万博リベンジ、「天空のアトラス『イタリア館の至宝』」展の大トリは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事: 木藤奈音 (ライティング・ゼミ25年11月開講コース)

 

 入口を抜けると、アトラス神がそこにいました。

 肩で天球を支え、ひざまづく姿。光に照らされ、神々しく輝いています。

 体中の筋肉一つ一つがもり上がり、重そうです。背中から垂れ下がる布は、今にも風にはためきそうです。

 私たちギャラリーは、丸い台座を取り囲んで前から後ろから彫像を眺めまわしたり、撮影したり。中にはアトラス像を挟んで、集合写真をとる家族連れも見かけました。

 このお尻、かなり鍛えられているなあ…

 触ったら、体温ありそう…

 大理石でできていることはわかっているのですが、今にも動き出しそうに見えました。

 

 大阪市立美術館「天空のアトラス『イタリア館の至宝』」展に行ってきました。

 イタリア館は大阪万博の中でも一、二を争う人気パビリオンでした。冒頭のアトラス像こと『ファルネーゼのアトラス』は、イタリア館内で常設されていた目玉中の目玉でした。

 私は9月に2回万博に行きました。イタリア館に入りたかったのですが、果てが見えない行列におののき、並ぶ気も起きませんでした。それだけに、万博終了後に大阪市立美術館でイタリア館の展示を行うとのニュースが嬉しく、有給をとってチケッティングに参戦しました。

 発売時間になるとWebサイトがダウンし、万博公式サイトをほうふつとさせました。無事平日午後の予約を勝ち取り、落選だらけだった万博のリベンジを果たしました。

 そして予約当日、暗闇に白く浮かび上がる、あのアトラス像にまみえることができたのです。

 何十分そこにいたのか、そろそろ動こうと思いました。そこで、気づいてしまいました。

 

 私、もうメインディッシュ食べ終わっちゃった…?

 

 そうなのです。今日は「天空のアトラス」と銘打った特別展。アトラス像が真打ちであり大トリでありはずです。コース料理の最初にメインが終わっちゃいました。今後どこで盛り上がればよいのでしょうか。ひどい表現ですが、こんな風に思ってしまいました。

 

ほか何があったっけ。あとは消化試合かあ。

 

 部屋を出ることに不安はありましたが、そろそろ次の予約時間です。混雑を避け、次の部屋に向かうことにします。

 次の部屋には宗教画が架けられています。ルネサンス期の明るい色調の絵画です。見ていると穏やかで優しい気持ちになりました。先ほどの家族連れは、この絵の前でも集合写真をとっておりほほえましいです。この風景も万博ぽいですね。この絵ー『正義の旗』も完成されて素晴らしいのですが、先ほどのアトラス像の荘厳さと比べると、迫力不足に感じてしまいました。

 次は伊東マンショ像と再現衣装。これも…。

「たったこんだけで、高いわ〜」

「ほんまや。こんなん、1000円くらいで十分やわ」

 急に後ろの2人組の会話が聞こえてきました。地元のおばちゃん同士できたのでしょう。万博の余韻冷めやらぬ時期に、勢いでチケットを買ってしまったのでしょう。物足りなさが伝わってきます。

 静かにしてよ、と思うと同時に、おばちゃんたちに共感するところもありました。

 メディアやSNSでイタリア館の内部を何度も見ることができました。狭くはないパビリオンの中に、『ファルネーゼのアトラス』を中心にあらゆる展示物が所狭しと並んでいました。彫刻、絵画、工業製品、天井には飛行機の模型まで。しかも、ひとつの空間に超一級品がひしめく様は、まさしく技術芸術の玉手箱。あれを現地で体感すると、部屋を広く使った展示は、さびしい印象でしょう。

 最後の展示は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』から2点。現物は小さいので、拡大パネルが手前の部屋に掲示されています。中身はダ・ヴィンチが構想した装置(「水を汲み上げ、ネジをきる装置」「巻き上げ機と油圧ポンプ」)のデッサンです。ということは…あることに気がついてしまいました。

 

 手稿ということは、生原稿だ。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの生原稿だ!

 

 原画には、印刷からは感じ取れない迫力があります。

 漫画家・荒木飛呂彦先生の原画展では、斬新な色使いや構図に漫画というよりモダンアートを感じました。絵本作家・ヨシタケシンスケ先生の原画展では、繊細なタッチや緻密なストーリーボードに先生の人柄が透けて見えました。原画を通じて、読者の立場からは想像しづらい「作者」を立体的に感じることができるのです。

 そして、ダ・ヴィンチの生原稿がそこにあります。

 遡ること数百年、歴史の天才が直接触った生原稿です。そこから、一体何を読み取ることができるのか。

 レプリカの大型パネルではなく、手稿を直接見なければ。

 私は歩みを早めて、展示室に入りました。

 

 部屋は人でいっぱいでした。奥のガラスケース目指して行列が折り返しています。ひとりずつ眺め、撮影する時間があるようです。2時間待ったフランス館でもロダンの彫刻をこんな風に見た記憶があります。

 まるで、初詣の行列みたいです。

 御神体にお参りするのは列の先頭だけ。

 列のスキマから、ちらりちらりと生原稿もとい手稿が見え隠れています。そこからさあっと光が伸びて、私に向かってくるような気がしました。

 20分くらいのろのろ歩き、私の番です。展示ケースの前に立ちました。

 すごい。

 描線に迷いがありません。下書きはあるかもしれませんが、ペンはときに力強く、ときに流れるように縦横無尽に紙面を走り回っています。素描の中の機構がゆっくり動く様子も頭の中で再現できます。どんな部品がどんな動きをするのかリアルに伝わってくるのです。スケッチも極めて正確です。

 当時、目の前には何があったのでしょうか。

 何もありません。

 これは彼のアイデアノートです。だから、ダ・ヴィンチの頭の中にだけ存在するものです。知識と想像で、これだけ完成された機構を描いたのです。

どうして、ここまで再現可能なスケッチにこだわったのでしょうか?

 本当は、頭の中のアイデアを片っぱしから実作したかったのではないでしょうか。この手稿は、現存するだけで千点を超えるようです。一生を費やしてもつくりきれる数ではありません。だから、メモにして現実世界に遺したのだと思いました。

 自分の考えを形にする。それって、創造主―つまり、神様になりたかったのではないでしょうか。

 ある意味、神を目指したダ・ヴィンチ。

 「万能の天才」という称号も、彼には物足りなかったのかも。

こういう人、結構いますね。周りから見ると、ものすごい成果を上げている人。でも本人はずっと満たされず、「もっと、もっと」を求める人。大体周りのことが視界に入っていない。教科書の中にいる偉人、としか思っていなかった芸術家を、急に人間臭く思えました。

 

「どうだい、これ絶対うごくはずだから。ほかに何千点もあるんだぜ」

 

 部屋の奥に、満面の笑みでそう語る誰かがいるかもしれません。

 きて、よかった。

 予想した以上、だった。

 

 さて、後から分かったのですが、今回の美術展に展示されている手稿2点は、万博会場での展示とは別物だとか。しかも日本初訪問とのこと。

 万博でもお目にかかれない貴重な一品を、ゆっくりと時間をかけて回ることができたのです。思いがけない発見もありました。どれも万博でやりたかったことです。この一日で、リベンジできました。

 会場の外でクリスマスマーケットが開かれ、たくさんの人でにぎわっていました。

 

 

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