向きを変えただけなのに、景色が変わる。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 村井 ゆきこ (ライティング・ゼミ25年11月開講コース)
「あれ? なんか部屋が広く見える!」
高1の長男はそう言うと、ソファにドカッと座り、本当は変わらない部屋をぐるっと見渡している。
形を整えたクッションにパンチして、また元に戻す。
「なぜか、家具の場所が変わるといつもの部屋が違って見えるよね」
私はただ、ソファとダイニングテーブルの位置を変えただけだ。
それでも、家族はいつも「広く見える!」と嬉しそうにしている。
思えば、私も同じだった。 学校から帰ると、配置が変わったソファに座って、外を眺める。そんなことが1年に4回ほどあった。
昨日とは、見える景色が少し違って見える。 そして、いつもそのタイミングで、あちこちのインテリアグッズも変わっていることが多かった。
「このクッションカバーを見ると、冬が来たって感じだね」
「うわー、これを飾る季節かー! 一年が早い!」
母はよく、一人でソファやテーブルを動かしながら、その季節ごとに一番くつろぎやすい場所をつくっていた。
仕事から帰ると決まった場所に座って、コーヒーを飲んでいた姿を思い出す。
40年たった今も、どうやら同じらしい。
実家は、
“インテリアで季節の移ろいを感じる”
そんなタイプの家だった。
庭にある木々がそう感じさせてくれるのかもしれないが、少し家具を動かしたり向きを変えるだけでも、同じ部屋なのにリフォームしたように感じられた。
だから、幼少期に住んでいた“今はもうない家”のことも鮮明に覚えている。
この時期、リビングから見える雪景色も、
カーテンが揺れて運んでくる心地よい風も、
長く使ったソファの生地の柄も。
そんな私は結婚後に、気づくと同じことをしている。
クリスマスツリーを片付けたあと、そのままにしておくのも落ち着かなくて、掃除機をかけたついでにソファの位置を動かした。
大きく変えるつもりはなかった。
片付けた分、なんとなく部屋が軽くなった気がして、その流れで、リビングの家具の向きを少し変えてみただけなのだ。
一人でズリズリと動かしながら、模様替えというほどのことでもないけれど、結果的に大袈裟ではなく、毎回リフォームしたくらいの感覚になっている。
「ついでに」 と言いながら、いろんな場所の掃除や断捨離が始まってしまう。
「今回、テーブルはこっちにしたんだね」
帰宅した夫は、部屋をぐるっと見渡して言う。
「やっぱり、家具を動かしたり向きを変えるだけで、雰囲気が変わるねぇ」
彼も同じ感覚だ。
「ちょっと、変えようと思ってね」
私はソファの位置をちょっとだけ変える。それだけのつもりだったのに、床が気になって、さっと拭く。 クッションを戻して、形を整える。
クッションは3つ。デザインも素材も、それぞれ違うものを組み合わせている。
ここ数年、冬の間はインドのインテリアショップで買ったフェルト生地のクッションが主役だ。
春になると、コットンのミモザのような鮮やかな黄色のクッションが主役。 冬はフェルト、春になると黄色のコットン。
もちろん、夏と秋にもそれぞれある。
クッションが変わると、部屋の季節も一緒に動く。
ちなみに、夫は突然掃除を始める人だ。 そんな夫だからこそ、家具の位置を少し動かして、家の中の空気が変わることに気づいてくれる。
もしかしたら、 家具を動かしているつもりでも本当は、知らず知らずのうちにマンネリ化していく毎日に、ささやかな抵抗を試みているだけなのかもしれない。
毎日、同じ場所から部屋を眺める。その景色があまりに「いつも通り」すぎると、なんだか自分の心まで止まっているような気がして、ちょっとつまらなくなるのだ。平和なのはいいことだけど、このまま退屈という名の埃に埋もれていくのは、なんだかシャクだ。
重いソファをズリズリと引きずって、普段は見えない場所に溜まっていた埃を拭き取る。
そのたびに、新鮮な気持ちになっていく。
そうやって強制的に景色を変えて、新しい場所に引っ越したような気分を楽しんでいるのかもしれない。
今の自分たちに、ちょうどいい空気の通り道を探しているだけなのかもしれない。
だから、季節が変わると、ついクッションカバーなどのインテリアや、家具の配置を変えたくなる。
変えると、つい掃除をしたくなる。
掃除をすると、つい他の場所も綺麗にしたくなる。
この「ついで」の勢いは、時として家中の扉をこじ開けてしまう。
クローゼットの奥、引き出しの隅、そしてキッチンの一番高い棚。
それでも今日は、家具の配置を変えるだけで満足したので、ソファに座って、形を整えたクッションに寄りかかって、コーヒーを飲んでみた。
部屋を見渡すと、同じ部屋なのに新鮮な気持ちになり、ニヤニヤしながら壁の絵を眺める。
気づくと、もう夕方だった。
外が暗くなる前にカーテンを閉めて、お気に入りのテーブルライトをつける。
昼間とは違う影が壁にできていることに気づいた。
新しく感じるリビングの景色の中に、テーブルライトの暖かい光がとても合う。
我が家は大きな家でも豪華な家でもない。
それでも、季節が変わるたびに少しずつ見え方が変わっていくのが、私たちにとっては心地よい。
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