「面白い」を求めた先にあったもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:後藤 修 (ライティングゼミ、26年1月通信講座 コース)
今でも覚えている。
頭が真っ白になったことを。
「私、面白い人が好きなの」
当時、付き合っていた彼女に思いきり振られた。
私が大学3年生だった2月。新宿のJR構内で放たれた言葉で、私の心はえぐられた。
僕って面白くない人のか?!
東京に来る彼女のために、せっかく周遊するコースを練って、連れていったのに。
都会を満喫するのにふさわしい食事処を探して、連れていったのに。
一緒に歩きながら、「ここはこうだよ」とか「あそこはこういう場所なんだよ」と
東京在住の利で得た情報を活用し、ガイドブック「東京の歩き方」のように、彼女を案内していく。この旅の最後に
「ありがとう」と言われて、抱きしめ合う……。そんなハッピーな場面を想像していたあの時間……。
返してくれえ!!
フォーンと鳴り響かせながら東京へ向かう彼女を乗せた電車を僕は歯ぎしりしながら、見つめていた。
この時からだった。
(絶対、面白い奴になってやる)
そう固く心に誓ったのだ。
当時、まっちゃんこと松本人志とはまちゃんこと浜田雅功が組む「ダウンタウン」が人気を博していた。世の中はどこか「人を笑わせてナンボ」の風が吹き荒れている真っ只中だった。
私が振られた理由のひとつ(他にも理由はあったと思われる)は紛れもなく、吉本芸人が作り出した世の潮流だった。
この敗北感、どうしてくれよう……。
元来、周囲からは「真面目な人」で通っていた私。
所属していたテニスサークルでも、百貨店で働いていた職場でも
「後藤さん、まじめですよね~」
と共通限度のように、評されていた。
「真面目な人」は誉め言葉であると思われるものだろう。
でも、私はその言葉の響きが嫌で嫌でたまらなかった。
なぜかと言えば、「真面目な人」は「女子にモテない人」と解釈していたからである。
周りを見ると、「真面目な人」にはあまり人が近寄ってくれなかった印象があった。
話し方が丁寧。話す言葉がゴツくない。相手に不快な言葉を投げない。
そんな真面目な人ほど、女子達は目もくれず、ちょっと人を揶揄したり、髪形を染め上げて
人を茶化すような男子達に蟻のように集まっていた。
「真面目な人」であった僕はお笑いの渦の中で、漂流していたのである。
でも、彼女が僕を放り投げたのと併せて、変速ギアを動かすように考えを変えた。
‘モテる男子’に変身しよう! と。
それから、彼女との別れを機に考えたのは「自分を面白い人へ改造するプラン」だった。
「面白くなる」ためには、話術が長けていなければいけない。だから、まずは発想力を鍛えた。
例えば、お笑い番組に出演してくる芸人が丁々発止に展開する話を聞き、
「自分ならどんな風に質問して答えるか」を考え抜いた。
そして、それをサークルやクラスの仲間の会話の中にすこしづつ忍び込ませていった。
その結果は徐々に徐々に、功を奏してきた。
クラスの友達やサークルのメンバーと学食で話すたびに
仲間の声が食堂中をこだました。
「アハハハハハ!! おもしれえ事いうじゃないか!!」
自分でも会心の一撃とは思えない‘作品’に対しても、けっこう笑ってくれたのだった。
(よし。うまくいった)
私はその様子を見るたびに、平静な顔を装いながらも、心の中ではイヒヒヒといつもほくそ笑んでいた。
この調子で行けば、いつか輝かしいモテキが到来し、女子が囲んでくれるに違いない!!
そんな思いが私の心中でポコポコと湧き上がり始めていた。
そんなバレリーナのように踊りたくなるように浮かれていた頃に、地元の親友が東京にやってきた。
しかし、新宿や渋谷を闊歩して、私が暮らすアパートへ向かう途中の
電車の中で、彼は思わぬことを口にした。
「おまえ、なんかおかしくないか?」
幼いころから付き合いが長くほとんど私のすべてを熟知している親友。
喉に刺さった魚の棘のように、私の言動に違和感を抱いたと口を開いたのだ。
「彼女に振られたんだよ。あなたは面白くないって言われたから、面白い人になってやろうと思ってさ」
私が‘振られた場面を思い出しながら、苦々しい表情で力こぶしを作って話し終わった後、意外な言葉が飛んできた。
「やめとけよ。お前じゃないよ、そんなことやるのは」
……。
私は言葉を発せなかった。彼の言葉には、私の心をくるんでくれる優しさがあった。
「そもそも、面白い奴や真面目な奴とか様々いるから、世の中成り立つんだよ」
ああ。そうだな……。
彼の言葉は私の耳の穴を通って、いつまでも耳の中で響いていた。
それからは、「面白い人」を目指すことはやめた。
「面白い人」を努力で手に入れようとした自分に疲れを感じ始めて
嫌気が心の中で立ち込め始めていた自分にも気づけた瞬間だった。
今、私はアラフィフのおじさんだ。
大学生時分からだいぶ時が流れた。
周囲の人は専ら私を「真面目な人だねえ」と評してくれる。
昔はとても嫌だったこの3文字が、今はとても気に入っている。
それはなぜか?
それはこの言葉が僕自身で、僕を表現するのにもっともふさわしい言葉だから。
この「真面目な人」と評された結果、たくさんの人と出会い、楽しい時間を山のようにおくってきたのだ。
人は「自分が持たない」ものに憧れてしまう。憧れて、手に入れようとしてしまう。
でも、それがために、自分を見失うこともある。
だから、まず自分をよく知る。
それが、「自分らしく生きる」道に繋がるはずだから。
≪終わり≫
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