婚活は「自分」が主役のドラマだ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:ムー子(25年11月開講コース)
「……? 遅いなあ?」
結婚相談所の会員サイトでマッチングした相手が待ち合わせ場所になかなか現れない。
私はオロオロしていた。
35才の時、婚活相談所に登録をした。
それまでは、友達が誘ってくれた婚活パーティや飲み会には必ず出席していた。
残念ながら進展することはなかった。
マッチングアプリにもトライしてみたが、相手の真剣度や素性がよく分からない相手が多く、途中で使用をやめた。
当時の婚活市場では年齢が上になればなるほど不利になると言われていた。
入るなら今しかない。そう思って相談所に入った。
ところが、入った後も苦戦した。
例えば、男性A。
「仕事をするのが辛いので、投資家になってお金を稼ぎます」と会って2回目の時に言われた。
NISAやiDeCoのシステムを全く知らない状態でリスクの高い投資方法を考えているため、私は現状の投資のリスクと危険性を伝えた。
すると「僕を応援してくれないんですね」と言われ、それ以来連絡がとれなくなってしまった。
男性B。
「僕は職場で嫌われてるんです」と延々と愚痴を言ってきた。
「それは誤解の可能性はないんですか」と思い切って聞いたところ「ムー子さんは僕を理解してくれないんだ」と、めちゃくちゃ怖い顔で睨まれた。
他の男性も何らかの理由で会わなくなった。
もしかしたら、私は毎回致命的なミスを犯しているのではないだろうか。
だから35才になっても誰にも選ばれないのだろうか。
相談所のアドバイザーに何回か相談してみたが、どの場合も「……聞いている限りはムー子さんに悪いところはないですよ……?」と深刻な顔で言われるだけだった。
そして、その日は10分以上たっても相手が来ない。
この段階では相手と連絡先を交換していない。
アドバイザーに連絡して対処方法を聞いてみよう、と自身のスマホを取り出したその時だった。
写真で見た、男性Cが向こうから大股で歩いてくる。
スローモーションかと思うくらい、ゆっくりと。
遠くから会釈すると、私に気づいたようだ。
しかし、急ぐ様子はなく、歩幅はそのままだった。
遅れてるんやから、はよ来んかい、われー!! ビジネスでもおのれは同じことしてんのか? それやと怒られんぞほんまー!!
頭の中でイライラとした、今までの惨敗結果を煮込んだような、どす黒い感情が出現した。とうとう暴言が脳内でまわり始めてしまった。
許されるならば、吉本新喜劇の未知やすえさん並みに通った声で、思ったことをそのまま言いたい。
だめですか、許されないですか。
いけない、私ってこわぁい。
感情に蓋をして、とりあえず横に置いておくことにした。
ようやく目の前に来た。
Cは私より5歳年上の長身のスラっとした男性だ。
清潔な印象で、きっちりとしたスーツにスタイリッシュなビジネス用のカバン、磨かれた靴。
隙も何もない、ザ・ビジネスマンである。
……遅刻がなければね……。
「いやー、遅くなってすいませんねえ」ニコニコしながらCは言う。
絶対悪いと思ってないな。
遅れた理由は何なんだろう。
説明が結局なかった。
心の中でモヤっとする気持ちに、またも蓋をした。
私は気を取り直した。笑顔を精いっぱい作る。
「いえいえ……お店に入りましょうか?」
待ち合わせ場所は、あるコーヒーショップの前だった。
私は以前からここのコーヒーに興味があったので、その点ではワクワクしていた。
「あ、そこの店入るんだったら、向こうの店に行きません?」
Cは来た道を指さした。本人の身体はそちらの方向に動き始めている。
……ここのコーヒー、飲んでみたかったのに……
しょうがないので、Cに着いていった。
店員に案内されると「それでは、始めましょうか」とCは椅子に腰を下ろし、長い足を組んだ。
これ、少年漫画の、デスゲームの司会者の始め方やん。
……気のせいだろうか。なぜか胃が痛い。
初めて会ったばかりだし、ちゃんとしなければ。
私は背筋をピンとし、足はきちんと揃えた。
頼んでいたホットコーヒーが来た。
「ムー子さんは映画ではどういうジャンルをよく見ますか」と唐突に聞かれた。
「アクションも好きですし、恋愛系も好きです。最近映画は中々見れていないんですが……」
どんな映画がお好きですか、最近見た映画はありますか、とCに聞いて話を広げようとした瞬間だった。
「あ、僕は映画そんな見ないんで。特に恋愛系は嫌いです」と言われた。
……なんで聞いたんやー!?
その後も、彼主導の面接のような会話(デスゲーム並みの緊張感付き)が続き、1時間ほど話をして、家に帰った。
胃がギリギリ痛み、食事ものどを通らなかった。
相談所のシステムでは、初回会ってお互いが合意すれば「仮交際」という、お互いを知っていく段階へと移行する。
よほど嫌じゃない限りはそこに進んで、さらに相手を見ることをオススメされる。
正直、相手の印象はよくない。
身体は拒否反応を起こしている。
しかし、チャンスを逃すのは……
延々と悩んでいるとサイトのメールボックスにお知らせが入っていた。
相手が私をお断りした、というものだった。
それを見た瞬間、涙が出てきた。
「……よかった、断られて……」
もう悩まなくていいんだ。
向こうが先に断ってくれたんだから。
そもそも、断られて嬉しいと思う婚活って意味あるのだろうか。
自分に問いかけてみた。
ねえ、私を知ろうと、みんな歩み寄ろうとしてくれた?
Cが私を断ってきた本当の理由は正直分からない。
ただ、少なくとも最初から「この人を知りたい、話そう」という気がないまま私に会ったのは間違いない。
なぜなら、知りたいと思う相手に、遅刻したり、店を勝手に決めたり、横柄な面接会話は普通しないからだ。
そして、サイトに載っていた私の自己紹介の内容を掘り下げることは一度もなかった(映画については趣味として私は載せていなかったし、たぶん世間話の延長だったのかもしれない)。
結局のところ、私がCの好みのタイプではなかったのだろうな、と思う。
「選ぶのは、俺」と思っていたのだろう。
今まで会ってきた人も「自分の話を聞いてくれる相手」を欲していただけで、自分に意見を言う相手は求めていなかったのだ。
婚活の主体者は私だ。
それなのに、私は相手の決断や意向に合わせるばかりで自分の気持ちを置き去りにしていたのだ。
妥協しなくていい。
許されないことは我慢しなくていいのだ。
婚活はドラマだ。自分が主役の。
ドラマには必ず結末がある。
王道の結末のように、運命の人と巡り会うために、ここで婚活を続けるのもいい。もしくはここをやめて、別のところにいくのもいいだろう。
私が見てみたい、ドラマの結末とは何だろう。
数々の出会いを経て、私が一番求めているものとは何か。
その時、ある一つの結論に至った。
私が相手を理解するように、相手も同じように私を理解しようとしてくれる。
そんな人を探したいし、出会いたい。
相手のことを知る努力をしたのならば、自信を持って、次は自分のことも話して知ってもらおう。
人生はいつだって自分が主役で、楽しいものだ。
そんな気持ちで活動してみることにした。
その1ヶ月後。
私は運命の人に出会い、その後対話を繰り返しながら、現在楽しい結婚生活を過ごすことになるのだ。
≪終わり≫
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