パジャマでいる勇気
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:加藤瞳(25年11月開講コース)
実家にいる時、10時くらいまでパジャマでいると、私は母によく「まだパジャマのままなの?」と言われた。昭和初期生まれの母は、朝起きたらすぐに着替える。実家は北海道だが、暖房のない寝室で、気温が0度を下回る日でも、母は必ず着替えてからリビングに来ていた。
本人にとっては当たり前のことなのだろうが、娘の私には母が「朝からちゃんとしていて、すごい人」にみえた。高齢になり、パジャマのままお手洗いに行ってから着替えるようになったものの、基本的には身支度をしてから活動を始めている。
母が朝から「ちゃんと」着替えていないのは、風邪で寝込んでいる時ぐらい。
そんな母の姿を見てl;「育った私は、起きてすぐに着替えられないと、罪悪感がむくむく湧いてくる。本当は一日中パジャマでいたいのに、「熱もないのに、なんで着替えないの?」と、遠く離れた母の声が聞こえてくる感じがする。考え方は人それぞれだと心から思えたら、どんなに気持ちが楽になれるだろう。
私はずっと、「パジャマでいる自分」を母に認めてもらえていない気がしていた。けれど、それに気づいたのは大学生頃で、「今さら言えない」と、母にわかってもらいたい気持ちを自分の中に閉じ込めた。
母に認めてもらうには、「朝からちゃんと着替えている、ちゃんとした私」でいればいい。そんなことはわかっている。でもさ、人間だもの。いつもちゃんとなんてできないし、もともと私はちゃんとした人間じゃない。できないところ、苦手なことが結構ある。ただ、それらをできるように、また好きになれるように努力していただけ。自分がやりたくて努力していた面もある。けれど、母に認められるには、その方が簡単だって知っていたから、それを採用してきた。
私は、「パジャマでいる自分」を母にも認められず、自分でも認めないまま、母になってしまった。
そんな私が、つい先日、1日中パジャマで過ごしたのだ!
それは、母になって17年目の冬のある日のことだった。
きっかけは、学校へ行っていない小学3年生の息子だ。彼は、小学校1年生の5月から家にいる。2年生の後半からフリースクールに通うようになったが、スクールには週1〜週3くらいしか行かないので、他の日は予定がなければずっとパジャマなのだ。ひどい時は1週間くらい同じパジャマで過ごしていることもある。
きっと、私の母だったら「起きたら、ちゃんと着替えなさい」と、息子を叱っていただろう。学校へ行かなくなった初期の頃は、私も息子に着替えを促していた。なぜなら、隣に住む義母や、仕事から帰ってきた夫が、息子に「ちゃんと着替えなきゃダメだよ」と言うのを聞きたくなかったから。「ちゃんと着替えていない息子は、ちゃんと着替えさせられていない母の責任」と言われているように感じたから。
でも、なぜか私は、息子に強く着替えるように言えなかった。むしろ羨ましく思ったほどだ。彼は外に行く用事がなければ、ずっとパジャマでリラックスして過ごしている。外に出かける目的がある時は、私が何も言わなくても、進んで身支度を整える。
「私も、こんな風に親に見ていてもらいたかったんだろうな」
私は、息子に「子ども時代の自分が憧れた姿」を投影していたことに気づいた。
子どもたちには「自分のやりたいことは『やりたい』って言おうね」「やりたいことは進んでやるんだよ」と言っているのなら、私がその姿を見せなくてどうする? たとえ、そのやりたいことが、はたから見てだらしのないことだとしても。「近いうちに、『パジャマでいられる日』を作れたらいいな」。そんな風に思っていた。
そんなある日、日曜日に「その日」がやってきた。家族6人のうち、4人が終日外出する。家にいるのは、私と高校1年生の次男のみ。休日は、次男はいつも14時近くまで起きてこない。
「パジャマで過ごせるかもしれない」
そう思った私は、自分と家族の食べ物に困らないように、前日に買い出しを済ませ、用事も前倒で終わらせた。
そして翌日の日曜日。10時ごろに4人が出かけていった時、私はパジャマのまま見送った。うわぁ。なんだか、とても贅沢な気持ち。
家の窓から車が見えなくなったとき、気が抜けた。
「なんて、楽ちんなんだろう!」
あったかいミルクティーを注ぎ、前日に買ってきた雑穀入りの食パンにバターをたっぷり染み込ませ、それらをゆっくりと味わう。スマホはいじらず、目を閉じてもぐもぐする。
耳を澄ますと、加湿器がコポコポと蒸気を出す音、洗濯室にある除湿機のトレイに水がこぼれ落ちる音、家の前の道路をあまり通らないトラックが走る音など、いろいろな音が聞こえてきた。
部屋が寒かったので布団に潜り込み、リラックスミュージックを流しながら本を読んだ。気づいたら1時間が経過していた。家族が帰ってくるまで、まだまだたっぷり時間がある。
この時、「いつもの自分」が動き出しそうになった。「せっかくだから、いつものカフェでおしゃべりしてこようかな」と私に囁いてくるのだ。
「でもなぁ……」
2、3度着替えようか悩みながらも、私はパジャマのままでいる自分を貫くことにした。
予想通り14時過ぎに起きてきた息子に、「パジャマ姿の母」を見せた。彼は、何も言わなかったし、顔色ひとつ変わらず、いつもの息子の表情だ。
「もう、母から認められるために、自分を縛るのをやめよう」
そう思ったら、気分よく過ごすために、急に掃除機をかけたくなった。人が少ないから掃除がすいすい捗る。ソファーの位置をかえ、日の当たる場所に本を持ち込んで座った。うたた寝してもいいように、毛布の準備もバッチリ。
読みたかった本が驚くほど読み進められる。3度ほど休憩をとっても、まだまだ時間がある。「もうすぐみんなが帰ってくるかもしれない」という焦りがないって、幸せだ。
「ここまででいい」と思うところまで読み進めたら、今度は晩御飯の支度を始める気になった。いつもなら「あぁ、今日は何を作ろう」と憂鬱なのに。野菜を切る音にも耳を澄ませ、ゆっくりとキャベツの千切りをした。
おかず一品が出来上がった時、
「ただいまー!」と末っ子の元気な声。家の空気が一気に変わり、外の陽気が溢れた。
いつもなら、みんなが休みの日に、自分だけ食事の支度をしていることにイライラしていたのに、今日の夕飯の支度は全然苦じゃない。
パジャマで過ごした1分1秒は、まるで金ののべ棒のように、重みがありキラキラ輝いていた。
ずっとパジャマでいる自分はダメだと思っていた。でも、今はパジャマでいる自分が愛おしい。パジャマでいると、「やらなきゃいけない」と思っていたことから解放されていく。「やろう」と意気込んでいた気分も、自然と消えていった。
とにかく、自分の本当にありたい姿に戻っていった。パジャマでいる時間が長くなればなるほど、そこに集中できていく。その結果、本当にやりたいことを、流れのままにできたのだ。
「パジャマでいる勇気」
それは、「自分をありのまま受け止める勇気」であり、「自分への愛」なのだ。
《終わり》
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