「箱」の外で息をする
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:仲西悠歌(ライティング・ゼミ GW集中講座)
「ゴールデンウィーク明け、学校に行くのが嫌だった」
ふとカレンダーを眺めながら、胸の奥がぎゅっと固くなって過去の自分を思い出した。決して、友達がいなかったわけじゃない。周りはみんな眩しいほどに善人で、クラスの仲も良かった。あの四角い教室に一歩足を踏み入れると、まるで逃げ場のない「箱」に閉じ込められたような感覚に陥ってしまう。私にとって、学校はひどく窮屈な、透明な酸素の薄い場所だった。
なぜ、あんなに息苦しかったのか。目に見えない「一般論」という名の、あまりに善良な呪いが充満していたからだ。
「友達がいるのが当たり前」「みんなと仲良く、分かり合えるのが普通」「できて当然」
クラスメイトが「良い人」であればあるほど、馴染めない自分を欠陥品のように感じてしまう自意識が、私の首を絞めた。「何が不満なの?」と問われれば言葉に詰まる。みんなと同じタイミングで笑い、同じ歩幅で歩かなければならない「暗黙の契約」に、私の魂はいつだって悲鳴をあげていた。
大型連休の間、家族と過ごし学校のことを一瞬でも忘れていられる時間は、唯一の「束の間の休憩」だった。休憩が終わる頃の絶望感は、まるで自分だけが壊れた機械として、またあの製造ラインに戻されるような感覚だった。
たった一つだけ、深く息を吸える場所が「塾」だった。学校という箱から鮮やかに脱皮できる、最高に心地いい「逃げ場」。
自習室は、私にとっての酸素吸入器のようなもので、シャープペンシルの芯が紙を削る音が安心した。他者の顔色を伺う必要のない、純潔な「問いと答え」だけの世界があった。数学の証明を解いている間、「何者でもない、ただの思考する装置」になれた。学校で四方八方から押し付けられる「協調性」というラベリングから、解放される瞬間だった。
答えが一つに定まる数学の論理性や、千年前の人も自分と同じように感情のやり場に悩んでいたことを教えてくれる古典の余白。共通の趣味がなかった私にとって、出会ったことのない難問に競い合い、教え合い、「勉強の話」で誰かと繋がれることは、何よりも誇らしく、乾いた自意識を潤してくれた。
特に印象に残っているのは、ある暑い夏の日。あまりの暑さと疲れで、少し外に出て散歩をしたいな、と思っていた時のことだ。いつもは一人でボーッと食べていたお昼の時間、たまたま休憩が重なった仲の良い子と、お昼を共にすることになった。
久しぶりに誰かと囲む昼食は、驚くほど楽しかった。私は震える声で「実は、ここじゃないどこかへ行きたいんだ」と漏らした。留学という、当時の自分には立場のふさわしくない高い山の夢。鼻で笑われるかもしれないという恐怖。あの子は真剣な眼差しで「私も、とにかくここを抜け出して上に行きたい」と言った。その時、気づいた。
私たちは「今」を否定したくて勉強しているんじゃない。まだ見ぬ自分を肯定するために、必死にペンを動かしているのだと。塾の帰り道、夜風が少しだけ冷たく感じたあの日。自分の「逃げたい」という感情を「進みたい」という言葉に翻訳できた気がした。
大学に入ると、私は変わることができた。自分で好きな授業を選び、好きなことを学び、自らの意志でボランティアに飛び込んだとき、あの「箱」の感覚は完全に消えていた。強制された「仲良し」ではなく、純粋な興味で繋がれる、自由で居心地の良い世界が広がっていた。
あの頃の私に、今この瞬間も「箱」の中で息を止めているあなたに、こんな風に声をかけたいと思う。
「明日、学校に行きたくない」あなたが弱いからでも、社会性がないからでもない。「箱」のサイズが、あなたの持っている感性や熱量に対して、あまりにも小さすぎただけ。
今はまだ、四角い天井を見上げることしかできないかもしれない。信じてほしい。この箱の壁を一枚隔てたその先には、もっと無責任で、もっと広大で、自分の意志だけでどこまでも泳いでいける「学びの海」が待っている。
「普通」なんて、誰かが勝手に決めた平均値に、自分の大切な形を無理やり押し込める必要なんてない。あと少しだけ残っている連休の時間は、誰のためでもない、自分の心を守るためだけに使ってほしい。好きな問題を解くのもいい、ただ天井を眺めるのもいい。
繊細で鋭く達観してる感性がいつか「箱」を突き破って誰にも邪魔されない広い空の下で大きく深呼吸できる日が来ることを、強く、信じている。
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