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半年で離婚した。〜誰の借り物でもない志望動機〜


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:仲西悠歌(ライティング・ゼミ GW集中講座)

 

「結婚すれば幸せになれる」なんて、どこの誰が言い出したファンタジーだろうか。少なくとも私はパッケージを自らの手でこじ開け、中身が空っぽだったことを確認して人生の「早期退職」を選んだ。離婚したのだ。あんなに信じていたはずの「幸福」という名の内定を、自ら手放した。

 

今思えば、私の結婚生活は「自己分析」を完全に怠ったまま進めてしまった、無謀な就職活動そのものだった。

婚約までのあの日々は、企業の会社説明会で見せられるキラキラしたプロモーションビデオと同じだ。サプライズの旅行、私を喜ばせるための演出。それらはすべて、入社後の過酷な労働条件を隠すための「誇大広告」だった。

 

……。いや、違う。

広告に騙されたのではない。私は、自分の中にある「欠落」という名の穴を、誰かに埋めてほしくてたまらなかっただけなのだ。

 

当時の私は、誰からも「お断り」されるのが死ぬほど怖かった。自分という商品の価値を証明してくれる場所が、どうしても欲しかった。だから、最初に「内定(プロポーズ)」を出してくれたその場所へ、中身を精査する余裕もないまま飛び込んだ。相手の本性を知る余地もない。いや、深い部分まで知らなくてもいいかと。内定をもらって安心したいという焦りだけが、私の背中を強引に押していた。

面接(デート)の席で、私はいかに自分が素晴らしい人材(花嫁候補)であるかをプレゼンすることだけに必死だった。自分のことばかりを発表して、肝心の「会社の実態(相手の素性)」については何一つ質問もしなかった。

 

「私はあなたの理想に合わせて、柔軟に自分を変えられる人材です!」

そう笑顔で宣言し、内定承諾書にサインをした瞬間、私は人生のゴールに到達したのだと勘違いしていた。今思えば傲慢で愚かで、危うく心の安寧を守れなかったのだろう。何かを得られたような気分になり、目に見えない「人としての成熟ポイント」が加算されたような幻想を見続けたかったのかもしれない。

 

私の好きだった人は、いつも笑顔で虫にも優しい人だった。まだ未完成の私を馬鹿にせず、理解しようとして隣に居続けてくれた。そういう所が好きで憧れて、安心して。こんな人になりたいと願った。私は、彼になりたかったのだ。この人と選んだ「世界線」にいれば、私は完成されるのかもしれない。……。そういう打算と、結婚というノルマを達成したい焦燥を掛け合わせ、私は「入社」を決めた。

 

いざ入社(結婚生活)が始まってみると、そこにあるのは「日々の業務」という名の現実だった。

私は、彼が手入れを放棄し荒れ果てた彼の庭を整備したくて。そこが地獄と例えるならば、彼には私と同じ地獄を見てほしかった。苦労は共に解決させたく。二人で共に憧れていたはずの未来はなく。彼の正義と私の正義が一緒になることはなくなった。

 

「この会社(彼)なら、私を輝かせてくれる」そう信じて疑わなかった。内定をもらった瞬間の高揚感は、いつしか自分を殺し、組織の色に染まるための呪縛へと変わっていった。いざ働き始めると、提示されていた条件(理想の彼)は次々と崩れ去る。

「せっかくの内定だから」「もう後戻りはできないから」世間体という名の就業規則に縛られ、擦り切れるまで働き続ける日々。お互いの歯車は修復不可能なほど狂い、最後には彼はただの暴君に、私は抜け殻になっていた。半年という短すぎる勤続年数。けれどそれは、私のアイデンティティを死守するための、切実な「早期退職(離婚)」だった。

就職活動で、大手に就職できるからと自分の本音を捻じ曲げ、現実に直面した時と同じだ。受験で、自分が基礎すら理解できていないという事実に直面した時と同じだ。「自分の選択が間違っていたこと」を認めるのが、何より怖かったのである。離婚という「早期退職」は、世間的には敗北に見えるかもしれない。けれど、結婚が私の補助になると思い込み自己肯定できなかった私が、ようやく自分の足で土を耕し始めるための、誠実な一歩だったのだと思う。

今の私は、真っ新なエントリーシートを前にしている。誰かに穴を埋めてもらうための就職活動は、もう終わりだ。

 

私自身を理解し育てる。そう強く願いながら、自分自身の「志望動機」を誰の借り物でもない言葉で書き始めている。

 

幸せになるんだ。と強く自分の足で進みはじめてる。

 

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