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フクダ君とわたし


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:鐵谷知会子(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)

 

 

忍耐という言葉は私にとって一番遠い言葉である。小さい頃から飽きっぽかったし、母曰く、育てにくい子だったらしい。

 

 そんな私はモノをよく忘れた。学校に持って行かなければならないモノを家に忘れるのである。教科書に始まり、ノートに筆箱、たて笛に体操服、上履き等々。そして、そういう時に頼りになるのが1学年下の弟である。だから私はしょっちゅう弟のクラスにモノを借りに行っていた。そうした行動が、弟の担任教師の目に付き最終的には弟のクラスのホームルームで「ひろゆきの姉ちゃんみたいになるな!」と担任教師は、皆に喝を入れたらしい。幼馴染のきみえちゃんからこの話を聞くと、この時ばかりは普段大人しい母親も小学校に出向き、弟の担任教師に文句をいったらしい。それ以来、弟にモノを借りる事が出来なくなったのだが、私には運があった。それが小学校5年生から一緒のクラスになったフクダ君である。

 フクダ君は丸顔で学級委員を務める頭のいい子だった。運動神経も良い上に誰にでも優しく紳士的な態度は、男女共に人気。そんなフクダ君と席が隣同士になる。すると、私が教科書を忘れれば「一緒に教科書を見よう」と机を付けてくれる。消しゴムを忘れて慌てていると「ほら、消しゴム」と出してくれる。まるで私の専属の天使の様にあれやこれやと世話を焼いてくれる。私の苦手なプールの時も25メートルなかなか泳げない私のレーンに向かい「がんばれ! がんばれ!」大きな声で応援してくれるのだ。いまでも不思議だが、相当フクダ君に迷惑をかけたのに決してフクダ君は怒らなかった。嫌な顔をされた記憶が一度もないのだ。

 

 小学校5年生も終わろうとする時に苦手な工作で宿題がでる。その宿題のテーマが『未来の車』だ。私はいつも出来のいい弟にふてくされていたから工作の宿題なんか、やる気はない。仕方がないので適当な石鹸の空箱に色も付けず、側面にタイヤらしく見えるように丸く切り抜いた少し厚い紙を糊で付けただけのみすぼらしい車をもって学校へいく。先生に提出すると、いつも温かい担任の野村先生の顔がけわしい。そして

「これでいいのか? この作品でお前はいいのか?」

と詰められた。思いもかけない言葉に私が何も言えないでいると

「おい、がんばれよ! がんばれ!」

いつのまにか側にいた私の守護天使のフクダ君が叫ぶ。

「もう一度作ってこいよ!」

フクダ君の顔も笑っていなかった。さすがにボンヤリの私もこれはまずいと、やっとわかる。野村先生も締め切りを特別に明日まで伸ばすからと行ってくれたから、とにかくフクダ君のために頑張ることにした。私は学校から帰ると早速折り紙をさがす。昔も今もぎりぎりに実力を発揮するタイプだから、もう頭の中には「未来の車」がある。まずはケント紙を書棚から取り出し、きちんと正確に定規で線を引く。立方体だから慎重に面を数えねばならない。数学で5段階評価の2を取ったことのある私が一生懸命に数を数えて線を引くのだから、フクダ君の励ましは偉大である。その切り出したケント紙にピンクの折り紙を丁寧に貼り付ける。これでピンクの車体が出来上がった。これを未来の車にするために私は水色の折り紙を選ぶ。その水色は車体の後方につける、風を切る羽である。流線形になるように切り出した羽に水色を貼ると綺麗なコントラストがいかにも未来にふさわしいような気がしてくる。最後にタイヤ用に黒と白の折り紙をケント紙に貼り丸く切り出す。あの最初に出したガタガタの車とは雲泥の差だ。私はいつもより早起きして学校へと向かう。

 

自信はあった。褒められる自信だ。すると私の車を前に野村先生がにっこりした。

「かっこいいな」

「ありがとうございます」

と私。

「やったじゃないか、すごいぞ、すごいな」

とフクダ君。

フクダ君はいつも100点満点の励ましをくれる。励ましを貰える事が少なかった私は、自分がこんなに頑張れるとは知らなかった。

それからしばらくして、席替えがあり私だけの守護天使だったフクダ君とは席が離れてしまう。彼は、またみんなの賑やかな輪の中に帰っていった。

初恋の人は誰かと尋ねられたら、私は迷いなくフクダ君と答える。惨めだった子供時代の私にとって奇跡のような物語をくれた彼を差し置いて誰の名前をあげるだろうか。今まで一番好きだった人は誰かと聞かれれば、それも間違いなくフクダ君である。あんなキラキラした瞳で応援してくれた彼以外の誰の名前を思い出すだろう。

 

初恋という言葉にふさわしく彼は卒業アルバムに載ることなく、引っ越してしまい

同級生の誰に聞いても彼の今を知る人はいない。一度でいいから「有難う、今があるのはあなたのおかげです」と直接伝えたかった。でも、もし会えたとしてもフクダ君が変わってしまっていたら悲しい。だから「がんばれ!」と言ってくれる彼の声を思い出す度に呟く『ありがとうフクダ君』

 

 

 

 

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