ながれ流れて
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:かあちゃん(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)
その日私は山手線のホームに立っていた。
ふと見るとデザイン画のようなまるでこどもが描いたような富士山が目に入った。
それは名前だけは知っていた画家の展覧会の開催を知らせるポスター。
自分が思っていた画風とはまったく違う。
明日、福岡へ帰る前に観に行こう! そう決めて到着した電車に乗った。
30数年勤めた会社の退職日を控えていたころだった。
もう何のセミナーだったか思い出せないが受講のために東京へ来ていた。
大きな決断をしたのちの開放感を味わっていた。 と同時にこれからの人生をどうしていこうかとも考えていた。
上向き下向きの波はあれども総じて恵まれた30数年であった。
途中、結婚・2度の出産も経験した。
一人目の出産のときは1990年代中頃の育児休暇制度ができて間もない頃。 1年の育児休暇を経て復帰したらすぐに異動の辞令。
二人目の育児休暇復帰後もまた異動。 自らを「育休ジプシー」と名付けて奮闘の日々だった。
そうしてそんな日々もゆとりが出始めていたある日、またも辞令。
こどもの成長につれて相変わらず目まぐるしく過ごす日々のなかだんだんと 「もうこのあたりでいいのではないか・・」という気持ちがふくらんできていた。
早期退職に手を上げて転職を果たした相方の了承をとりつけ 退職の日を迎えるための準備を進めた。
新しい世界へ一歩を踏み出すのだ。
翌日、私は東京国立近代美術館に来ていた。
生誕150年記念の展覧会のようだった。
初めて目にした「横山大観」の顔写真。
もっと線の細い人を勝手にイメージしていた。
私はひとつひとつの作品をのめり込むように観てまわった。
その中でひときわ目立っていたのが40メートルにおよぶ画巻 「生生流転」。
左、左へとゆっくりと歩をすすめながらどうやら水のながれを描いている作品だとわかり 頭の中で笹舟を浮かべながら私も流れてみることにした。
松の生えたぼんやりと霧がかかる山々の中から流れが始まり、人ひとりが渡るにやっとであろう橋がかかる山里で暮らす人々が居る。
流れが進むにつれて穏やかに景色が変化していく。
満開の桜が咲いている。 墨で描かれているので色はないが彩りがある。
かわいい鹿がいた。 河のほとりで生活をする人々。
次に現れる景色にこころを踊らせながら脳内の笹舟を進ませた。
途中に滝が現れた。 水しぶきとなりまたするりとかたちを変えて流れにもどる。
やがて大きな橋がかかり大河となった。
さざなみが描かれている。どうやら海へ出たようだ。 ぼんやりとした雲の合間に凪のような細かい波がずっと続いていく。 私にはそれがかなり長く感じられた。
このあとはどうなるのだろうと思いながらさらに画巻を左へとゆっくり進む。
そして現れた景色に笹舟も吹き飛んでしまった。
「そうきたか!」
轟音(私にははっきりと聞えた)とともにあらわれた龍。
私はしばらくその場を動けなかった。
自在にそのかたちを変化させていくこの水は何に似ているのか?
子どものころに飼っていた猫! そう、猫の背伸び。
丸まって眠る猫が目覚めた瞬間に全身をS字に伸ばす。
二本そろえて伸ばした前足は里山に橋がかかる小川。
前足から頭への動きでだんだんと大河へと流れを増していく。
そうして背骨からしっぽの先までのうねりはまさしく龍。
やわらかな肢体は水が器に従うように自在にそのかたちを変化させていく。
触れるとまるで水が流れているかのようにしなやかだった。
一滴のしずくから小川になり大河となって大海へ。
流れに任せ自由に生きようと語りかけられているかのようだ。
そして今までの私と水の流れを重ね合わせていた。
育休ジプシーも流れの一部だったかもしれない。 果たして私はこの画巻のどのあたりまで生きてきたのだろうか。 この流れのようによどみなく生きてこられただろうか。 開放感に浸っていたこころに深くこの絵は刻まれた。
後ろ髪をひかれるように美術館をあとにして羽田空港へ向かった。
福岡行きの飛行機の中で「生生流転」の絵を思い出していた。
起こることに無駄はなく大きな流れの一部だったのだ。 流れにまかせていれば大丈夫。
それ以来長いトンネルのような凪の先に現れた龍は流れに任せて生きたら大丈夫だよと心のなかで語りかけてくれる。
いまの私は流れに任せていたらなんと生け花の先生になっていた。
丸い水盤に張られた水にあの猫がお花を挿している。
山手線のホームにいた頃には思いもしなかった大変化である。
ふとポスターを見たあの瞬間も、流れの一滴だったのだ。
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







