瞑想とは舞台役者になることである
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:桂木(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)
瞑想とは舞台役者になることである。
このままでは狂ってしまう。
舞台役者だった私は、よくそう思っていた。
恋人を失い、嘆き悲しむ女の役を演じる。
舞台の上で大いに嘆き悲しむのが仕事だ。
しかし、家に帰っても、その公演が終わっても、私の中に役が残るようになった。
彼女の悲しみが残ってしまうのである。
舞台で演じたトラウマが私の中に蓄積していく。
愛を叫んだり怒り狂ったりする舞台。
そこにあるのは人間の情や欲。
リアルな生活よりも、虚構である舞台にこそ、真実がある気がした。
「人間とは何であるか、なぜ生きるのか」が表現されている。
問題が描かれているから物語は成立する。必ず何かが起こる。
裏切られてどん底だったり、大切なものを失ったりする。
劇的である。演劇にするくらいだからもちろん劇的な設定だ。
役者はそれを稽古と本番、合わせて何十回、何百回と繰り返す。
続けていると、役に飲み込まれるように、実生活と役が混ざってしまった。
悲しいと思ったら泣く。面白い時は大笑い。劇的に表現する、迷惑な大人だ。
よく言えば破天荒、それは破滅と隣り合わせでもある。
このままでは、狂ってしまう。穏やかに生きたい。
そして、役者を辞めた。
さぁ、ここから先は穏やかに暮らせる、自分でいられると一安心。
しかし、そんなことはなかったのである。
舞台こそ真実だと言ったように、人生にはドラマがある。
舞台は誇張されているだけで、その元になっているのはリアルな人生だ。
恋人とのすれ違い、両親との衝突、酔っぱらっての失敗……。
誰だってあるはずだ。思い出したくないから記憶に蓋をしている。
蓋を開けてしまえば、ため息がでる、胃のあたりがキュッとなるような記憶。
理不尽を感じれば怒りがわくし、人と出会えば別れることもある。
穏やかな人生なんてあるのだろうか。
その疑問を解決したくて、ヨガにはまった。
そして、瞑想やヨガ哲学についての本を読んでいた時だった。
あるページを読んで、手が止まった。これを、知ってる、と思った。
その本を書いたインドのお坊さんが言うには、
私たち人間は社会の中でみんな「役」を演じている。
例えば、一人の女性は、「母親」であり「妻」だ。
上司、後輩、親友、妻、取引先、客……様々な役を。
そして、穏やかに幸せになるにはどうしたらいいか。
役と自分自身の間の「距離」を保つ練習をしなさいと言うのだ。
「仕事がうまくいかない会社員」という役のまま、家庭で「母」「妻」という役でいると、相手は困惑する。
一つの問題が違うところで火種になる。
たくさんの役の感情に支配され、「私」がわからなくなる。
人生が混乱する。
これは役者の時に強く経験したことだった。
読みながら、ある70代の名俳優の言葉を思い出した。
「役を演じている時は、すぐ後ろでその役を見ている感じなんだ。完全に重なっているのではなく、すぐ後ろで自分を見ている感じなんだ。遠すぎてもダメなんだ」
なるほど、何十年も俳優を続けてる人というのは、そのように、自分と役の距離を上手に取れる才能なのではないかと思い当たった。
だから、名優は苦しい人生、悲しい人生、幸せな人生を繰り返し演じて、正気でいられるのだろう。
あの頃、狂ってしまうと思った私は、役と自分を重ねすぎていただけだ。
しかし、その役者の技術はリアルな人生でも必要である。
インドのお坊さんは言う。
自分と役が重なってしまったとき、静かに座り、観察しなさいと。
例えば、夫が家事に協力してくれない。妻は怒り狂う。なんでやらないんだ。
そんな時、夫から離れて、静かに座る。
妻という役を静かに観る。
名俳優のように、そっと後ろから観察するような感じだ。
もちろん、妻として、怒るべきだ。話し合うべきだ。
しかし、「私」は、怒っているか?
「妻」という役を演じている私の、さらに後ろにいる「私」を思い出す。
役を演じながら、その役の少し後ろ側で見ている、役者のように。
これが、私の言う「瞑想」だ。舞台役者の技術である。
そうして、自分と役の間に空間があれば、自分と状況の間にも空間ができ、飲み込まれずに済む。
穏やかでいられるのだ。
そして、穏やかさは冷静さを生み、最適な選択をできるようになる。
それが瞑想の効果である。
それでも、また重なる。
また、飲み込まれる。
だから、また後ろから見る。
それを繰り返しながら、
少しずつ、生きることが上手になればいい、と思う。
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