これから何をして生きて、何でごはんを食べて行こうか?《週刊READING LIFE Vol.30「ライスワークとライフワークーーお金には代えられない私の人生テーマ」》
記事:中川文香(READING LIFE編集部公認ライター)
「私はこれから、何をして生きていって、何でごはんを食べていきたいかなぁ……」
今から約二年前、ぼんやり実家の庭先を眺めながら考えていた。
別にこれまでの人生を悲観してとか、自暴自棄になって、とかの感情からではない。
心から、純粋に、自分に問いかけていた。
今から約二年前、私は実家に出戻った。
元々生まれ育った鹿児島を離れて福岡で働いていたのだけれど、仕事を辞めて戻ってきたのだ。
ハードワークで体調を崩したので「ちょっとだけ休もうかな」という思いから。
実家の両親は健在。
“30代独身、無職、実家住まい” という、ある意味最強の肩書付きの凱旋だった。
3月末で仕事を辞め、引っ越しの手配や福岡でお世話になった方々に挨拶に行ったり、前職で人手が足りないというときにスポットで手伝いに行ったりということをしていたらあっという間に4月が終わろうとしていた。
ゴールデンウィークの直前くらいに荷物をまとめて実家に帰り、そこからしばらく無職の日々を過ごした。
最初はのんびりゆったり過ごしていた。
けれど時間が経つにつれて、不安が大きくなってきた。
「こんなに働いていなくて、また仕事をはじめた時についていけるだろうか」
「何もしないで毎日過ぎていって、私は社会から必要とされていないんじゃないか」
仕事を辞めてから一ヶ月以上。
それまでこんなに長期間働かないなんてことが無かった私はだんだんと自分自身が心配になってきた。
休める気楽さよりも働いて誰かの、何かの役に立ちたいという気持ちのほうが強くなっていった。
「とりあえず、何か仕事しよう。これから何をしていきたいか考えるのはそれからでもいいや」
そう思って仕事を探し、運良く働き口が見つかった。
事務職はやったことが無かったけれど、分からないことは人に聞くなり調べるなりしてなんとかなった。
前職がシステムエンジニアだったので、新しいことを自分で調べるということには慣れている。
だんだんとそのことが周囲に広まり、「Excelがおかしくなった」とか「メールが受信できない」とかのパソコントラブルが起きると、他課の問題であるにも関わらず私に電話がかかってくるようになった。
解決できたものも、もちろん解決できなかったものもあるけれど、その都度「ありがとう」と言われた。
システムエンジニアと事務、あまり関係ないと思っていたけれどこれまでの経験がダイレクトに仕事の役に立った。
仕事を再開してだんだんと慣れてきた頃、友人と一緒にコミュニティFM局でラジオ番組を作らせてもらう機会を得た。
「元々、ちょっとラジオをやってみたかった」という友人に “面白そうだね” と乗っかる形で、仕事とは全く関係なく、完全プライベートで一緒に企画書を作り、ラジオ局に持ち込み、取材に行き編集をして生放送の一つの番組を作り上げた。
話すことに自信の無かった私は放送当日まで不安でいっぱいだったけれど、放送が始まるととにかく楽しかった。
私たちが小さなスタジオで話していることが街中で、カーラジオで流れてそれを聴いている人がいる。
放送が終わって興奮冷めやらぬ中、「今回は単発の番組だったけれど、定期で番組に出演しないか?」というお話をいただいた。
定期的にパーソナリティーをさせていただくようになってしばらく、だんだんと職場でそのことが広まっていった。
「聴いたよ!」と声をかけてくださる方もいた。
ある日、職場で「式典の司会を出来ないか」と上司からもちかけられた。
“普段ラジオ局でパーソナリティーをやっているから、司会をお願いしたい” ということだった。
司会はやったことがない。
でも、なかなか与えられないチャンスだと思ったし、面白そうだとも思った。
「私に任せていただけるのであれば、がんばります」
そう答えて直前まで練習を繰り返し、本番を無事終えて周囲からも評価していただけた。
“ライフワーク” って何だろう?
「これから何をして生きて、何でごはんを食べて行こうか」
あの、実家に戻ってきたばかりの頃の私は確かにそう考えていた。
自分の “ライフワーク” って何だろう? と。
何か自分のやりたいことを探して、それがライフワークになれば良い、と思っていた。
でも現実問題、お金を稼いでごはんを食べていかなければならない。
その壁にぶつかって、私はひとまず仕事をしなくちゃと働き始めた。
それはいわゆる “ライスワーク” だったのかもしれない。
けれど、「とにかく働こう」とはじめた仕事をしていくうちに、想像していなかったところでこれまでの経験が役に立ち、思いがけないところで趣味からはじまったことが仕事に影響を与えたり、自分の予想の範疇を超えて様々なものが繋がり始めた。
そうして気付いた。
“ライフワークとは、自分で探して見つけるものではない。ライスワークを続けていったら自然とライフワークになっていくのだ” と。
“ライスワーク” と “ライフワーク” の関係って、きっと森の木のようなものだ。
ごはんを食べるために何か仕事をする。
仕事をしていく中でスキルが身につき、出来ることが増えていく。
出来ることが増えると、それを使ってやりたいことが生まれる。
周りから新しい機会を得たりもする。
やりたいことを追いかけたり、周囲の要望に応えていくとまた出来ることが増え、今度はそれでごはんを食べていけるようになる。
すると、それが “ライスワーク” であり “ライフワーク” にもなる。
“ライスワーク” を育てて、小さな芽だったものを時間をかけて大きくしていく。
細くて頼りない茎が、だんだんと太い幹になっていく。
やがて実がついて地面に落ちるとその種から新しい芽が出て、良い環境で芽吹いた新芽がまた大きく成長していく。
例え木や芽が枯れてしまったとしても、それらは土に還って新しい芽の栄養になる。
私がこれまで経験してきたことはすべて、これからの私の栄養になるのだ。
「これが私のライフワークです」
と言い切れるものは、今の私にはまだ、無い。
けれど、今の自分に出来ることを淡々と積み重ねて、時には新しいことに挑戦し、失敗してやめてみたり上手くいって何かにつながったり、というのを繰り返しているうちにだんだんと自分のライフワークとは何なのか、見えてくるのだろう。
それは、ごはんを食べるためのライスワークでもあり、これをして生きていきたいというライフワークでもあり。
ある意味、「ライスワークなのかライフワークなのか、どっちなのかわからないや」という状態が一番幸せなのかもしれない。
❏ライタープロフィール
中川 文香(READING LIFE公認ライター)
鹿児島県生まれ。大学進学で宮崎県、就職にて福岡県に住む。
システムエンジニアとして働く間に九州各県を仕事でまわる。
2017年Uターン。Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
現在は事務職として働きながら文章を書いている。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。興味のある分野は まちづくり・心理学。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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