「超ひも理論」世界は10次元で、小さな”ひも”でできている!《宇宙一わかりやすい科学の教科書》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:増田明(READING LIFE公認ライター)
突然ですが、皆さんご存知のように、この世界には、縦、横、高さの3つの次元があります。この世界は3次元の世界です。
何を当たり前のことを言っているんだ? 当然だろ、と思うでしょう。そうですよね。わざわざ説明するまでもない。
しかし、実はそうではないのかもしれないのです!
実はこの世界は、縦横高さの3つのほかに、なんとあと7つの次元があるらしいのです。全部合わせると10次元あるらしいのです。
なんだって? と思いますよね。
さらにもう一つ、変なことを言います。
この世界にあるすべての物は、とても小さな小さな「ひも」が集まってできています。この世の全てがその小さな「ひも」によって説明できるのです。
何を言っているのかさっぱりわからない、といったところでしょう。なにかのオカルト話でしょうか。それが違うんです。これは最新の物理学理論で言われていることなのです。
その理論の名前は「超ひも理論」。
一度くらいはその名前を耳にしたことがあるかもしれません。
あなたの周りに理系人間、特に物理や数学など、より実用から離れたディープな学問をやっていた人がいませんか? いたならその理系人間に、「超ひも理論」って知ってる? と聞いてみてください。おそらく95%くらいの確率で、顔をパァァ! と輝かせ、
「え? 超ひも理論に興味あるの?」
と言いながら嬉々として説明を始めるでしょう。あまりにも熱く説明されて、ちょっと引いてしまうかもしれませんが、そこは少し我慢して聞いてあげてください。
私も理系人間で大学では物理をやっていました。なので御多分に漏れず超ひも理論が大好きです。ディープな理系人間は、ほとんど例外なく超ひも理論が大好きなのです。
超ひも理論は、すべてのディープな理系人間の「夢」がつまった理論なのです。彼らの「夢」が具現化した理論なのです。理系人間は例外なく激しく惹きつけられてしまうのです。
この一見オカルトな超ひも理論とはなんなのか? なぜ彼らを引き付けるのか? 今日はそのことを話したいと思います。
全ての物質の「素(もと)」は何か
さて、この世にはいろいろな物質があります。
石、砂、水、木、空気、など。それらは一見まったく別々のものに見えますよね。
古代ギリシャでは、別々のものに見える物質も、実は全て、火、水、土、風の四つの要素からできている、と考えられていました。
もちろん今ではそれが間違いだということはわかっています。しかしこの古代ギリシャの話には、ある重要な思想が含まれています。それは、
「世の中の一見複雑に見える物事は、実はごくシンプルな要素の組み合わせでできているはずだ」
という思想です。
これは、古今東西の科学者みんなが共通して持っている思想です。科学者はみな、この世の全てを、シンプルな要素の組み合わせで説明したい! という強烈な欲求をもっています。これは思想というよりも、むしろ信仰に近いですね。
その後時代が進み、研究が進んでいき、科学者はある大発見をします。
実はすべての物は、「原子」という小さな粒の寄せ集めでできている、ということがわかったのです。さらにその「原子」は、より小さな「陽子」「中性子」「電子」という3つの粒の組み合わせでできている、ということがわかりました。
科学者たちは大喜びです。
ほら! やっぱりそうだ! 一見複雑に見えるものも、こんなにシンプルな3つの粒によって全てできているんだ! 全て説明できるんだ! なんてすばらしいんだ!
ところが研究を進めていくと、その3つの粒もさらに細かい粒に分解できることがわかってきました。そして今では、その細かい粒は17種類あるということがわかっています。
その粒は「素粒子」と呼ばれています。科学者達はこぞって「素粒子」の研究を行い、華々しい成果を上げていきました。
しかし科学者たちはどこか不満でした。
う~ん、17種類か……多いんだよなぁ。最も基本的な要素が17種類もあったら、シンプルじゃないんだよなぁ。
この世の全ては、シンプルな要素の組み合わせで説明できるはずなんだ。なにかもっと基本的な要素があるはずだ。それによってシンプルに全て説明ができるはずなんだ。
この問題に、様々な科学者が取り組みました。
かの有名な、天才の代名詞として真っ先に名前のあがる、相対性理論を作ったアルバート・アインシュタインも、この問題に取り組みました。
アインシュタインは、人生の最後の20年間、この問題にひたすら取り組みました。しかしその問題を解くことはできず、夢を果たせないままこの世を去りました。
あの超天才アインシュタインですら、解くことができなかったこの問題。これが科学の限界なのでしょうか?
全てを説明する究極の理論
しかしアインシュタインが亡くなってから数十年、ようやくこの問題を説明する理論ができてきました。それが「超ひも理論」なのです。
「超ひも理論」によると、
この世界のすべての物質は、小さな小さなエネルギーの「ひも」によってできている。
一見17種類あるように見える素粒子は、全て同じこの「ひも」でできている。
なんのこっちゃ? 同じ「ひも」でできているなら、なんで17種類に分かれているんだ?
と思った人はするどい! 物理の才能があります。
例えば、ギターの弦を思い浮かべてみてください。
ギターは様々な種類の音を出すことができます。それは弦の抑え方や、はじき方を変えることで、弦の振動の仕方が変わるからなのです。
同じ弦でも、振動の仕方が変わると違う音が出るのです。
ひも理論の説明は、ギターの弦の説明によく似ています。
全てを作っている小さな「ひも」は振動しています。その振動の仕方が違いが、素粒子の種類の違いとして見えるのです。
なんと斬新な考え方でしょうか。よくこんなこと考えたな! と度肝を抜かれてしまいます。
さらに予想の斜め上をいく理論が展開されます。
ひも理論学者は、17種類の素粒子を、ひもの振動の仕方の違いで説明しようとしました。
すると困ったことがわかったのです。
「この世界が3次元じゃ次元の数が足りない……」
どういうことか説明しましょう。
例えば、1枚の紙を思い浮かべてください。紙は平面で2次元です。この紙にひもがへばりついていて、紙から離すことができないとします。
このひもを振動させようとすると、紙の表面にそった振動しかできません。紙にへばりついているので、紙から離れた高さ方向には振動できないのです。
紙からひもを離すと、高さ方向にも振動できます。紙にへばりついている状態が2次元、紙から離すと高さ方向が加わって3次元になります。
このように、2次元と3次元では3次元の方が、振動できる方向が増え振動のパターンが増えるのです。
つまり次元が増えれば増えるほど、ひもの振動のパターンが増えるのです。
ひも理論で17種類の素粒子を説明しようとすると、3次元ではひもの振動のパターンが足りないのです。もっと振動のパターンがないと、17種類の素粒子をひもの振動で説明できないのです。
普通ならここであきらめますよね。
この世は3次元なんだ。3次元では振動のパターンが足りないんだから、ひも理論は間違いだったんだ、残念……。
ところがひも理論学者はそうはならなかったのです。全てはひもの振動で説明できるはずだ! 3次元では振動のパターンが足りないということは、この世は3次元じゃないんだ!
さらにひも理論は突き進みます。いったい次元がいくつだったらつじつまがあうのか。
研究の結果、次の結論が導かれました。
「この世界は10次元だ」
おいおい、なにを言い出すんだい? 気でも狂ったのか? と言いたくなりますよね。
10次元の世界にしては3次元までしか見えないんだけど。のこりの7次元はどこにあるわけ?
ひも理論はこう説明しています。
のこりの7次元はとてつもなく小さい。顕微鏡で見ても見えないほど小さい。だからその存在に気づかないんだ。
なんか苦し紛れの言い訳のような……
子供がお母さんに黙ってお菓子を食べてしまったときに、お菓子は小さくなってしまっただけで僕は食べていない、と言い訳しているような、そんな風に聞こえます。
しかしこれもちゃんと理論的に説明がついているそうです。
17種類の素粒子を説明できるように、ひもの振動パターンを計算していくと、残りの7次元はとてつもなく小さくても問題ない、むしろ小さくなくてはいけない、という計算結果が出ているのです。
ただ苦し紛れに「うるせーな、小さくて見えないんだよ!」と言い訳しているわけではないのです。
以上のことから
「この世界は10次元で、小さなひもによってできている」
と言うことができるのです。
すごい理論ですよね。
ひも理論の弱点
しかしひも理論には大きな弱点があります。まあこの弱点が逆に大きな魅力でもあるのですがね。
実はひも理論は、完全に机上の空論なのです!
ひも理論はとても小さな「ひも」やとても小さな「次元」を扱っているため、実験で確認ができないのです。現代の科学では「ひも」や「次元」は小さすぎて観測できないのです。実験で何一つ裏付けられていないのです。
なのでひも理論が本当なのか、それはわからないのです。
ただ、理論的には何も問題がない、理論的にはひもで完璧に世界を説明できている。
そういうことなのです。
一見複雑に見えるこの世界を、全て机上の理論で完璧に説明できてしまう。「ひも」というシンプルな要素で、全てのことが説明できてしまう。それが理系人間を大興奮させるのです。理系人間を惹きつけてやまないのです。
さて、なんとなくひも理論がどんな理論なのか、イメージだけでも掴むことができたでしょうか?
ディープな理系人間が見ている世界
ではここからは、理系人間が、ひも理論に限らず、高度な物理理論を学び理解したときに、何を感じているのかについてお話していきたいと思います。
ひも理論などの高度な物理理論を理解すると、普段は隠されていてなかなか見ることができない、この世界の究極の真理を見たような気になります。
一見ごちゃごちゃとして、何が起こるかわからない、混沌としたこの世界。
日々予想通りにいかないことばかりです。
人はこの混乱に満ちた世界を、毎日必死に生きています。理系人間も例外ではありません。
しかし、物理理論のシンプルで整然とした世界にふれると、この混乱に満ちた世界の奥深くに、究極に美しい真理が潜んでいるということを、はっきりと感じるのです。
その真理を感じた時、まるで人が知ってはいけない、神のみぞ知る真理を知ってしまったかのような、ワクワク感を感じます。
パンドラの箱を開けてしまったかのような、禁断の果実を食べてしまったかのような、刺激的な喜びを感じるのです。
その真理の世界は、美しく調和に満ちています。
目まぐるしく変わっていく現実世界と違い、その真理は今も1億年前も変わらず、100憶年後もかわらないのです。
近所でも、地球の反対側でも、遠く宇宙の彼方でもかわらないのです。
物理理論にふれたとき、とても美しく静かな、調和に満ちた世界のイメージが私の頭の中に浮かびます。
それはまるで美しい絵画を見たような、美しい音楽を聞いたような、そんな感覚です。
その世界は、写真に撮ったり、絵に書いたりして人に見せることはできません。物理理論を自分で理解したときにだけ見える、特別な世界です。
その世界を感じるとき、日々の生活で四苦八苦している、ちっぽけな自分の存在をひと時忘れることができます。
その世界を感じることができるから、私は物理が大好きなんだと思います。
私は子供の頃から理科好きで、将来は物理学者になり、アインシュタインのようにこの世界の究極の真実を解き明かしたい、という夢をもっていました。
しかし大学で物理学科に入ったものの、私には物理学者になるほどの能力はありませんでした。物理学者になれるのは、一握りの選ばれた天才達だけだったのです。
私以外にも、同じような夢をもっていたかつての理科好き少年達はたくさんいます。そのたくさんの少年達の中から、才能と努力を兼ね備えた、一握りの選ばれた天才たちが、夢をかなえ学者となり、研究を続け、ひも理論を作り上げていったのです。
この世界の真実を解き明かしたいと夢見た、かつての理科好き少年達の、全ての夢がひも理論には込められているのです。
今は私は普通の会社員で、物理とはあまり関係のない仕事をしています。物理に触れる機会も減っています。
それでも私は、今も物理が大好きです。
天才たちの作り上げた難解な理論の、表面を理解することしか、今の私にはできないかもしれませんが、それでも物理が大好きです。
物理が大好きだから、このような文章を書いて、読者の皆さんに物理の面白さを少しでも伝えていきたいと思っています。
それが、大好きな物理学に関して、今の私ができる精一杯のことなんじゃないか、そう思っています。
もし、この文章を読んで皆さんが、物理の面白さ、世界観を少しでも感じることができたなら、私はとても嬉しいです。
【参考文献】
「エレガントな宇宙」ブライアン・グリーン 林一・林大=訳 草思社(2001)
❏ライタープロフィール
増田 明
神奈川県横浜市出身。上智大学理工学部物理学科卒業。同大学院物理学専攻修士課程修了。同大学院電気電子工学専攻修士課程修了。
大手オフィス機器メーカでプリンタやプロジェクタの研究開発に従事。父は数学者、母は理科教師という理系一家に生まれる。子供の頃から科学好きで、絵本代わりに図鑑を読んで育つ。
学生時代の塾講師アルバイトや、大学院時代の学生指導の経験から、難しい話をわかりやすく説明するスキルを身につける。そのスキルと豊富な科学知識を活かし、難しい科学ネタを誰にでもわかりやすく紹介する記事を得意とする。
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