パワフルシニアに学ぶ、人生100年時代の生き方

インディアンネームを持つ81歳の現役ジュエリー作家〜人生100年時代に私たちはどう生きていくか〜《WEB READING LIFE「パワフルシニアに学ぶ、人生100年時代の生き方」第1話》


2022/05/11/公開
記事:田盛稚佳子(READING LIFE編集部公認ライター)

「インディアンジュエリー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
シルバーのアクセサリーでしょ? と即答できる方がいるかもしれない。
華奢というよりは大きめなアクセサリーで、男女問わずにつけられるというイメージはできても、実際に手に取ったり、または身につけている人を目にしたことがある方は意外と少ないのではないだろうか。

歴史を紐解いてみると、インディアンジュエリーが生まれたのは1700年代だという。
当時のアメリカの先住民であるインディアンたちが、西洋人から手に入れた道具を使い、また白人たちが持ち込んだといわれる硬貨を潰して加工し、シルバー素材として装身具を作り始めたことに由来する。
シルバーのみで作られるブレスレットやリングなどが多いが、鉱物と組み合わされて作られることもある。
その鉱物の中でも最も有名なのは、ターコイズという美しいブルーの石である。

このターコイズはインディアンにとっては「財産」そのものであり、採石される鉱山ごとに石自体のオリジナリティがあるというのも特徴の一つである。
なぜ「財産」とまで言われるのか?
それは、インディアンたちの居住地域に深い関係がある。
どこまで行っても赤土の地面が広がる砂漠地帯に住んでいた彼らは、ある時、その台地のひび割れの奥のほうから、水のように澄んだ色の青い石を発見したという。
その青い石(ターコイズ)を見つけたインディアンたちは、
「水の石だ!! 空の石だ!!」
と歓喜したそうだ。そして、その喜びあふれる気持ちを歌い上げ、舞い踊りながら神に感謝の祈りを捧げたと言われている。
それ以来、命の水であり天の恵みの象徴でもあるターコイズは、人々に生きる力を与える石だとされてきた。
一つとして同じ模様がない石(マトリックスといった断面に黒や茶色の模様が入っているものもあれば、つるりとしたものもあり、さまざまである)を使って、ひとつひとつ時間をかけて手作業で作り上げられる。
日本では、1980年代以降に流行したアメリカンカジュアル、いわゆるアメカジによって定着し、ファッションアイテムというだけでなく、その独特のデザインや色に魅了された人々によって、現在ではコレクションとしての価値も持ち合わせている。

今回紹介したいのは、そんなインディアンジュエリーを作り続けて30年。
福岡県在住のTammyさんこと猪口民枝(いのぐち たみえ)さん、御年81歳のインディアンジュエリー作家である。ここでは「民枝さん」と呼ばせていただく。
30代から趣味で彫金を始めて、普通の主婦として生きていた民枝さんが、なぜインディアンジュエリーを作るようになったのか。いったい何が起こったのだろうか。
個展の準備でお忙しい中、話を伺うことができた。

「初めてインディアンジュエリーを見たのは、30歳前だったかしら。旅行先のアメリカのレストランで陳列されていた作品を見て、私もこんなの作ってみたい! と思ったんですよ」
作品を「買いたい」ではなく「作ってみたい」と考えたのだ。
当時は民枝さんご自身が身につけたいと思うリングのデザインものがなかったのだという。
だったら、自分で作ろう! と彫金を習い始めたのが35歳だった。
結婚してからは、専業主婦ではあったものの、学生時代から得意だった英語を活かして、よく中高生に英語を教えていたのだという。
民枝さんご本人はまだそう思っていなくても、その頃から海外へ行くストーリーは着々と作られていたのかもしれない。

2021年11月に初めて民枝さんの個展を訪れた。
福岡市内のギャラリーに入った途端、その作品群に圧倒されてしまった。
デザインの細やかさ、ターコイズやヒスイ、インカローズなどシルバーと組み合わせている石の存在感がすごいのである。
アクセサリーショップでこんなに大きな石を使っているのを見たことがないというくらいの半端ないサイズ感。
ふと気づくと、言葉も出せずにギャラリー内に並べられた作品に見入ってしまっていた。
「ぜひ、リングも自由にはめてみてちょうだい。見るだけでなく身につけてみると、似合うかどうかが、よくわかるから」
と民枝さんはにっこり笑いながら薦めてくださった。
たしかに民枝さんのおっしゃるとおり、一目見て素敵だと思ったリングをつけてみると、まるで指に新しい生命力が宿ったかのような強さを感じる。

女性の方であれば、ジュエリーショップなどでダイヤモンドやサファイアなどのキラキラした宝石を身につけた時の高揚感と、自身の指がより美しく見える経験をしたことが一度くらいはあるだろう。
民枝さんのジュエリーは、そのキラキラ感とは多少異なるものではあるが、「生」というものを強く感じられるのだ。
ターコイズに惹かれる理由は、それがインディアンたちにとっての命や恵みの象徴であり、その作品から放たれる「生きる」力があるのだと、実物を拝見して納得した。
やがて、趣味で始めた彫金がベースとなり、民枝さんはインディアンジュエリーへの道を志すようになる。
しかし、その転機は悲しくもあり、決してその行程は順風満帆とは言えなかったのである。

≪第2話へつづく≫

□ライターズプロフィール
田盛 稚佳子(READING LIFE編集部公認ライター)

長崎県生まれ。福岡県在住。
西南学院大学文学部卒。
地域で活躍する人々の姿に魅力を感じ、人生にスポットライトを当てることで、その方の輝く秘訣を探すべく事務職の傍ら執筆する日々を送る。

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