週刊READING LIFE vol.251

夜更かしの相棒は、生後1ヶ月の娘の演奏だった《週刊READING LIFE Vol.251 夜ふかしの相棒》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/2/26/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズX)
 
 
「赤ちゃんの夜泣き、大丈夫ですか?」と聞かれることが増えた。しかし、まだ夜泣きで困る時期ではない。娘が産まれて、まだ1ヶ月である。一般的には、生後2~3ヶ月から1歳半くらいまでの赤ちゃんが、急に夜中に泣き出すことがあるらしい。
 
娘の夜泣きで、私は困ったことはないが、睡眠不足になったことがある。それは、同じ部屋で、娘と寝た日だ。夜から翌朝にかけて、娘は規則正しい生活を送っている。午後9時にミルクを飲んで寝る。次に目覚めるのが、深夜0時、その次が午前3時、最後に午前6時に目覚め、1日をスタートさせる。
 
週1回のペースで、私は娘と一緒の部屋で寝る。普段の私であれば、午後11時から午前7時まで睡眠を取る。しかし、娘と寝る日の私は、夜更かししてしまう。なぜなら、娘のことが気になって眠れないからだ。午後10時30分には、ベッドに横になる。しかし、なかなか寝ることができない。あと90分もすると、娘が泣き出すからだ。
 
それでも、毎日の習慣の影響なのだろうか。午後11時を過ぎると眠たくなる。いよいよ眠りにつく瞬間、娘が泣き出す。私は、慌てて起き上がり、ミルクをつくり、娘に与える。そして、オムツを交換する。時計を見ると深夜0時30分だ。
 
改めて寝ようとすると、眼が冴えて眠たくならない。二度と、眠気が襲ってこない気がする。
このような時、どうすれば良いだろうか? 「iPhoneやiPadを、夜更かしの相棒にしようか」という考えが、頭の中をよぎる。しかし、これらのデバイスを見てしまうと、興奮してしまい、さらに眠れなくなる。たとえ眠れたとしても、睡眠の質は落ちてしまう。
 
「目を閉じて、ベッドに横になるだけでも、6割~8割の睡眠時間を確保したことになる」という話を思い出した。30年以上前に、母親および中学校の先生が言っていた。10年くらい前に読んだ本でも、同じようなことが書かれていた。
 
例えば、目を瞑り8時間ベッドに横になることは、眠れなくても、4.8時間から6.4時間の睡眠時間に相当するらしい。一方、これを真っ向から否定する説もある。眠れないにもかかわらず、ベッドに横になっていると「ベッドは眠れない場所だ!」と脳が認識してしまう。さらに、その認識が続くと、本当にベッドで眠れなくなってしまうという説だ。
 
このような真逆の情報を取り入れた場合、どちらを選択すべきだろうか。私は、目を閉じてベッドに横になることを選んだ。理由は二つある。一つ目は、夜の育児当番で、熟睡できるはずがない。少しでも眠れたら、ラッキーだと考えたからだ。二つ目は、目を閉じるだけで情報が遮断される。この状態が続けば、頭と体の疲労が少しでも回復すると推測したからだ。
 
夜更かしの相棒には、娘がいる。そう思い、瞼を閉じて、ベッドに横になった。しかし、一向に眠気は襲ってこない。相棒の娘は、すやすや寝ている。後、2時間ほどすれば、再び娘が泣き出す時間だ。そう考えると、ますます眠れなくなる。
 
眠れず焦っている私に、「う~っ」という声が聞こえてくる。娘の唸り声である。唸り声を出すのは、新生児期の赤ちゃんに共通して見られる現象である。この現象が、なぜ起こるのか、はっきりとした原因はわかっていない。しかし、赤ちゃんが元気で過ごしているなら、生理現象の一つとして、特に心配しなくてもいい。
 
心配はしなくてもいいが、今度は唸り声が気になって眠れない。この時、私の夜更かしの相棒は、娘自身ではなく、娘の発する唸り声になっていた。唸り声は、「う~っ」だけでなく、「うっ、うっ、うっ」や「ぶ~っ」など、三つほどのバリエーションがある。
 
私は、その不規則に発せられる唸り声を、夜更かしの相棒にし、ベッドに横たわり続けた。しばらくすると、唸り声から泣き声に変わった。「ミルクの時間だ!」時計を見ると、午前2時30分だった。私は再び、ミルクをつくり、与え、そしてオムツを換えた。
 
その後、娘は、すやすや寝息を立てて眠りについた。一方、私は、さらに目が冴えてしまい、眠れそうになかった。時計の針は、午前3時40分を指していた。私は、このまま起きるか、引き続きベッドに横たわるか、迷った。育児は、この日だけでなく、明日も明後日も続く。そう考えると、少しでも心身の回復に努めたほうがいいと判断し、目を閉じて横になった。
 
娘の様子に注意を払う。今度は「ヒック、ヒック」と、しゃっくりを出している。しゃっくりは、夜間だけでなく昼間も起こる現象だ。新生児は、ミルクと同時に空気を飲み込む。そして、膨らんだ胃が横隔膜を圧迫して、しゃっっくりが出る。唸り声と同じく、生理現象なので心配する必要はない。
 
とは言え、静かな部屋の中でのしゃっくりは、昼間以上に気になってしまう。唸り声の次に、しゃっくりも、私の夜更かしの相棒になった。さらに、しゃっくりと同時に、娘は手足を伸ばす。その際、掛けている毛布を「バタバタ」と蹴飛ばす。このバタバタで身長が伸びると言われている。そして、蹴飛ばしが落ち着いた後は「す~す~」という寝息を立てる。静かになったかと思うと、「う~っ」という唸り声に戻る。
 
私は、娘が奏でる四重奏「う~っ」、「ヒック」、「バタバタ」、「す~す~」を相棒にした。そして、娘に変わったことが起こらないか、その演奏を注意深く聞いていた。目を閉じて横になるという姿勢も続けながら。「全く、眠たくならない!」という気持ちが湧き上がると同時に、若き先輩パパたちの話を思い出した。
 
「赤ちゃんと同じ部屋に寝ていましたが、泣き声に気づかず。代わりに妻が起きて、ミルクとオムツの当番を務めてくれました。お恥ずかしい限りです」という失敗談を、数名のパパから聞いた。
 
20代や30代前半の男性は、眠りも深いだろうから、赤ちゃんの唸り声だけでなく、泣き声にも気づかないのだろうか。それに比べて、自分は寝息ですら気になって眠れない。40代後半にもなると眠りが浅くなるのか。それとも、自分が神経質で繊細なだけなのか。もう少し、図太い神経が欲しい!
 
と、眠れない自分を責めていると、娘の泣き声が聞こえた。「起きなきゃ!」と思うものの、身体が動かない。目は覚めているが、身体は眠ったままだ。ようやく身体を起こすと、目の前に妻が立っていた。「おはよう。ここからは、私がやるよ!」と言って、ミルクとオムツの当番を引き受けてくれた。時計の針は、午前6時40分を指していた。
 
いつの間にか3時間ほど寝ていた。娘の四重奏や神経質という自責の念は、夢の中の出来事だったのだろうか。いや、自責の念はともかく、娘の演奏は確かに聴いていた。それが、耳心地よく、私の眠りを誘ってくれたのであろう。さすが、夜更かしの相棒だ、私の熟睡を手伝ってくれた。
 
目覚めた私は、思ったよりも寝不足になっていなかった。睡眠時間を計算すると、ベッドに横たわっていたのが4時間。これは3時間の睡眠時間に相当する。そして、いつの間にか3時間眠っていた。合計すると6時間相当の睡眠だった。
 
娘が産まれる2ヶ月前、私は妻と両親学級に参加した。これから父や母になる人たちを対象に、助産師からレクチャーを受けた。その講義の中で「育児期間中は、最低でも1日6時間の睡眠を確保してください。細切れでもいいので、1日合計6時間は夫婦ともに睡眠をとってください」と言われた。それくらい寝ないと、育児を継続できないからだ。私は、この最低限の時間を保ったため、極端な睡眠不足にならなかった。
 
この経験から学んだのは、「赤ちゃんが発する小さな声と音は、心身の疲労を回復させてくれる」ということである。確かに、娘と寝る日の私の睡眠時間は短くなる。しかし、娘が織りなすハーモニーが、私の疲労を予想以上に回復させてくれた。
 
それでは、私の疲労回復を邪魔するものは何だろうか?それは、私自身の考え方である。「眠れなかったら、どうしよう……」という心配や、「何て自分は繊細なのだろうか……」という自責の念である。
 
このようなネガティブ思考を、いきなり払拭するのは難しい。「ネガティブに考えないようにしよう!」と思っている時点で、否定的な考えに焦点を当てているからだ。では、どうすればいいだろうか?
 
それは、思考とは別のところに焦点を当てる。私は娘の四重奏に焦点を当てた。つまり、聴覚に意識を集中させた。その結果、心配事や自責の念への意識が低下した。4種類の音を聞き分けながら、ネガティブな思考を持つなど、私にはできなかった。私は2つ以上の作業を同時にこなす、マルチタスクができない。
 
育児は、まだまだ続く。私は、今、育児休業を取得しているが、1ヶ月半後には職場復帰する。そうすると、仕事と育児の両立が求められる。しかし、私はマルチタスクに該当する両立はできない。そのため、育児の時間は育児に専念し、仕事の時間は仕事に専念する。なぜなら、「1つのことに集中しなさいよ」と、夜更かしの相棒が教えてくれたからだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳で第一子の父親になり、男性育児記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

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2024-02-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.251

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