週刊READING LIFE vol.253

生きる意味にカラフルを紐づける《週刊READING LIFE Vol.253 カラフル》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/3/11/公開
記事:やすこ(READING LIFE編集部ライティングX)

「やすこ、なんでこんな良い条件の人断るの? もったいないよ」
「なんで、こんな安定した仕事、収入があるのにそっちの道選ぶの? 信じられない」
なんで、なんで、なんで……。

わたしこそ、こういう質問に、なんで? と思う。
なんで、決まった価値観に私を当てはめるのかが分からない……。

条件の良い人と結婚したから一生勝ち組なの?
安定した仕事に就けば一生安泰なの?
金持ちだったら一生幸せなの?

そうかもしれないけど、でもそうじゃないかもしれない。
だから、私は自分の人生は自分で決める。

自分の人生の運転手は私自身。そこを忘れたくない。

私は一般的に見ればマイノリティの人間だ。
考え方も変わっているのかもしれない。
でも、一度も不幸せだと感じたいことはない。
たくさん失敗もして、たくさん涙も流して、苦しい時も、悲しい時もそれなりに乗り越えて……。振り返れば、私の人生なぜこんなにチャレンジが多いのだろうかと嘆いたこともある。

でも、一度も自分が選んできた人生を後悔したことなんてない。
それはすべて自分で決めた結果だから。
そして、その度に、どのような状況、環境でも、自分の幸せは自分次第だと学んできたから。

むしろ、こんな厳しい世の中を何とかひとりでも生き延びている自分が大好きだ。

このような私でいられるのも父と母のおかげだと思う。

「違いはらしさ」とまるっと受け入れ、信頼してくれているからこそ、私は自分色のカラーを放つことができている。素敵な人との出会いや貴重な経験や体験は私の人生を豊かな唯一無二のカラーへと染めていく。

違いに共鳴し、新たなカラーを彩っていくのだ。
それが私の人生だった。
今日は、そんな私の人生に気づきを与え、素敵な色合いを添えてくれたエピソードを紹介したいと思う。

友だちのフィールドは障がいに優る。
私は小さいころから違いに触れることが当たり前だった。

「かずちゃん、これ、プレゼント」

私は今日、友だちのかずちゃんにちょっとしたプレゼントを手渡した。
かずちゃんの手は力が入り、少し揺れていて、2つ折りの紙をうまく開くことができない。
しばらく経って、かずちゃんは、無事プレゼントの紙の中身を見ることに成功。

その瞬間、かずちゃんの表情がみるみる変わっていく。
かずちゃんの表情が緩み、目に涙が溜まり、抱えきれなくなった涙は目から溢れ、しずくになり、かずちゃんの手の甲にポツン、ポツンと落ちて小さな水たまりをつくる。

かずちゃんへのプレゼントは、かずちゃんの似顔絵と大好きと書いた二つ折りにした折紙だった。

かずちゃんは「あ~り~が~とととう~」と私に満面の笑顔でお礼の気持ちを伝えてくれた。

かずちゃんのお母さんも「やっちゃん、プレゼントありがとう。かずこ、やっちゃんのプレゼントがすごく嬉しかったみたい。かずこもやっちゃんのこと大好きなんだよ」と話してくれた。

かずちゃんの嬉しい気持ちが私の心も温かくする。
かずちゃんの気持ちが私の心にしっとりと浸透してくる。

かずちゃんに会う前日、母が「明日、かずちゃんに会うよ」と教えてくれた。
私は自宅にあった折り紙と色鉛筆とクレパスをつかって、かずちゃんへのプレゼントをカラフルな色合いで描き上げた。

かずちゃんとの出会いは、小学校1年生くらいだったと思う。
母の友人の娘さんで、私よりもうんと大きいお姉さんだった。
かずちゃんとかずちゃんのお母さんはよく私の家に遊びに来ていたので、物心付いた時にはかずちゃんという存在は、私にとって当たり前になっていた。
ある時、小学校の友人から「ね、昨日、やっちゃんのお母さん見たよ。障がいもっている人と一緒だった。やっちゃんのお母さん、えらいね」と言われた。

私はその時、その友人が何を言っているのか瞬時に理解することができなかった。

家に帰って「お母さん、昨日、誰と会っていたの?」と聞くと、
母は「かずちゃんだよ」と教えてくれた。

「今日ね、友だちから、お母さんが、昨日、障がいの人といたって言われたの。障がいって何」と後ろ姿の母に尋ねると、キッチンで夕食をつくっていた母が手を止め、私と目線が合うようにしゃがみ、優しい眼差しでニコッと笑った。
障がいに対し、母がどのような回答を私にくれたのかは記憶にない。しかし、母の雰囲気と周りの空気感は淡いピンクと黄色とオレンジがグラデーションになったようなとても優しい色をしていたことをしっかりと覚えている。

かずちゃんは生まれた時は障がいがない健常児として誕生した。3歳の時、かずちゃんのお母さんが目を離した瞬間にかずちゃんが道路に飛び出し、トラックにひかれ、一命は取り止めたが生活に支障がでる障がいを持ってしまった。かずちゃんの姿を見て、かずちゃんのお母さんは、自分を何度も何度も責め、かずちゃんと一緒に命を絶つことも考えたと大人になってから聞いた。

かずちゃんのお母さんは私の前ではいつも元気で笑顔だった。だから、そんな過去があるなんて知らなかった。

私にとってかずちゃんは、私の友だち。
かずちゃんの顔はいつも10度くらい傾いていて、口はゆがんで、話もゆっくりで、時間がかかる。手はいつも力が入り、少し揺れていて、親指と人差し指と中指の3本以外の指は閉じたまま、曲がっている。私は子どもで、かずちゃんは大人。探せば違いなんてたくさんあった。でも、私はかずちゃんのことがすごく好きだった。かずちゃんの傍にいると優しい気持ちになった。身体や言葉が不自由でも、そんな違い、まったく気にならなかった。

障がいって何だろう……。かずちゃんの違いは、個性なのだ。
私はそれを子どもながらに感じて、かずちゃんの存在を素敵なカラフルな色合いで表現していたのかもしれない。

大人になってからも自分の人生に気づきを与えた出会い、経験があったな……。

それは、西アフリカのセネガル共和国での出来事。

奴隷貿易発祥の地はカラフルなアーティストの島だった。

私は西アフリカのセネガルに2年間住んでいたことがある。
セネガルには日本のおもてなしと同じ概念であるテランガ文化があり、セネガル人の人懐っこく、陽気で、明るい人柄がとても大好きだった。

私は首都ダカールから車に乗り、2時間程で着くファティックに家も職場もあった。
仕事は、3園の幼稚園を巡回しながら日本の幼児教育の技術移転を行っていた。
その日、同僚のサリーとイベントでの出し物の相談をしていた。

「セネガル人の心に響く素敵な曲を教えて欲しい」

いつもおとなしく控えめで優しいサリーが、急に現地語のセレール語で力強く歌いだした。
私はその姿に驚き、圧倒されてしまった。

歌い終わったサリーに、どのような意味か尋ねると、
「昔、セネガルはフランスの植民地だった。やすこ、ゴレ島は知っている? 私たちの先祖は、16世紀から19世紀にかけて、西アフリカから多くの奴隷がセネガルのゴレ島を経由して新大陸(南北アメリカ)へと連れていかれた。船の中で奴隷たちは鎖でつながれ、ひどい環境下で生き延びなければいけなかった。航海の途中で病気になる奴隷もたくさんいた。まだ、生きているのに海に捨てられた人たちもたくさんいた。同じ人間なのに、肌が黒いというだけで、人に値段を付けられ、売られ、動物以下の扱いを受けていた時代があったんだよ。今、歌った歌はそのような悲しい歴史の歌だよ。やすこに知って欲しいと思ったの」

すごく衝撃的な話だった。軽い気持ちで聞いた質問にまさかの答えが返ってきてしまい、反応することができなかった。
私は日本と言う近代的な国からセネガルに来て、教育の技術移転をしていたが、もっとこの国のことを深く知らなければ、ここに住む人たちと心を通わすことはできないと感じた。

その後、機関紙の今年度の担当者として私は運よくゴレ島を取材させて頂くことになった。

ゴレ島は首都ダカールの港からフェリーで20分ほどにある。機関紙担当の同期のエリ姉と一緒に訪問することになった。セネガルは1960年にフランスから独立し、1978年にゴレ島は負の世界遺産として登録された。歴史上で意味を成す島として米大統領も訪問している。その日もフェリーは欧米人等の旅行客で溢れかえっていた。

負の世界遺産と聞いて、マイナスで暗いイメージを勝手に想像していたが、フェリーから降りると元フランス領の名残からかお洒落な建物、レストラン、音楽が流れてきて、奴隷貿易の悲劇的な過去がある島とは一見理解しがたい雰囲気だった。

私とエリ姉ははじめてのゴレ島訪問だったので、取材も兼ね、最も有名な場所である「奴隷の家」と「帰らざる扉」をまず行くことにした。

その場所で、私は、人は環境によって悪魔になれると感じたのだ。
セネガルは明るく陽気な国という固定概念が一気に崩れ去る。

奴隷の家は南国風に塗られた赤いファサードが印象的な2階建。
2階は奴隷たちを管理する白人の部屋。
1階は奴隷たちが収容された、湿った、薄暗い、劣悪な環境下の部屋だった。

過去の歴史の場として紹介されているが、今でも過去にダイブできそうなくらいリアルな現状が浮かんできて、意識的に苦しくなる。建物の外は真夏の太陽の光でギラギラしているのに、奴隷たちが収容されていた場所に立つと寒気がした。私もエリ姉も息をのむ。

その延長線にあるのが帰らざる扉。実際は扉などなく、光が差す長方形の先は海だった。奴隷たちはここから新大陸に送り出され、二度と故郷であるセネガルには戻ってくることができなかった。サリーの力強く、悲しい歌声が私の心に響いてくる。

ここでは人身売買が日常的に執り行われ、人が人の命を簡単に操作できる時代が存在していた。

今では負の世界遺産として登録されているが残虐的な行いを違和感なく日常になってしまう環境や心理的動機について人はいつでもきっかけさえあれば悪魔になれることを知る。

嫌なことは嫌。
間違っていることは間違っている。
自分の人生は自分で決める。

今では当たり前の自由や権利があるのも壮絶な歴史があるからだと感じざるを得なかった。

私とエリ姉は、奴隷貿易発祥の地の暗い過去にどっぷりとはまってしまった。
奴隷の家を後にしても尚その気持ちから抜け出すことはできなかった。
そんな私たちに反して、他の旅行客はケラケラと笑っている姿に違和感すら感じてしまった。

エリ姉とゴレ島をひたすら歩くことで気持ちがまぎれ、気づくと私たちはアートで溢れるストリートに到着していた。見渡す限り、カラフルなアフリカンアートで埋め尽くされていた。油絵、砂絵、彫刻、版画、銀細工等色々な作品が並ぶ。

私は1枚の油絵に心ひかれ、その絵をじっと見つめていると男性が近づいてきた。
「アッサラーマレイクン!」
「マレイクンサラーム!」
私たちは挨拶を交わす。
彼はオスマンと言い、ゴレ島でアーティストとして活動していることを教えてくれた。

「素敵な絵ですね」と伝えると、
「セネガルは悲劇的な歴史があるけど、苦しみ、悲しみに目を向けるのではなく、この作品のように、日々の暮らしの中にある幸せに目を向け、感謝することの大切さを伝えているんだよ。ゴレ島には年間たくさんの方が訪れる。だからこそ、私たちはアーティストとして、このような作品を通し、辛く、悲しい歴史が二度と起こることがないよう、祈りとメッセージを込めて活動しているんだよ! 実際に、ゴレ島だと作品も高く売れるしね!」と最後はセネガル人らしく茶目っ気たっぷりに語ってくれた。

決して忘れてはいけない歴史を受け入れつつ、恨みや苦しみで留まるのではなく、今を幸せに生きる選択は自分で選ぶのだと教えてもらっている気がした。

悲劇的で残虐性に満ちていた島は、今でも歴史が生き続けている。
私は、ここで見た、鮮やかでカラフルなアフリカンアートのストリートを忘れることはないだろう。サリーの歌声が聞こえてくる。サリーは、このような歴史があったことを私に気づいて、寄り添って欲しかったのだ。

時々思う。

人はなぜ辛い環境でも生きるという人生を選択するのかと。
生きることで、傷ついたり、傷つけられたり、社会との障害を感じたり、差別されたり、自分の価値を見失うこともある。

でもなぜ生きるのか。
その答えは、自分の心の中にある。

だからこそ、私たちは、様々な人と出会い、人生経験を積み重ねるごとに、新しい発見を得て、唯一無二のカラーを探し、集めていく。それがいつの間にか魅力的な彩あるカラフルな人生という作品を作り上げていくのかもしれない。

生きる意味にカラフルを紐づける。
生きてこそ、私たちはカラフルに変化し続けていくのだ。

□ライターズプロフィール
やすこ(READING LIFE編集部ライティングX)

愛知県生まれ、名古屋大学大学院(教育人類学領域)卒業、地方公務員、大手教育民間企業総合職、国際協力等の職を経て、2023年3月から埼玉県秩父郡横瀬町地域おこし協力隊全国初のウェルビーイング担当として着任。「横瀬町の一人ひとりの幸せとは何か」をテーマに活動中。月1回横瀬町の町民向けに紙媒体でウェルビーイング通信「ぬくとまる」を発行。SNSのnoteにて「横瀬町の日常で感じる幸せ」を随時発信中。メディア出演:JICA海外協力隊 DELIGHT THE WORLD第4回目出演

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2024-03-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.253

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