週刊READING LIFE vol.263

「常識」という名の足かせ《週刊READING LIFE Vol.263》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/5/27/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライティングX)
 
 
「ゆりちゃん、もうそろそろ、みんな白いサンダル履いてはる?」
 
これは、9年間の会社員時代、大阪へと通勤していた私に、初夏になると母が尋ねていた言葉だった。
時は1980年代だったが、当時は「夏になると白い靴、サンダルを履く」という人が多く、季節によって靴の色までも、みんなが気にしていたのだ。
特に母は、そういった「常識」というものに敏感で、その枠から外れることを強く嫌い、いつも周りの様子に合わせて行く人だった。
なので、都会である大阪を行き交う人達の行動が、今の常識と思っていて、私にいつも訪ねてきたのだ。
 
なので、娘である私にも、その類のことは口うるさく言ってきていた。
 
「会社が休みの日でも、外へ出る時はお化粧をしなさい。誰が見てはるかわからないでしょ」
 
「もう秋なのに、そんな白っぽい色のコート着て、おかしくないの?」
 
今思うと、とにかく自分がどうしたいか、よりも、周りの人にどう思われるかが重要であるというスタンスだった。
まだ日本が狭い地域の中で暮らしていて、その隣近所の人たちとのお付き合いこそが、生活の中で大切にしていることだった。
なので、みんなが周りのことを気にして生きていたような時代だったようにも思える。
なので、私にもこういったことを子どもの頃から、とてもうるさく言われて来た記憶がある。
 
母のこだわっていた「常識」とは、もちろん法律や厳しく取り締まられる規則ではない。
ただ、多くの人々がそのようにしなくてはいけないと、暗黙の了解のように縛られていることのように思う。
昭和の時代には、それから外れてしまうと、白い目で見られたり、後ろ指をさされたりして、居心地が悪くなることがあった。
とにかく、みんなが同じようなことをすることに安心感があったり、変な統一感を重んじたりしていたように思う。
 
何か、統制をとらなくてはいけない時にはとても有効なことなのかもしれないが、それによって縛られたようになってしまったり、そこから外れてしまったりすることを必要以上に恐れてしまうと、そもそもの意味が違ってくる。
多くの人が心地良く生きてゆくためにあるべきものであって、窮屈にしてしまうものではないはず。
 
私がこの独特とも思われる「常識」について、カルチャーショックを受けたことがあった。
会社員時代、生まれて初めての海外旅行で、同期の友だちとハワイへ行ったときのことだった。
空港から車で、ワイキキ周辺へと走っていた時のこと、すれ違うローカルの人たちが乗る車があまりにも汚かったのだ。
汚れているというようなレベルではなくて、ドアの表面が一枚はがれてしまっていたり、内側の鉄板が錆びている車があったり。
ドアやボディが、何か所も傷ついていたり、でこぼこしていたり。
あきらかに、洗車どころか、メンテナンスもしていない車が多かったのだ。
 
私が知っている、日本のお父さんたちが乗っているマイカーは、お天気の良い日曜日になると、時間をかけて洗車をして、ワックスで磨き上げて、毎日が新車か?と思うくらいにきれいだった。
それが、当時の日本の「常識」のようであって、私もそう思っていたのだ。
高い車を手に入れることが、ある意味ステイタスだった時代、やっとの思いで手に入れた車なのだから、きれいに手入れして、美しい状態で乗るものだと思われていたのだろう。
 
ところが、ハワイでのローカルの人たちの車は、とにかく移動手段の一つ、動きさえすればOKというように思えたのだ。
これには、目がテンになるほど、当時は驚いたものだった。
 
そういえば、ハワイの人たちは、常夏だからかもしれないが、服装もいたってラフだった。
ドレスコードがあれば別だが、そうでなければTシャツに短パンで、レストランでもデパートでも行っているのだ。
「ご飯を食べに行くんだったら着替えないと」という思考はないようだった。
国によって、何を大切にするのかということは、大いに違ってくるのだと、とても考える機会になった経験だった。
 
そう思うと、「常識」とは、その地域や人たちで、長い生活習慣の中で創り上げられていったものなのかもしれない。
誰かがそう言い出したのか、それとも何かきっかけになることがあって、そうなっていったのか、それはわからないが。
 
ただ、その常識も時代の流れや、置かれた環境によって柔軟に取り入れることが出来ればいいのだが、がんじがらめになってしまっているケースが多い。
自分だけの、自分への強制ならまだしも、他者にむけても、「そうあるべきだ」という目で見てしまうようになると、一体誰のための「常識」なんだろうと首をかしげたくなる。
 
皆が生活しやすく、生きやすいためにある「常識」であるべきところ、そうでないといけないという強制になると残念なだけだ。
それらによって、規制されていて自由を奪われていることほど、もったいないことはないはずだ。
 
1980年代、ハワイでのカルチャーショックからは、日本もずいぶん変わって行った。
個性を重んじ、自分の軸を大切にするように変化していったが、それでもまだ根強く心の中に古くからの「常識」を持ち続け、知らず自分を縛っている人も多いように思う。
特に、子どもの頃から親や周りの大人たちから刷り込まれた「常識」は、長年その人の心を縛っているケースが多いように思う。
 
その行動自体が、まるで自分を守り、世間から目立たずに卒なく生きる術となっているのかもしれないが、本当にそれでいいのだろうか。
目に見えない、まだ起こりもしていないことを恐れ、人と同じことをし続けることが善であると思い込んでいたら、ちょっともったいないと思うのだ。
その、思い込んでいる「常識」を今はずしたところで、本当に恐れていたような事態が起こるのかどうか。
そんな大切な検証は、ずっとされていないのだから。
 
もちろん、その「常識」に心から則って生きてゆくことが心地良く、やりたいことであるならば、それはそれでいいと思う。
その人のやりたいことをやっているのだから。
一番考えたいのは、無意識にその縛りの中にいて、自分の意志などを無視してしまってはいないだろうか、ということだ。
 
「常識」とは、便利なようで、一方では自分を苦しめてしまうやっかいなモノであるかもしれないのだ。
今、当たり前のように自分がしている行動も、一つずつ考え直して、選んでゆけると、「常識」とも良い距離感でお付き合いでき、自分の思いにも寄り添った人生へとなってゆくと思うのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライティングX)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

 
 

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2024-05-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.263

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