週刊READING LIFE vol.263

痴漢や変態みたいな行動が、娘の異常を教えてくれた《週刊READING LIFE Vol.263 ちょっと淫らな話》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/5/27/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライティングX)
 
 
異性の顔をジロジロと見る。異性の裸をマジマジと見る。異性のお尻や太ももをベタベタと触る。普通ならこんな行為は許されない。痴漢や変態扱いされてしまうだろう。しかし、私にはこれらの行為を許してくれる特別な異性がいる。それは、生後間もない娘だ。
 
育児の分担は、妻8割、私2割で、ほとんど妻に任せている。しかし、私が、娘が産まれる前から、準備していたことが一つだけある。それは、お風呂の入れ方だ。娘が産まれる2ヶ月前、私は妻と一緒に両親学級へ行った。そこで、私だけが、赤ん坊の人形を使い、お風呂の入れ方を練習した。
 
生まれたての赤ちゃんは、感染などを防ぐために、ベビーバスなどを使ってお湯に浸かる。これを沐浴という。生後1ヶ月くらいまでは沐浴、その後は大人と一緒の湯船に浸かれるようになる。つまり、入浴が可能となる。妻との間で取り決めたわけではないのに、沐浴と入浴はやはり私が担当することになった。
 
いきなり熱いお湯に浸かると赤ちゃんはビックリし、手足をバタバタしてしまう。そうなると身体を洗えなくなるため、沐浴でも入浴でも、私は娘を、ゆるめのお湯に、ゆっくりと入れていた。親の顔を近づけてあげると、さらに赤ちゃんが安心するため、私は自分の顔を娘に近づけていた。これが異性の顔をジロジロ見る行為である。また、湯船の中で、裸になった娘の全身に異常がないか隈なく見る。異性の裸をジロジロ見る行為である。
 
ある日、娘の顔を注意深く見ると、皮膚が乾燥しているように思えた。乾燥した部分から細菌が入っては大変だ! と思い、私は娘の顔にベビーシャンプーを、いつもより多めに付け、ボディタオル代わりのガーゼでゴシゴシと擦ってしまった。これが、一つ目の間違いだった。
 
現在では、沐浴もしくは入浴の時は、ベビーシャンプーとガーゼを使わず、赤ちゃんの顔を洗うことが推奨されている。お湯を使い、親の指で、赤ちゃんの顔を優しく撫でるだけで済ますのが一般的となりつつある。そのことを知らずに、しばらくの間、ベビーシャンプーとガーゼを使って娘の顔を、ゴシゴシと洗っていた。
 
すると、娘の顔の肌荒れは、さらに酷くなり、1ヶ月健診で、乳児湿疹と診断されてしまった。医師から「乳児湿疹用の塗り薬を処方しましょうか?」と言われたものの、「いりません!」と妻と私は断ってしまった。これが二つ目の間違いだった。
 
薬の副作用を避けるために、塗り薬の処方を断った。しかし、考えてみれば、乳児湿疹は、よく見られるお肌のトラブルである。安全で効果が十分に検証された医薬品が処方されるに違いない。仮に副作用が出たら、直ぐに塗ることを中止すれば良いだけである。私の仕事は製薬会社の営業であるにもかかわらず、薬の副作用ばかり心配し、効果の面を全く考慮しなかった。この二つの間違いにより、娘は1ヶ月間、乳児湿疹に悩まされることになる。
 
乳児湿疹が治ったと思ったら、次の問題が発生した。娘のお尻に赤い発疹が出来ていた。入浴する時、「蒙古斑にしては、赤いな……」とは思っていたが、実際に娘の裸をマジマジと見ると、お尻だけが赤い。
 
最初は、『オムツかぶれ』と思った。しかし、2時間に1回のペースで、オムツを交換している。汚れたオムツを、娘が履いている時間は短い。仮に「2時間に1回では、交換のペースが遅すぎる!」と言うのであれば、私と妻は仮眠もとれなくなってしまう。季節は冬であるし、汗やムレが原因とは考えにくい。オムツの擦れかもしれないが、オムツのサイズが大きく、娘にとってはブカブカである。
 
困った私は、先輩パパたちに相談してみた。幾つか回答をもらい、その中に「お尻拭きかぶれに注意してください。お尻拭きで、ゴシゴシ拭くと、かぶれますよ!」との助言があった。私には思い当たる節があった。
 
オムツ交換の時、排泄物で汚れた娘のお尻を、お尻拭きで力強く拭いていた。ガーゼで顔をゴシゴシと擦ると乳児湿疹の原因になるとの同様に、お尻拭きでゴシゴシとお尻を拭くと発疹の原因となってしまうのだ。
 
その日から、私はお尻拭きで、優しく娘のお尻を拭くようになり、落ちなかった汚れは、お風呂で落とすことにした。1週間ほどすると、娘のお尻の赤い発疹は消えた。
 
このように、育児に慣れていない父親のおかげで、娘の顔やお尻は、産まれて直ぐに荒れてしまった。「上司と親は選ぶことができない!」という言葉が、私の胸に突き刺さった。私は、この後も育児で失敗し、娘の肌を荒れさせるかもしれない。さらに娘を傷つけてしまうかもしれない。
 
私が育児で失敗しない唯一の方法は、『育児放棄』である。しかし、それは『家庭崩壊』に繋がってしまう。考えた末に私が出した答えは「娘に強くなってもらう!」であった。私が間違って、顔やお尻をゴシゴシ洗って、湿疹や発疹ができたとしても。それらが直ぐに治るような強い身体になってもらいたい。
 
肉体的な強さは、妻の母乳から得てもらう。精神的な強さは、どのようにして手に入れようか、と考えた時、『幸せホルモン』が、お尻から太ももを触ることで分泌されるという記事が目に入ってきた。
 
真偽のほどは不明だが、試してみる価値はある、と私は考えた。しかも、育児では、赤ちゃんのお尻や太ももを触る機会が多い。抱っこをする時、自分の腕や手で、赤ちゃんのお尻と太ももを支える。オムツ交換の時は、お尻拭きで赤ちゃんのお尻から太ももを拭く。入浴中は、お尻や太ももを自分の手で洗う。
 
私は、それ以外の時も、娘のお尻と太ももを意識的に触ることにした。娘は寝ている時のほうが多いが、時おり「キャッキャ、キャッキャ」と言いながら喜んでいる。この喜び方は、幸せホルモンが出ている証拠だ! と解釈し、少しの間、続けることにした。
 
娘は、私が思った以上のスピードで成長するだろう。顔ジロジロ見ていると、「顔、見ないでよ!」と言ってくるかもしれない。一緒にお風呂に入ろうとすると、「お父さんとは、一緒にお風呂に入りたくない!」と拒絶される時も来るだろう。
 
お尻と太ももをベタベタと触る。これだけは、娘に拒絶される前にやめるつもりだ。保育園に通うようになる前には。なぜなら、娘が私の真似をして、保育士や他の園児のお尻と太ももを、ベタベタと触ってしまわないように。
 
このように、顔をジロジロ見ず、裸をマジマジ見ず、お尻と太ももをベタベタ触らず、それでも娘の精神的・肉体的な異変に、父親として素早く気付かなければならない時がやってくるだろう。おそらく、娘は痛くても「痛い!」と言わず、辛い時でも「辛い!」と、口に出して言わない子に育つから。
 
今でも、保育園の下見に行くと、娘と同じ月齢の赤ちゃんは、泣き叫んでいる。しかし、娘は全く泣かない。スヤスヤ寝ているか、ニコニコ笑っている。これは、育児に不慣れな親である、私と妻を困らせないよう、娘が気を遣っているのであろう。どちらが親か分からない状態である。
 
いつまでも娘に気を遣わせる訳にはいかない。年齢を重ねた娘が、言葉や表情に出せず、心の奥底で、一人思い悩むことも出てくるだろう。今と同じく、親に心配をかけないように。それでも、娘がその悩みと一人で戦うことなく、親として娘の異変を察知し、黙って寄り添ってあげたい。
 
育児に不慣れな親のもとに産まれてきた娘のために、私は父親として、今後さらに成長しなければならない。親を選ぶことはできなかったが、この親のもとに産まれてきて、幸せだった。と、娘が思えるように。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライティングX)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳で第一子の父親になり、男性育児記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

 
 

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2024-05-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.263

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