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週刊READING LIFE Vol.28

知らないことを強みにして一番でる杭になれ《週刊READING LIFE Vol.28「新社会人に送る、これだけは!」》


記事:加藤智康(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「おまえと仕事したくないと思っていたよ」
「おれも、おれも」
「おまえ、相当とんがってたからな。やっかいだったよ」
 
と、入社して10年ぐらい経ってからの飲み会で、上司や先輩から言われた。
 
「え、そんなにとんがってましたっけ」
 
と思ってもなかったことを言われたショックを隠しながら、絞り出すように言った。
飲んでいたビールが途端に苦くなった感じがした気分である。
 
さらに、一人の先輩が、赤い顔して絡んできた。
 
「そうそう、何言っても反論してくるし、頑固でさ。本当にいやだったよ」
 
「勘弁してくださいよ、先輩。面と向かって言われるとなんといっていいのか」
 
「あ、でもなー、今は信頼しているし、誤解もしていたようだからさ。申し訳ない」
 
面と向かってけなされるのも嫌だけど、あやまられても返事に困る。
 
「入社したてのころは、自己啓発本ばっかり読んでいて、そのなかに『すぐにYESというな』って書いてあったんですよね。それを実践していただけなんですよ」
 
とわたしが言うと、すぐに一人の後輩が反応した。
 
「あ、そういう本を読んだことあります。先輩実践しちゃってたんですか」
 
しちゃってたんですかと言われても、本に書いてあれば実践するだろうと思った。
大半の本の名前は忘れたが、北陸の大学を卒業して、関東の会社に新入社員として入社した私は、自己啓発本にはまっていた時期があった。
当時は会社が寮を所有していたので、遠方から就職で上京したわたしは、寮にはいった。技術系での入社だったので、新人研修が6カ月あって比較的暇だったのと、うるさくいう親もいないので、暇つぶしもかねて本を沢山読んで教養を身につけようとがんばっていた。なぜなら、北陸を田舎と思っていたので、都会にでても馬鹿にされないようにしないといけないと思っていたからである。
 
さらに、入社して地元の方言のイントネーションが話題になったこともあった。今なら地方の文化にも注目されて、誇らしげに思える。しかし、当時は初めての都会暮らしだったので、余計に力がはいったのだろう。良い気持ちはしなかった。北陸の海を見て育ったわたしは、外見はおとなしそうに見えるが、心の中には荒波がうずまいていた。そのため、都会出身の同期に負けたくないと思って、手に取ったのが自己啓発本だった。
 
沢山の自己啓発本を読んだ中で気に入ったのは。すぐ行動しろというアドバイスだ。本当に成長したいならすぐ実践、すぐ行動という内容だった。それと、心にグサッときたのは、すぐに「YES」というな、いうアドバイスだ。自分の主張がないと思われてしまうので、必ず自分の意見を主張しろ、と書いてあった。すごく共感した。新入社員だからといって、すぐに「ハイ」と言ってはなめられると思った私は、システム部門に配属されるとすぐに反論することを実践し始めたのだった。
 
「きみさー、この書類に書いてあることをもう少し簡単にわかりやすくかいてくれないか」
 
「部長、それぐらいわかってもらえないと困りますよ。どこが難しいんですか? わかっている人が読む書類なので、そのレベルにあわせただけですよ」と反論していた。
 
またあるときは、
 
「進捗を報告してくれよ。間に合うのか、間に合わないのか、資料を出して欲しい」と課長に言われた時も
 
「課長、進捗のために資料を作りたくありません。何の意味があるんでしょうか。今は時間が惜しいのです。資料なんて作っている暇はありません」ときっぱりと断った。
 
いつしか、狂犬のようにかみつく新入社員が完成した。
 
「嫌です。そんな作業に時間を割いていては生産性があがりませんよ。もっとITを活用すべきです」
「潜在的なニーズや、ウォンツ(やりたいこと)をわたし達はつかむべきなんです」
「先輩、それは机上の空論ですよ。われわれはもっと現場にいくべきです。現場主義であるべきです」
 
というように、語尾に「すべき」を好んで使う人間になり、おそらく会社でも煙たい存在になっていたのだろう。誰もが腫れ物に触るように話しかけてくることが、尊敬していてのことだと勘違いして、わたしは天狗になっていた。議論をしても負けを認めもしないし、平気で目上の人にも意見を言うようになっていた。
 
さらに、2年目になって後輩ができても、後輩に負けまいと自己啓発本を読みあさっていたのだった。後輩が良い意見を言えば、必ず反論していた。しかも、自分の意見がとおらず、後輩の意見が通ったときでも、最後まで納得しなかった。本当に困った先輩になっていた。
 
しかし、こんな人間が、10年経つと上司や先輩からも信頼され、後輩の面倒見のいい人間になるのである。自分でも不思議だが、なにがわたしを変えたのか。
 
わたしがあえてとんがって暴走したのは、不安や負けん気のためだった。当時は本当に苦しんでいたのだ。反論したあとで、言って良かったかな、悪かったかなと反省したり、不安に思ったりしたこともあった。しかし、一度作ったキャラはなかなか変えられない。走り出したら止まらない暴走列車と同じだった。なにかのきっかけがないと、変わるきっかけさえも失ってしまう。
 
しかし、それだけ悩むと、同じような後輩が入社してきたときに気づくのである。
こいつも自分と同じだって。
 
4年後に配属された後輩が、自分と同じような狂犬だった。面白いこともあるもんだと思った。部署の人も手にあまる感じで、教育係を私にまかされた。まさに、狂犬対狂犬のおそろしい戦いになるとみんなが予想しただろう。しかし、ずっと読み続けていた自己啓発本も中堅管理職向けになってくると、リーダーの役割を考えさせる内容がでてくるようになっていた。頼られるリーダーや、上司の指示を翻訳して、下に伝えたり、目標を共有したりして、チームのモチベーションを高める内容だったり。
 
そこで、気がついたというより成長したのだろう。いつしか、会社のこともわかって心に余裕もできたのだろう。後輩の言うことにも耳を傾けながら、やさしい先輩になっていたのである。それに、後輩の指導を全力で考えていて疑問点があると、上司に相談するようにもなっていた。ビジネス本の内容をそのまま実践すると、敵を作りやすい時もあるが、ずっと読んでいくと、成長できている自分を発見できた。
 
結局後輩は転職してしまったが、全力で仕事をしようとしていたのだろう。同じ狂犬同士だったこともあり、共感できたところは多かった。とんがってきたからこそ、とんがっている後輩の気持ちもわかるし、わたしに手を焼いた先輩たちの気持ちも痛いほどわかった。
 
しかし、これだけは言える。最初から大人しく優等生になろうとして、仕事をしていても自分はこんなに成長できなかったと思う。キャラを変えてでもがんばろうとするのは、環境が変わるときぐらいしかチャンスがないのではないだろうか?
 
わたしは、新入社員の時にキャラを意図せず変えてとんがったおかげで、本気の付き合いを職場のみんなとできたと思う。その時の問題児になっても、いつしか頼れるリーダーになったりすることは可能だった。逆に、いろいろな失敗を経験できるうちにしておく必要がある。新入社員だからできる失敗があるはずだ。。知らないから知らないといって堂々とチャレンジできるときだろう。わたしはあまり意識せず、自己啓発本を読みながら無我夢中でやってきた。結果的にはそれが功を奏して、先輩に迷惑をかけたが、それが人間関係を作ってくれたと思う。
 
今思えば、自己啓発本がわたしをとんがらせて成長させた打ち上げ花火だった。
わたしを未知なる社会人の世界に高く打ち上げてくれたのだ。
 
今年から社会人になる新入社員の人には、これだけは送りたい!
何事も恐れず、会社でとんがって欲しい。後先考えずにチャレンジすることで、その後の社会人生活も充実するだろう。そのきっかけは自己啓発本でもいいし、なんでもいいと思う。知らないことを強みにして一番でる杭になれ。
 
今こそ新しい自分にチャレンジできる時。
とんがれ、新入社員のみんな!

 
 
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2019-04-15 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.28

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